日本国内で食べられているサバの大半は、ノルウェー産だ。だが今、そのノルウェー産サバに危機が訪れている。時事通信社水産部の川本大吾部長は「資源状況の悪化で漁獲枠が激減し、日本への輸出量は半減した。価格も高騰しており、『来年には店頭で一切れ500円になる可能性すらある』とする見方も出ている」という――。
写真提供=在日ノルウェー大使館
ノルウェーで水揚げされたサバ - 写真提供=在日ノルウェー大使館

■食生活に浸透したノルウェー産サバ

「秋サバは嫁に食わすな」ということわざがあるが、今では秋だけでなく、いつでもおいしいサバの塩焼きが食べられる。大西洋で獲れた主にノルウェー産のサバが日本で大量に流通し、消費されているからだ。

今やスーパーや弁当、定食屋チェーンで提供されるのもノルウェー産が中心で、福井県などの名産品「へしこ」等の原材料も国産ではなくなってきている。

ところがこの1〜2年の間に同国産のサバは品薄になり、高価格化しつつある。資源の悪化によって漁獲枠が縮小されたためだ。日本の水産商社は「来年にはスマホよりも小さい1切れが店頭価格で500円近くなり、かなりのぜいたく品になってしまうのではないか」と表情を曇らせる。

■国産サバは28万トン以上獲れている

前提として、日本でノルウェー産のサバが大量に流通しているのは、国内でサバが獲れないからではない。

農林水産省が5月下旬に発表した「令和7年漁業・養殖業生産統計」によると、2025年の「サバ類」の漁獲量は約28万4000トンで、海の天然魚のうちマイワシ(約70万8000トン)に次いで2位。カツオ(約19万4000トン)やスケトウダラ(約12万4000トン)を10万トン以上引き離しており、日本の代表的な魚であることがわかる。

※農林水産省「令和7年漁業・養殖業生産統計」より編集部作成

日本ではマサバとゴマサバが一緒に獲れるため、「サバ類」として集計される。関東などでは比較的脂が多いマサバが好まれ、全体としては「7:3くらいでマサバが多いのではないか」というのが水産関係者の見方だ。

だがマサバにしてもゴマサバにしても、日本では水揚げの大半が「ジャミ」や「極小」と呼ばれる200グラムに満たない小型魚で、脂の乗りは良くない。

そのため食用としての消費量は少なく、総数は明らかではないが、国産サバの食用比率は「缶詰を合わせても2〜3割ではないか」(魚市場関係者)とみられる。28万トン超のうち、最大8万トン程度だ。残りは養殖魚の餌になったり、ベトナムやタイのほかエジプトなどアフリカへ大量に輸出されたりしている。

筆者提供
小型が多いサバの水揚げ(銚子港) - 筆者提供

■ノルウェーと日本では獲り方が違う

一方、ノルウェー産はマサバでもゴマサバでもなく「タイセイヨウサバ」という魚種。その最大の特徴は、日本のマサバに比べても大型魚が多く、同じ大きさでも脂の乗りがかなり良いことだ。

大西洋のサバの漁獲枠は、国際海洋科学評議会(ICES)の資源評価に基づき、ノルウェーやイギリス、フェロー諸島、アイスランドなど関係国で協議の上、国別で決定される。

ノルウェーでは配分された漁獲枠を大型の巻き網漁船などそれぞれに割り当てるため、「各漁船はできるだけ商品価値の高い、大きくて脂が乗ったサバを獲ろうとする」(ノルウェー水産関係者)。

これに対し、日本は島国で海域が広いほか、漁法や漁船規模が多種多様で、定置網や底引き網など複数魚種を混獲する漁船も多く、大半が漁船ごとの割当なし。獲った者勝ちになるため、「水揚げを稼ぐために(脂が少ない)小型のサバも獲らざるを得ない」(漁業関係者)。

結果として、毎年かなりの量が獲れはするが、多くが食用にはならないというわけだ。

■原料価格は4年で3.6倍、さらに…

しかし冒頭で述べた通り、ノルウェー産サバをめぐる状況は変化しつつある。

大西洋では近年、漁獲過剰によりサバの資源状況が悪化。ICESの勧告を受け、漁業国は大幅な漁獲枠削減を求められた。ノルウェーの2025年のサバ漁獲枠は約16万5000トン。これは2021年のおよそ半分だが、今年はさらに急減して約7万9000トンまで落ち込んでいる。在日ノルウェー大使館水産部によると、2025年の日本へのサバの直接輸出量は2万7000トンと前年に比べ半減した。

魚価も当然、急上昇している。「ノルウェーでの水揚げ時の原料価格は、2021年が1キロ当たり250円ほどだったが、2025年はキロ900円まで高騰。今年秋から始まる漁期にはキロ1000円以上に上がってしまうかもしれない」(商社関係者)とみられる。

高騰を受けて、国内の小売店や飲食店では、ほかの食品同様に値上げする動きが目立つ。価格がそれほど変わらなくても、切り身を小さくし、実質値上げを余儀なくされるケースが多い。

■「それでもノルウェー産を使う」

ならばノルウェー産をやめて国産に変更すればいいのでは、と思われるかもしれないが、そうした動きは限定的だ。

魚のプロが集まる築地場外市場で水産物を販売する西山水産によると、「サバの文化干し(塩などで味付けして乾燥させた加工品)はノルウェー産の人気が高く、売れ行きは国産の3倍以上。たまに国産を好むお客さんもいるが、どちらがおいしいか聞かれると、やはり脂が乗ったノルウェー産を薦める」とのこと。

定食・弁当チェーンでも、国産サバへの切り替えを行っているケースは少ない。「オリジン弁当」を運営するオリジン東秀は、価格は高騰しているものの「引き続き脂が乗ってやわらかいノルウェー産を使用していく」という。

「大戸屋ごはん処」でも、人気の「さば炭火焼き定食」の原料について「引き続き脂が乗って鮮度が良く、品質が均一なノルウェー産が主体だが、(品薄・高値で)メニューへの出し方を控えめにしている」(大戸屋・商品マーケティング部)と打ち明ける。

東京・銀座(中央区)のレストラン「ラウンジ日比谷」の店長・石坂仁氏は、定番メニュー「サバの味噌煮定食」の原料について「ノルウェー産は高値だが、脂の乗りが良いことに加え、同じサイズのサバを安定的に仕入れられるため、調理のクオリティーを保ちやすい。国産にはない強みがあり、今後も引き続きノルウェー産を使用していきたい」と話す。

塩焼きや味噌煮だけではない。〆サバでもノルウェー産を原料に加工している例は多い。回転寿司チェーン「スシロー」の仕入れ担当者は、握りに使う〆サバについて「季節によって国産も使用しているが、やはりノルウェー産が中心。高くはなっているが、今後も使わないという選択肢はない」と話す。

■サバの代わりを期待されるニシン

大西洋のサバ資源は回復の兆しを見せていない。来年は一層の漁獲減・品薄高が指摘されている。「今は守りのフェーズ」と、魚の調達から加工まで手掛ける水産商社のニチモウ(東京)第三営業部・木川雄貴第二チームリーダー補佐は指摘する。

同社では塩サバブランド「さば丸」の販売を手掛けているが、原料調達がさらに厳しくなる現状で、国産サバでなく、ノルウェー産のニシンに着目。今春から塩ニシンの大量生産をスタートさせた。

ノルウェー産のニシンは、現状で年間30万トンほどの漁獲が見込める。しかも10〜11月に水揚げされる魚体は「脂肪分が20%以上あり、日本のニシンよりもおいしい」と木川氏は太鼓判を押す。

写真提供=在日ノルウェー大使館
漁船から水産加工場へ運ばれるノルウェー産のニシン - 写真提供=在日ノルウェー大使館

同社ではノルウェー産のニシンを3枚におろし、取り除きにくい小骨については「ベトナムの加工場で現地のスタッフとともに、3〜5ミリ間隔で包丁を入れる“骨切り”の技術を1年かけて磨き、食べやすくした」と胸を張る。

今年は1000トンのニシンを原料に、塩分を加えて熟成させた半身の塩ニシンを「にしん王子」と名付けて本格的な販売を開始した。

筆者提供
ニチモウが販売する「にしん王子」 - 筆者提供

日本では身欠きニシンや酢漬け、あるいはニシン蕎麦などが有名だが、塩ニシンとなるとなじみが薄い。しかしノルウェー産の塩サバの代替商品として、すでに首都圏のスーパーや鮮魚専門店にお目見えし、上々の滑り出しだという。

同社のみならず、スシローやウミオス、三菱商事の関係者もノルウェー産ニシンの商品開発に意欲をのぞかせている。サーモンやサバに次いで、ノルウェー産の魚が日本で定着するきっかけとなるかもしれない。

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川本 大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006〜07年には『水産週報』編集長。2010〜11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)、『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)などがある。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)