青山学院大学のそばの渋谷二丁目のエリアは、グルメなら押さえておきたいレストランがなぜか多く集まっている。渋谷駅や表参道駅から徒歩で10分くらいかかる立地だが、「わざわざこの店に足を運びたい」と思わせてくれる名店ぞろいなのだ。閑静で落ち着いた雰囲気で、お店もお客もこだわりがある「渋谷二丁目」の大人向けレストランをご紹介しよう。



カウンター席前の鉄板で焼き上げるステーキは、単品で80g からオーダー可能。サーロイン、ヒレやシャトーブリアンも用意
名店の味をお手頃価格で!厳選山形牛の店『加藤牛肉店 シブツウ』

渋谷


言わずと知れた肉の名店『加藤牛肉店』が支店をオープンするのに選んだのもこのエリアだった。

渋谷2丁目の住所にちなんで名づけたという『シブツウ』では、『加藤牛肉店』を象徴する山形牛の雌牛のステーキや自家製のシャルキュトリーをリーズナブルに味わうことができる。

予約が取れない人気の銀座店はコースが主体だが、こちらはアラカルトのみの提供。

ポーションを少なめに設定し、コロッケやメンチカツなどの惣菜類を充実させることで、もっとカジュアルに山形牛を楽しんでもらいたいという思いを実現させた。一度は足を運んでみたい店だ。




炭焼コンフィのメニューは和牛イチボ(写真)のほか、スペアリブ、トンテキ、合鴨のもも肉、ポークミートボールなど全6種
炭焼きコンフィとワインの鉄板マリアージュ『マルザック』

表参道


このグルメエリアでも常に満席の繁盛店がこちらの『マルザック』今夜は肉で飲もう!という気分の時に訪れたい店だ。

店名には「炭焼コンフィとワインの店」と冠されている。超人気店ゆえ、あらかじめ予約するのが無難だが、スタンディング席もあるのでこのエリアのはしご使いで、気軽に立ち寄ってみるものもアリかもしれない。

メイン料理の中でも人気なのが、「和牛イチボの炭火コンフィ」。「炭焼コンフィ」とは、肉をラードやオリーブオイルなどの油で食材をじっくりと煮てうまみを閉じ込めた後、最後に炭火でパリっと炙るこちらの人気の製法。和牛の旨みが口の中で弾け、赤身独特の噛みごたえも抜群だ。

黒板の「本日のグラスワイン」の中から選べる赤ワインも、リーズナブルなのに味わい深く、心地良く牛の脂を流してくれる。




〆の定番「ローメン」。豚挽肉、紹興酒、鶏ガラスープ、オイスターソースの旨味を吸った麺の味は、やみつきになる
沖縄×中国のハイブリッド料理『琉球チャイニーズ TAMA』

渋谷


閑静なこのエリアで深夜でもにぎわっている人気店がこちらの『琉球チャイニーズTAMA』。沖縄出身の母と中国出身の父を持つオーナーシェフの玉代勢さんが、実家の家庭料理をベースにアレンジした料理が評判の店だ。

入口付近にカウンター席があり使い勝手が抜群。奥のテーブルが空くまではカウンターの隙間を見つけて立ち、まずはオリオンビールで乾杯を。

リュウキュウチャイナと称するメニューには、島ラッキョウ、自家製腸詰、琉球麻婆豆腐などが並ぶ。どれもここでしか味わえないオリジナリティがある絶品ぞろい。

お楽しみには〆の炭水化物メニューだ。オイスターソースなどの旨味をたっぷりと吸ったローメンには、ワインよりビールが合う。温かい麺と冷たいビールがたまらない。この店は渋谷二丁目を明るく照らす深夜のオアシスだ。


シチリア、ナポリ、スペイン。みんな大好き地中海料理も渋谷2丁目で!



鰯とウイキョウのカサレッチ
渋谷二丁目を象徴する店『トラットリア・シチリアーナ・ドンチッチョ』

渋谷


この渋谷二丁目を象徴するのがこの店かもしれない。太陽の輝きを感じさせるような明るさと力強い味わいと、どこか懐かしい温もりに溢れたシチリア料理。その醍醐味を存分に楽しめるのがこちらの『ドンチッチョ』だ。

数ある名物料理の中でも1、2を争う人気メニューが、ご覧の“鰯とウイキョウのカサレッチ”。石川シェフによれば「日本で言えば、カツ丼みたいに、シチリアではどこにでもある庶民的なパスタ」だそうで、味の決め手は何といっても鰯とウイキョウのバランス。

なるほど口にすれば鰯が持つ青魚特有のコクのある旨みとエキゾチックなウイキョウの香りが、互いの個性を引き立てあいつつパスタとよく絡み、噛み締めるほどに、しみじみとしたインパクトを舌に残す。見た目は地味ながら、トマトの仄かな酸味や麺を口にした時の程よいウェット感など細やかな味への配慮が、完成度の高いひと皿を生み出している。

毎日食べても飽きない味わいに、二度三度と足を運びたくなる。




「ガディスのひよこ豆と魚貝の鍋」は南部の料理。豆料理は、スペインの定番。つぶした海老の頭やアサリから出たたっぷりの旨味が豆にしみ、辛いパプリカでピリッとアクセント。メニューは一例
サッカースペイン代表も愛する名店『エル・カステリャーノ』

渋谷


地の食材をそのまま鍋に入れ、味付けはシンプルに。そんな抜群な素朴さが、スペイン家庭料理の良さだと語る店主。こちらの『エル・カステリャーノ』は、サッカーのスペイン代表チームが来日すると試合前に訪れる店だ。理由は、スペイン人の誰もが知る味が食べられるからだという。写真の魚介の鍋はスペインの定番の母の味。これを目当てに足を運ぶ人も多い。

オープンは35年以上も前、日本に初めてスペインの家庭料理を伝えたのが、店主のビセンテ氏。息子のビクトル氏も「僕も日本にスペインの食文化を伝えたい」と父と同じ29歳でアロセリア(米料理専門店)『サル イ アモール』を開業した。

店主いわく「食事はみんなで揃って、がスペイン流。レストランに行く前にバルで食前酒をやりながらメンバーを待つ。だから、はしご文化があるんです」。揃ったらみんなでワインで乾杯。スペインの食文化をもきっちり教えてくれる、ビセンテ氏なのだ。




ルッコラとカラスミパウダーをふんだんに使った「ナポリマニア」はサラダ感覚でライトに楽しめる
本場ナポリの味と雰囲気をそのまま再現『ナポリマニア』

渋谷


このエリアにも、近年は気さくなカフェやバルが増えつつある。中でも人気なのが2011年4月末にオープンしたピッツェリア『ナポリマニア』。生粋のナポリ人とイタリア各地で修業した料理人がタッグを組んだ店で、入口付近のカウンターはバルと呼ぶのがふさわしいオープンな雰囲気。

看板メニュー「ナポリマニア」は、トマトソースにルッコラ、小エビ、ニンニク、カラスミをトッピングしたピッツァで、チーズを使っていないため重くなく、程よくお腹も気持ちも満たされる。石窯で焼かれたモチモチのピッツァ生地は、縁が盛り上がったナポリスタイル。

壁に掛かったナポリの風景写真を眺めつつ白ワインのカラフェを傾け、このエリアでもう一軒ハシゴしたくなる。


ミシュラン星付きも!さらなる美食の深遠へ



魚介類のタルタルを詰めたアボカドドーム 柑橘類ヴィネグレットソース。濃厚なアボカドと柑橘系の酸味が絶妙にマッチ。メニュー季節などにより異なる。写真は一例
渋谷2丁目の路地裏に静かに佇む本格フレンチ『モノリス』

渋谷


本格フレンチが味わいたい時にはこちらへ。2010年にオープンした『モノリス』は、足繁く通う地元ファンも多いフレンチレストラン。この路地裏の名店には、毎夜、本物を知る大人たちが集う。

オーナーシェフ・石井剛氏は『モナリザ丸の内店』で腕をふるい、料理長就任後も、多くの美食家たちから賞賛を得てきた確かな腕の持ち主。中学生時代に三國清三シェフに憧れてフランス料理人を志望し、王道のフランス料理を極めると決意した。25歳で渡仏してからの4年間は、星付きのレストランの前線で腕を磨いたという。

そんな石井氏のベースとなるのは、言うまでもなくクラシカルなフランス料理。『モナリザ丸の内店』で学んだ色合いの繊細さと、伝統に裏打ちされた骨太な味、そこに自らの解釈を加えつつ深化させたひと皿は、たおやかな見た目ながらも、氏の歩んできた道を色濃く映し出している。夜のコースは4種類。前菜からデザートまで、石井氏がナビゲートする美食の旅を心ゆくまで楽しみたい。




同郷のふたり。岩手出身のイタリアンの雄、『トラットリア シチリアーナ ドンチッチョ』石川勉シェフ(右)と、『ガンヴィーノ』を取り仕切る遠藤悟シェフ(左)
都心に居ながらほっとできる岩手の味を『ガンヴィーノ』

表参道


先に挙げた『トラットリア シチリアーナ ドンチッチョ』石川勉シェフがこのエリアに開いた二軒目がこちらの『ガンヴィーノ』。岩手出身の石川シェフ、同郷の遠藤悟シェフを店主に据え、岩手の食材とワインでもてなす店を開いた。

「故郷を思う気持ちが、50歳になって芽生えてきた。だから、岩手の産物で何かやりたい、と前から考えていたんです。」と石川シェフ。店名の『ガンヴィーノ』の「ガン」は岩手の「岩」だ。イタリアン風の店内だが「居酒屋チック」な店と思って、と遠藤シェフ。



左.伝統の南部鉄器でじっくりと焼き上げられる、美味しそうな豚肉
右.三陸海鮮冷麺。わかめを練り込んだ冷麺に、エビ、ホタテ、カクテキ、メカブなど具沢山

冷麺あり、ひっつみあり、岩手のお漬物ありと、郷土色が豊かだ。中でもイチオシは、岩中豚肩ロースの南部鉄器焼きである。南部鉄器は岩手を代表する伝統工芸品。温度ムラがなく、冷めにくく、焦げ付きにくいのが特徴。この南部鉄器のグリルパンで、豚肉をじっくりグリルする。都心にいるのに、田舎に来たようにほっとする店だ。


自分の店の営業後にシェフが集まる店『琉球チャイニーズTAMA』や、『ドンチッチョ』と『ガンヴィーノ』の関係など、シェフどうしのつながりも深いのがこの渋谷二丁目。いい店がいい客を呼び、いい客がまたいい店を作り、何年もかけて愛され続けている街なのだ。

大人のグルマンの間だけで秘密にしておきたいエリアである。