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東北大学と大阪大学は9月28日、スズテルル(SnTe)半導体が、まったく新しいタイプのトポロジカル物質であることを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大大学院 理学研究科の佐藤宇史准教授、大阪大学産業科学研究所の安藤陽一教授、同大 原子分子材料科学高等研究機構の高橋隆教授らによるもの。詳細は、英国科学雑誌「Nature Physics」オンライン版に掲載された。

トポロジカル絶縁体が、従来の物質とはまったく異なる新しい状態を持つ物質であることが明らかになり、近年大きな話題となっている。同物質は、内部は電流を流さない絶縁体であるのに対し、表面には特殊な金属状態が現われる。その表面は、電子がディラック錐と呼ばれる状態を形成して、質量ゼロのディラック粒子として振る舞い、磁石の性質であるスピンの向きを揃えて動き回っていると考えられている。この表面ディラック電子は、物質内部の電子よりも格段に高速で、かつ不純物に邪魔されずに動くという特性を持っており、その起源が物質中の電子状態が持つ位相幾何学的(トポロジカル)な性質にあると考えられている。現在、トポロジカル絶縁体を利用した次世代の超低消費電力デバイスや超高速の量子コンピュータへの応用研究が急ピッチに進められている。

しかし、このトポロジカル絶縁体では、無数に存在する物質の中からどのようにして、トポロジー的性質を持った物質を見つけるかが、大きな課題となっている。物質の種類を整理するときには、対称性が手掛かりになる。これまで発見されたトポロジカル絶縁体は、時間反転対称性を持つ物質を中心に探索が進められてきたが、最近、時間反転対称性以外に、物質が鏡面対称性を持つときにトポロジカルな性質が発現することが理論的に予言された。この対称性が、結晶性に由来することからトポロジカルクリスタル絶縁体と命名された。同物質では、トポロジカル絶縁体と異なった新しい物性や機能が現れることが期待されている。トポロジカル物質の探索に大きな広がりが生まれるという観点からも、実際にそのような物質が発見されることが期待されていた。

今回、研究グループは、高い熱電性能を有するなどの理由で40年以上前から盛んに研究されているIV-VI族狭ギャップ半導体であるスズテルル(SnTe)の高品質単結晶の育成に成功した。

さらに、外部光電効果を利用した角度分解光電子分光という手法を用いて、SnTeから電子を直接引き出して、そのエネルギー状態を高精度に調べた結果、通常のトポロジカル絶縁体とは異なり、表面においてディラック錐が2つ折り重なった二重ディラック錐エネルギー状態を持つことを発見した。この特殊な状態は、表面金属電子状態が結晶の鏡面対称性によって保護されて初めて実現することから、今回の実験によって、SnTeが新種のトポロジカル物質トポロジカルクリスタル絶縁体であることが明らかになった。

今回の研究成果は、次世代省電力デバイスや超高速コンピュータへの応用が進められているトポロジカル物質のカテゴリーの中で、トポロジカル絶縁体の他にも新型のトポロジカル物質が存在することを実験的に示したものである。今後、トポロジカルクリスタル絶縁体の表面ディラック電子を制御することで、熱電素子、光検出器、スピントロニクスデバイスなどの広範囲な産業応用が期待される。また、今回の成果はトポロジカルクリスタル絶縁体に留まらず、さらに異なるタイプの新型トポロジカル物質の開拓に大きく道を拓くものとコメントしている。

(日野雄太)