1月20日、アジアカップのグループリーグ最終戦が行なわれ、日本はヨルダンに2−0で勝利。3戦全勝でグループリーグ首位通過を決めた。

 危なげない勝利だった。

 勝つか引き分けで首位通過が決まる一方で、負ければ首位通過の可能性は消滅し、さらにはグループリーグ敗退の危険性もあった日本。それほど楽な気持ちで臨める試合ではなかったはずだが、序盤からほぼ試合をコントロールし続け、ヨルダンをやすやすと退けた。

 この日の日本はピッチを横に広く使ってボールを動かし、サイドを深くえぐったり、中央に切れ込んできて細かくパスをつないだりと、多彩な攻撃で相手ゴールに迫った。キャプテンの長谷部誠が語る。

「今日の相手(ヨルダン)は中盤がひし形で、真ん中に選手が集まる布陣だったので、サイドにスペースが空くことは分かっていた。一度サイドに起点を作って、そこから中で仕留めるということは考えていた」

 まさに先制点は、この言葉どおり。一度大きく左サイドへボールを展開してから中央でパスをつなぎ、瞬間的な縦へのスピードアップから岡崎慎司のシュートが生まれ、GKが弾いたところを本田圭佑が押し込むに至った。

 長谷部がグループリーグ全体を通じて、「チャンスの割にゴールが少なかった」と課題を挙げたように、ゴール数に関しては物足りなさが残るものの、裏を返せば、そう感じさせるほどコンスタントに決定機を作れていたということでもある。細かなパスのつなぎにこだわるあまり、むしろ攻撃が停滞したザッケローニ前監督時代の晩年と比較しても、改善が進んだ印象を受ける。

 また、3試合連続無失点が示すように、守備も安定している。長谷部は、「アギーレ監督からはしつこいくらい、『失点は絶対にゼロで抑えろ』と言われている」と話し、「チーム全体として守備の意識は高くなっている」と実感する。

 センターバックの吉田麻也も、「前線でボールを奪われた後の(攻撃から守備への)切り替えの速さは素晴らしいと思う」と、無失点が続いている要因について語っていたが、実際、過去に何度も苦しい試合を強いられてきた狡猾なヨルダンと対戦しても、危険なカウンターを受けることはほとんどなかった。

 対戦相手のレベルという意味で、多少割り引いて考える必要はあるとしても、攻守においていい試合内容のグループリーグ最終戦だった。そんな戦いぶりに、長谷部は手応えを口にする。

「チームは成長していると思う。(優勝した前回大会の)2011年のときより攻撃のバリエーションも多いし、選手個々も成長している。余裕を持ってゲームができている」

 ただし、この勝利によって大会連覇への期待が大きく高まったかと言えば、話はそれほど単純ではないと思う。

 この大会、日本はグループリーグ3試合すべてを同じ先発メンバー11名で戦っている。さらに言えば、交代出場の3名のうち、試合展開に関係なく2名(清武弘嗣、武藤嘉紀)までは同じだ。つまり、実質的には13名(先発11名+交代2名)の固定メンバーでチームが成り立っている状況にある。

 優勝のためには20日間で6試合を戦わなければならない"異常な大会"を、本気で勝ち上がろうと思っているなら、ここまでの選手起用はとても賢明とは言い難(がた)い。

 昨年のワールドカップを見ても、全7試合で登録23名全員を出場させた3位のオランダを筆頭に、チームによって程度の差こそあれ、選手をローテーションさせて起用していくことが勝ち上がりの重要な要素となっていた。優勝したドイツにしても、グループリーグでは毎試合のように先発メンバーを入れ替えている。

 もちろん、固定メンバーで戦えば、安定した戦いが計算できるというメリットはあるだろう。しかし、それを続ければ相手に研究されやすくなり、いずれ自らがガス欠を起こす。だからこそ、うまく選手を"回していくこと"が必要なのだ。

 本来であれば、グループリーグでは選手を回して疲労を分散させつつ、その大会でのコンディションや調子を含めてベストメンバーを探り、一発勝負の決勝トーナメントに入っていくのが理想の流れである。

 今大会の日本は強い。優勝候補の前評判にふさわしい戦いを見せている。だが、そんな見た目のよさとは裏腹に、日本は限られた選手に負担を集中させている。これから先、対戦相手のレベルが上がっていく中で、日本はパフォーマンスを落とす可能性が高い。

 しかも、次の準々決勝・UAE戦までは中2日。日本は今大会最短の試合間隔で次戦を迎えなければならないうえ、対するUAEは中3日と、1日分のアドバンテージを持っているのだ。

 メンバーが固定されていることについて長谷部は、「それは監督が決めること」だとしながらも、「交代で出場した武藤(嘉紀)がアシストで結果を残しているし、チーム総力戦で戦っているという感覚はある」と話す。吉田もまた同様に、「(負傷者や退場者を頻繁に出した)前回のアジアカップの教訓もあるし、チームの総力戦だと思っているので、みんなで戦い抜きたい」と、総力戦という言葉を強調する。

 ところが、アギーレ監督が信頼してピッチに送り出すに足る選手は、実のところ、13名程度しかいない。3試合の選手起用からは、そんな現実がうかがえる。

 1ヶ月足らずの短期決戦を制するカギは「総力戦」。にもかかわらず、日本はその準備を怠ったまま、グループリーグを終えてしまったように思う。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki