団地と老人、フランスに現存する「20世紀の団地」とそのユートピアの残り香

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かつてユートピアを夢想して建てられた巨大な建築物は、SF映画に登場する未来的な施設のようだ。が、実際は老朽化が進み取り壊されつつある。写真家がとらえた建物群と老人のコンポジションは、未来とも過去ともつかぬ世界を描き出す。

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2/16ジョセフ、88歳、レ・エスパス・ダブラクサス、ノワジー=ル=グラン、2014。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

3/16アラン、80歳、レ・ダミエ、クールブヴォア、2013。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

4/16ル・パヴェ・ヌフ、ノワジー=ル=グラン、2015。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

5/16ジャン、89歳、ピュトー・ラ・デファンス、2011 PHOTOGRAPHS BY LAURENT KRONENTAL

6/16レ・オルグ・ドゥ・フランドル、パリ19区、2014年。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

7/16ジョゼ、89歳、ピュトー・ラ・デファンス、2012年。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

8/16ジャック、82歳、ル・ビアデュック・エ・レザルカード・デュ・ラック、ル・ヴィアモンティニー=ル=ブルトンヌー、2015年。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

9/16ジョゼ、89歳、レ・ダミエ、クールブヴォア、2012。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

10/16ドゥニーズ、81歳、シテ・スピノザ、イヴリー=シュル=セーヌ、2015年。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

11/16レ・トゥール・アヨー、シテ・パブロ・ピカソ、ナンテール、2014。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

12/16ジョセフ、88歳、レ・エスパス・ダブラクサス、ノワジー=ル=グラン、2014。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

13/16ジョゼット、90歳、ヴィジョン80、エスプラナード・ド・ラ・デファンス、2013年。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

14/16レ・トゥール・アヨー、シテ・パブロ・ピカソ、ナンテール、2013。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

15/16ローランド、85歳、レ・ザルカード・デュ・ラック、モンティニー=ル=ブルトンヌー、2015年。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

16/16ドゥニーズ、81歳、シテ・デュ・パルク・エ・シテ・モーリス・トレーズ、イヴリー=シュル=セーヌ、2015年。PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL

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ローラン・クローネンタルの作品「Souvenir d’un Futur」に登場する巨大なコンクリートの建物群は、大ヒットした未来的なSF映画の世界から飛び出してきたかのように見える。だが、これらは60年以上前から存在しており、しかもパリのすぐそばに位置している。

「グハンダンサンブル」(grand ensemble)として知られるこの建物群は、フランスが戦後、深刻な住宅不足に対応するために生まれた。1954〜73年の間、フランスは首都周辺の郊外に公共住宅を建設している。このタワー構造の建物は約600万世帯を収容する。モダニズム建築は人々の生活を改善し理想郷をつくる手助けとなりうるという、当時流行した思想を具現化させたものだった。「人々が大都市の喧騒から逃れて快適に暮らす場所として、これらの建物は称賛されたのです」とクローネンタルは話す。

クローネンタルは「レ・ダミエ」と呼ばれるグハンダンサンブルが建つパリ郊外のクールブヴォアで暮らしている。彼は地下鉄の駅に行く途中でこれらの建物の横を頻繁に通っていて、この巨大なレゴのような形状の魅力に気がついた。「こうしたビルには、レトロフューチャーな雰囲気があります。過去と未来の間でさまよっているような感じがします」と彼は言う。

2011年、クローネンタルはレ・ダミエやパリ周辺のほかの公共住宅の写真を撮り始めた。彼はすでにグハンダンサンブルの写真を多く撮影しているが、さらに撮影を続けていく予定だという。大判のフィルムカメラを使用し、早朝、辺りに出歩く人が少ない時間に撮影を行う。彼は季節ごとにこの場所を訪れ、変化する光の中でこの建物群を撮影している。

作品は、不気味な美しさを湛えている。ノワジー=ル=グランにあるリカルド・ボフィルが設計した「エスパス・ダブラクサス」はギリシャ建築に影響を受けた巨大な建物で、伝統的でありながら異様にも見える(映画『ハンガー・ゲーム FINAL』の第1作で国会議事堂として使用されている)。最も奇妙なのはナンテールにある「トゥール・アヨー」かもしれない。エミール・アヨーが設計したこの建物はスイスチーズのような模様を描いていて、最上部にピラミッドがある円形のタワーが特徴的だ。

クローネンタルはこの建物に住む年配の人々も撮影している。彼らは自分の家の中、あるいはその近くにいるのだが、その姿は卵型のアーチや巨大な灰色のバルコニーの中では小人のように見える。

PHOTOGRAPH BY LAURENT KRONENTAL
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グランド・アンサンブルにはさまざまな世代の人々が暮らしているが、最古参の住人たちだけが発する、どこか魅力的な雰囲気を彼は追い求めている。「過去と未来の混在するパラレルワールドのような雰囲気をつくり、いつか起きる大規模な戦争で最後に生き残った老人しか住んでいない街という印象を意識的に伝えるようにしたいのです」と彼は話している。

結局のところ、グランド・アンサンブルはモダニストが構想した理想郷にはなっていない。貧困や犯罪がこのプロジェクトの悩みの種になるのにそう時間はかからなかったという。フランスは73年にこの事業を中止したが、一部は80年代まで建設が続いた。その多くがすでに取り壊されており、順次、さらに多くの建物が取り壊される予定だ。だが、クローネンタルはこれらの建物は称賛に値するものだと考えている。

「この建物には驚かされました。同じようなものはどこにもないんです」と彼は言う。「当然、保存されるべきものですよ」

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