世界でも評判の高い日本産の干しあわび。小型といっても本来は標準サイズ。充分食べごたえのあるサイズ

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世界三大珍味といわれるのは、トリュフ、キャビア、フォアグラ。それでは、中華三大珍味といえば? 一般的に挙げられるのは、フカヒレ、燕の巣、そして、干しあわび。

どれも高級食材というイメージが強いが、なかでも珍重されるのは、干しあわびだろう。日本では中華料理店くらいでしかお目にかからないうえ、メニューには「時価」と表示されていることも多く、おいそれと頼めない。

干しあわびとは、あわびを茹でて乾燥させたもの。乾燥させることで風味がギュッと凝縮し、噛めば噛むほど旨みがにじみ出てくる。ちなみに食べるときは水で戻すのだが、中国や香港には戻すことを専門にする「戻し屋」のような職業もあるらしい。

そんな干しあわびだが、日本が世界的な名産地であることは意外に知られていない。なんと中国の干しあわびの約9割は日本産といわれ、なかでも青森県や岩手県で獲れる天然の蝦夷あわびは最高級品として名高い。

それほどまでの名産地にもかかわらず、日本国内では干しあわびをほとんど見ない。なぜか? 実は大型の干しあわびは、ほぼ100%、海外に輸出されているのが現状。そのため、日本の中華料理店などは中国や香港から干しあわびを逆輸入しているのだ。

中国の人たちの干しあわびへの思い入れは強く、日本の漁業者に対する色・形・大きさなどの注文もきびしい。基本的に欲しがるのは大型あわびのみ。小型であっても味にほとんど遜色はないのだが、なかなか販売には結びつかないのだという。

だが、実際には漁獲量の70%が100〜150グラム程度の小型サイズ。それらは主に日本国内で消費されるのだが、国内での干しあわび需要はほとんどないため、「活あわび」として販売されている。活あわびは、干しあわびのように長期保存ができず、漁獲から出荷までのコストも高い。漁業者にとっては負担が大きくなり、悩ましいところだった。

そんなあわび市場の現実を知り、どうにかできないかと立ち上がったのが、中国料理店「南国酒家」の宮田順次社長である。2008年から同社が開催している「美味しいもの日本」というイベントで、干しあわびを生産する青森県尻屋漁業協同組合と出会ったことをきっかけに、小型サイズのあわびを使った日本国内向け干しあわびの開発に着手。先日、ようやく商品化にこぎつけた。

ちなみに南国酒家といえば、酢豚にパイナップルを入れたり、レタスをチャーハンに入れたりした元祖。こうしたチャレンジ精神は今に始まったものではない。

今回誕生した国内産向けの干しあわびブランド名はふくあわび 。黄金色の小判のような姿から、食べる人に福と富をもたらすように、という願いが込められているという。「南国酒家」原宿店のメニューとして供されるほか、「ふくあわびの姿煮」(2,800円/税別、5月中旬発売予定)など家庭で気軽に食べられるレトルト商品3種も発売予定。いずれも小型サイズのあわびを利用することで、価格は相当リーズナブル。味もレトルトとは思えない本格派だ。

これまでになかった国内産の干しあわびブランドの誕生には、すでに世界各地でレストランを展開するNOBUこと松久信幸シェフなども興味を示しているという。また、この先進的な取り組みは国にも認められ、農林水産省と経済産業省がおこなう平成22年度「農商工等連携事業計画」の認定も受けている。今後はさらに干しあわびの日本国内への普及・流通の拡大をめざし、さらには海外輸出も実現していきたいという。

これまでなかなか手の届かない存在だった干しあわび。この取り組みを通して少しずつ日本人にも身近な存在になっていくのかもしれない。
(古屋江美子)

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■ふくあわび FUKU-AWABI