日本でも海外でも電車に乗る際にマナーを守れない人がいる。駆け込み乗車や無理な乗車という行為は、他人に迷惑をかけるだけでなく、一歩間違えば本人も危険に巻き込まれてしまう。これら注意を呼びかけるため、鉄道各社は駅構内にポスターを掲げ、乗客にマナーを呼びかけることがある。



日仏のポスターを比較してみると……


例えば東京メトロのマナーポスター。月替わりで更新され、2016年度の場合、7月は「順序良く列に並んで乗車しましょう」、8月は「車内での大きな荷物の取り扱いには注意しましょう」、9月は「歩きスマホなどはせず周囲に注意して歩きましょう」といった具合に展開されている。




じつはこのようなポスター、フランスにも存在する。マナーの定義はその国の文化によって異なることがあるものの、禁止行為や人が他人からされて嫌だと感じる行為は、人間なら大枠で共通することが多い。そのため注意を呼びかける内容も似ている。

パリの地下鉄やパリを中心とした近郊路線を運営するパリ交通公団(RATP)が今夏掲げていたマナーポスターは、「駆け込み乗車はやめましょう」「混雑時の無理な乗車はやめましょう」「扉が閉まる音が鳴ってからの降車はやめましょう」といった内容だ。日本と同じくイラストを用い、「不注意による重大な事故が毎日起きている」ことを喚起する内容だ。



これら2カ国のポスターを比較してみると、イラストという点で共通しているものの、それぞれの表現方法には国柄がとても出ている。

自分が主体か他人が主体か


まずフランスマナーポスターは、日本のものと比べてブラックユーモアがとても効いている。

ウェディングドレス姿の手をつないだ新郎新婦が電車に駆け込んだら、オチのコマでは新婦がブラックドレスの未亡人になっているとか、手品師が電車の扉が閉まる間際に人の入った箱を押して出ようとしたら、出る前に扉が閉まり、人の入った箱の胴体より下半分が車内に残ってしまった、といった内容だ。




啓蒙の仕方にも大きな違いがある。日本のイラストは、一貫して「マナー違反をすると他人が迷惑しますよ(だからやめましょう)」というスタンス。一方でフランスは「マナー違反をすると自分がその報いを受けますよ(だからやめましょう)」という形だ。つまり自分と他者の関係性おいて、他者を優先する社会か自分を優先する社会かということで、日仏の国民性の違いが、こんなところに現れている。



両者とも結論は共通しているが、そこに至るアプローチが違うため、求める先が同じでも異文化間だと当然意見の食い違いや、そこから生じる不満が出てくる。日本人はフランス人に対し「フランス人は人のことを考えない」と感じ、フランス人は日本人を見て「一体あなたはどうしたいのか? 」と思う。文化の違いは面白い。
(加藤亨延)