ノートパソコンとタブレット型PC、スマートフォン、携帯電話を場面に合わせてフル活用している。通常のメール処理はスマートフォンで。

写真拡大

■主役はスマホとPC、紙の手帳は使わない

経営者にとって大切なのは、意思決定のスピード化と最適化です。この2つは別ものではありません。意思決定が迅速なら、たとえそれが間違っていてもすぐに次の策が打てます。つまり、意思決定が速ければ速いほど、最適な解に早く到達することができるのです。1カ月に10の意思決定をするトップと、100のトップとではどちらが1年後に正しい経営判断ができているかといったら、それは間違いなく後者だと私は思います。

社内の「報・連・相」も同様です。相談にはフェイス・トゥー・フェイスでじっくり時間をかけますが、報告と連絡に関しては、やりとりの回数を増やしたほうが中身の質は確実に高まるので、やはりスピード重視を心がけています。たとえば経営会議にかける前の資料のチェックなどは、社内イントラネットの共有フォルダにデータをアップし、メールで簡単に「ご確認お願いします」とだけ知らせてもらうようにしています。あとは私が勝手に資料を確認し、修正ポイントを指示していきます。いちいちメールに資料を添付し、そのつどメールの文面を練ってやり取りするよりも格段にスピードが上がりました。

こういうときが典型ですが、社内メールでは虚礼廃止を徹底しています。資料のアップを知らせるメールに、部下が「社長、お忙しいなか大変申し訳ございません」などと付け加えることはありません。

私からのメールも簡潔を旨とします。「結論を明確にする」「理由を3つ挙げる」というのが私のルールです。理由を「3」としたのは、4つ以上書くとかえって伝わりにくくなるからです。また「3つにまとめる」と決めておけば、何を優先するか、どういう表現をとるかを常に考えていなければなりません。その過程で私自身の頭のなかも整理されていくのです。

こうした日常のメールのやりとりはスマートフォン、普段思いついたことを記録するのは携帯電話(ガラケー)のメモ機能、家でメールや資料を見るときはタブレット型PC(iPad)、会議に持ち込むのはノートパソコンと、書くための道具は自然に使い分けています。紙の資料に書き込むためにボールペンやマーカーも持ち歩いてはいますが、手書きの手帳は使いません。

■役立ったことをどう表現するか

会議では参加者の発言を聞きながら、それに対して自分がどう発言するか、どう行動するかをノートパソコンに打ち込んでいきます。他人の発言を記録することは99%ありません。経営者は会社の将来を見据えて、さまざまな意思決定を行う責任を負っています。その立場からすると、将来どう行動するかが大事であり、過去の発言内容などはあまり重要ではないのです。

もちろん私にも、相手の発言や出された意見などをせっせとノートに書きとめていた時期があります。若いうちは上司や先輩に言われたことや、会議で重要だと感じた意見などを、きちんと書き残しておく習慣が必要です。私も49歳で執行役員に任じられ、責任を意識しだした頃から現在のやり方にスイッチしました。

能の言葉に「守破離」というものがあります。まずは上司や先輩のやっていることをそっくり真似る「守」、次はほかの方法も試してみる「破」、そして最終的には、それらにとらわれず、自分独自のやり方をつくりあげる「離」。この段階を踏んで、一人前の能役者になるということです。メモや書き方にかぎらず、守破離はビジネスにも通用する考え方だと思います。

お礼状を書くとき、相手に合わせてメールまたは手紙を出します。その際に気をつけているのは、相手の言葉や行動から「学んだこと、役立ったこと」を具体的に示して感謝するということです。メールなら、会食なりゴルフのラウンドなりの翌朝1番に、簡潔なお礼のメールを送ります。手紙なら、部下が用意してくれたお礼状の余白に、手書きで一言書き添えます。

たとえば先日一緒にゴルフをしたお得意様は、玄人はだしの腕前でした。私もその方のアドバイスに従ってみたところ、スコアがぐんとアップしたので、翌日すぐに「あのレッスンのおかげで開眼しました」とメールを送ったら、たいへん喜んでくださいました。

■学ぼう、成長しようという姿勢が大切

会食後のお礼にしても、「美味しいお食事でした」という茫洋とした感想ではなく、たとえば会話の内容から学んだこと、自分に役立ったことを抽出して具体的に記します。若い人のなかには「そうはいっても、それが難しいんですよ」とぼやく人もいますが、次のような考え方を持てば、おのずと書くべきことが見えてくるはずです。

人は勉強を怠らなければ一生成長し続けることができるし、それが喜びだと私は思っています。そして最高の学びの機会は、人との出会いのなかにあります。ですから私は、人と会うときはいつも、今日はどんな勉強をさせてもらえるのだろう、あるいは、どんなことに気づかせてもらえるのだろうとわくわくしながら相手の話に耳を傾けます。

そう考える習慣を持つことで、「学ぶことができた」「成長できた」と実感できるようになるはずです。そして実感できれば、自分なりの言葉で学びの中身を表現することは容易です。守破離でいえば離。お礼状に添える一言も、成長の証しといえるのです。

----------

小路社長の流儀
1 仕事の際、よく「メモ」を取るか
取らない
2 「手帳」はアナログ派orデジタル派?
デジタル派
3 手帳やメモを、見返すことがあるか
ない
4 メールを記すとき、注意することは?
返信や対応のスピードを重視。なるべく翌日には返信ないしリアクションをするようにしている
5 年賀状以外に、手書きの「手紙」や「礼状」を書くか
印刷した文面を使うが、必ず手書きで1〜2行加える
6 社会人になってから「日記」を書いたことがあるか
ない
7 自分だけの「虎の巻」をつくったことがあるか
ない

----------

----------

小路明善(こうじ・あきよし)
1951年生まれ。青山学院大学法学部を卒業後の75年入社。2001年執行役員。アサヒ飲料常務取締役やアサヒビール常務取締役などを歴任し、11年アサヒグループHD取締役兼アサヒビール社長、16年から現職。
 

----------

アサヒグループホールディングス 社長 小路 明善 構成=山口雅之 撮影=永井 浩)