50歳まで現役生活を続けた元中日ドラゴンズの”生ける伝説”山本昌氏が、甲子園で活躍した有望投手を分析する恒例企画。昨夏、山本氏が高く評価した藤平尚真(横浜高→楽天)は、早くもプロの舞台で一軍戦力として活躍している。今年もそんな山本氏の眼鏡にかなう投手はいたのか? 10人の投手を一斉にレビューする。


甲子園では全試合リリーフで登板し、優勝の立役者となった花咲徳栄・清水達也

清水達也(花咲徳栄高/右投右打)

甲子園ではリリーフとしてチームを優勝に導いた投手ですね。体を大きく使う珍しい投げ方ですが、最速150キロとこれだけ速い球を投げられるのは素晴らしいこと。すごい素質、将来性を感じます。体の力は申し分ないので、あとはもう少し体重移動がスムーズにできるようになるといいですね。もっと前で、捕手に近づいてボールをリリースできるようになれば、すっぽ抜けが減るはずですし、タテの変化球が今よりも落ちるようになるはずです。もっとすごい投手になれる潜在能力がありますよ。


初戦で昨年の覇者・作新学院を1失点に抑え、勝利に貢献した盛岡大付の平松竜也

平松竜也(盛岡大付高/右投右打)

体が大きくて、いかにも馬力のありそうな投手ですね。彼の素晴らしいポイントは、肩を大きく回して腕を振っているところ。これからさらに体に力がついて、フォームを追求すればもっと球は速くなるはずです。フォームで改善したい点は、体重移動する際に右肩が下がって、左肩と水平になる前に投げにいっていること。この投げ方だと左肩を逃がし(開き)ながら投げるしかないのでシュート回転しますし、ボールが高めに浮きやすい。両肩が水平になるまで我慢できるようになれば、もっと指にかかったボールがいくようになるはずです。


春夏連覇は果たせなかったが、抜群の制球力でスカウトを唸らせた大阪桐蔭・徳山壮磨

徳山壮磨(大阪桐蔭高/右投右打)

一言で言うなら「勝てる投手」。スピードはさほど目立ちませんが、とにかく外のコントロールが良くて、フォークもしっかり腕を振って投げられる。腕が耳の近くを通って出てくるのもいいですね。左足を着く間際にピョンッと跳ねるような特殊な使い方をしますが、この足の着き方自体は問題ありません。ただ、体の左側の開きが早くなって、シュート回転が強くなってしまうのは改善ポイントですね。


今回、山本昌氏が絶賛した前橋育英のエース・皆川喬涼

皆川喬涼(前橋育英高/右投右打)

大恩ある荒井直樹監督(日大藤沢高時代の1学年先輩)が指導しているだけあって、さすがにいい投手ですね(笑)。ポイントは体の強さと投手らしいセンスを感じること。フォームは体を大きく使いながら、ゆったりと体重移動できて、ボールを高い位置でリリースできる。右打者の外のコースに向けてしっかりライン(投手が投げる際に使う空間の幅のこと)が作れているので、コントロールも安定している。課題を強いて挙げるなら、バックスイングで腕が伸び切ってから、内側に少しひねりがほしいかなと。今は腕がほどけるのが早いので、よりボールに力を伝えられるようになるはずです。非常に将来性があって、僕のなかではイチオシですね。


甲子園のあとに行なわれたU-18W杯でも活躍した秀岳館・田浦文丸

田浦文丸(秀岳館高/左投左打)

甲子園では足が痙攣(けいれん)するアクシデントがあり、いかにも軽く投げていましたが、U-18ワールドカップでの投球は素晴らしかったです。彼のいいところは、真っすぐとスライダーで腕の振りが変わらないところ。バッターは幻惑されるはずです。小柄ですが体に力があって、ストレートが強い。勝ち気なマウンドさばきも見ていて痛快です。惜しいのは、チェンジアップで腕の振りが少し緩むこと。真っすぐと同じように腕を強く振って投げられると、さらに打ちづらい投手になりそうです。上の世界でもリリーフが向いているでしょうね。


左から140キロ台後半のストレートを投げ込む本格派、秀岳館・川端健斗

川端健斗(秀岳館高/左投左打)

ゆったりとしたいいフォームで、球のキレも感じるサウスポーですね。まだ体に力がないので腕の振りは弱いですが、腕の振り以上の強くて速いストレートがある。大きなカーブを投げられるのも魅力ですね。あとは春のセンバツで見た際にも指摘しましたが、もう少し前へ体重移動していく推進力がほしいところです。グラブ側の腕を空へ掲げるように投げにいくなど「上」への意識は感じるのですが、「前」への意識も出てくれば。まだまだ伸びしろを感じます。


京都大会では49イニングで60奪三振を記録した京都成章の北山亘基

北山亘基(京都成章高/右投右打)

小気味いいピッチングをする投手ですね。スピードガンの数字より、キレで勝負するタイプ。140キロ前後でも、140キロ台後半と遜色ないスピード感があるはずです。また、スライダーとカーブの中間のような変化球がいいですね。腕をしっかり振って、ベース際での落差があるので空振りが取れます。フォームに大きな悪い点は見当たらないのですが、やや小さくまとまり過ぎている印象もあります。もちろん、彼にとって投げやすい腕の振り、タイミングがあると思いますが、もう少し体を大きく使ってもいいのかなと感じます。


初戦で敗れたが、自己最速となる148キロをマークした北海・阪口皓亮

阪口皓亮(北海高/右投左打)

1球見ただけで「なんでこのピッチャーが背番号10なんだ?」と思ってしまいました(笑)。体の線は細いけれど、スケールを感じる大器です。彼は投げる際に、いい「タイミング」を持っています。テークバックを取って腕がトップまで上がり、一つ間(ま)があってから投げ込める。球に角度が出てくるし、しっかりと指にかかる投げ方です。気になるのは、軸足のヒザが折れるのが早いこと。もっと角度を生かせるはずですし、ヒザが早く折れることで体の開きの早さにつながり、シュート回転が強くなってしまいます。素晴らしい将来性を持っていますから、改善できるといいですね。


初戦で広陵打線を5回途中0失点に抑える好投をみせた中京大中京・磯村峻平

磯村峻平(中京大中京高/左投左打)

非常にボールのキレを感じる左投手です。今夏の甲子園では先発で好投しましたが、上の世界では短いイニングでこそ力を発揮するタイプに見えます。タイミングの取りずらいバックスイングの小さな腕の振りから、勢いのあるストレートを投げ込める。こういうタイプは大きな変化球ではなく、スプリットやシュート系の小さく動かす球種が中心になるでしょう。今後、体に力がついてくれば開きの早さも解消されていくはずです。個人的には高校生ですし、もう一回り体を大きく使ったフォームで投げてほしいですが、これからも持ち味のキレを生かした投球をしてほしいですね。


初戦で敗れたが、素材の高さを見せつけた木更津総合のエース・山下輝

山下輝(木更津総合高/左投左打)

彼は手首の立ち方がすごくいい。しっかりリリースができるし、球のキレの良さにつながっていきます。この良さを消さないでほしいですね。ポイントはスライダーを曲げようとし過ぎないこと。曲げようとするとヒジが下がっていきますから。他にもいいところは、ライン(投手が投げる際に使う空間の幅のこと)をうまく作れるので、コントロールが大崩れしないこと。ただ、バッターから見るとユニホームの胸のロゴが早く見えるので、前を向くのをもう少し我慢したいですね。これだけの長身(187センチ)でボールをコントロールできるのですから、今後もっとよくなるはずです。

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 今夏の甲子園はセンバツに続き「投低打高」と言われていたようですが、いやいやどうして、レベルの高い投手が多かったです。高校生はまだ成長途上ですから、これから体に力がついてフォームがまとまってくれば、大化けする可能性も十分にあります。そんな投手が一人でも多く現れることを楽しみにしています。

 もし自分がプロの監督であれば、今回見た中でとくにほしいのは皆川喬涼くん(前橋育英)ですね。プロ志望届を提出するかは置いておいて、投手として非常に素晴らしいものを持っていますから。

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山本昌が甲子園のエース10人を評価。 思わず「ほしい」と言ったのは?

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