新型エルグランドがいよいよ発売される。実に16年ぶりのフルモデルチェンジであり、その姿をチラ見せした時から数えると丸1年を経ての登場である。

【写真】トレンドに逆行? 新型エルグランドの“意外な見た目”や、アルファード/ヴェルファイアなどをじっくり見る


16年ぶりのフルモデルチェンジで話題を呼んだ日産・エルグランド(日産公式サイトより)

 いささか待たせすぎな感もあるが、日産の現状とこれからの将来を担う重要なモデルだけに、慎重かつ入念な作り込みがなされたのは間違いない。

 そもそもエルグランドは1997年に登場した日本初の「Lクラスミニバン」であった。ちなみに日本のミニバン史は、どこからが始祖かという見方によって異なるものの、キャブオーバー(エンジン真上に運転席がある構造の車両で、トラックのようなもの)ではないボンネット型であることを考えれば、日産がプレーリーをリリースした1982年から始まる。

 その後スペース効率一辺倒なワンボックスに比べ、乗降性や静粛性、乗り心地に優れたミニバンはみるみるあらゆる自動車メーカーが導入していった。

高級セダンからの乗り換えを促したエルグランド

 そして1985年、GMが小型の貨物車としてシボレー・アストロを開発し、それをベースに架装メーカーが豪華仕様のカスタムモデルを作ると、1990年代に日本でも大人気となった。ここに豪華なミニバン需要があると目を付けた日産がエルグランドを開発することにつながる。

 そうして1997年に発売された初代エルグランドは、これまでにない豪華で風格を感じさせるデザインとゆったりと座れる3列シートが評判を呼び、瞬く間に大ヒットとなったのである。

 当時の技術では、大柄なボディに見合う駆動力を確保するとなるとFF(前輪駆動)では難しく、FR(後輪駆動)レイアウトが採用されたこともあってやや腰高な印象であったが、国産車ではそれまでにないジャンルのクルマとあって、それまで高級セダンに乗っていたユーザーが飛び付いたのだ。

 そうなるとライバルメーカーであるトヨタも無視することはできない。ハイエースのセミボンネット版を出すもののそれほど売れず、本格的なLクラスミニバンの開発を急ぐことになるのである。

「2代目」で勢力図が激変、エルグランドが劣勢に

 2002年に登場した2代目エルグランドは、初代ほどのヒットにはならなかったものの「ハイウェイスター」や「ライダー」などの人気グレードが牽引してまずまずの売れ行きを示した。

 ボディサイズが拡大されて腰高感は無くなったものの、丸みの強調されたスタイリングは抑揚が少なく、初代より高級感は後退した印象となった。このあたりは当時の日産デザインへの統一化もあったのだろうが、初代ほどファンを惹きつけるものとはならなかったようだ。

 一方、2代目エルグランドと同じ2002年にライバル車として登場したトヨタのアルファードは上品さと高級感を醸し出すスタイリングやインテリア、FFレイアウトの広々感とハイブリッドによる低燃費も武器とした。

 しかし見た目の高級感とは裏腹に中身は大衆車として人気を博してきたエスティマと変わりなく、タイト感を演出したコックピットがクルマの長さを感じさせた。オーナードライバーとしての満足感は薄いクルマに仕上がっていたように思う。

 ただ、アルファードは2代目(2008年発売)の時期に、販売チャンネルによる差別化を図るべく兄弟車としてヴェルファイアを派生させる。初代ヴェルファイアは2段に分かれたヘッドライトなど目力の強いフロントマスクがウケて、一気に人気が上昇していった。このあたりから同カテゴリの人気は日産からトヨタ側へと流れ込んでいく。

 トヨタに人気を奪われる中で2010年にデビューした3代目のエルグランドは、15年以上にわたって現在まで販売が続けられてきたモデルだ。2代目のイメージを受け継ぎつつもプラットフォームを他のモデルと共通化してFF化、横置きV6エンジンの高トルクに耐えられるCVT(無段変速機)の完成もあっての刷新だった。

 これによってフロアの低床化が可能となり、またボディのワイド感も増した。またフロントマスクは先代よりも抑揚が与えられ、マイナーチェンジによりその傾向はますます強めていった。

「残クレアルファード」というミームも誕生、なぜ圧倒的人気を得たのか

 こうしてヴェルファイアが一気に人気を獲得して覇権が移ったミニバン戦争だが、その天下は続かなかった。依然としてヴェルファイア人気は続くかと思われたが、ここで流れがまた一気に変わる。

 2015年に発売した3代目アルファードが大型グリルを採用し、風格ある印象を高めたのだ。

 一方、同年に発売した2代目ヴェルファイアはグリルの上部に太い金属調のバーをあしらって精悍なイメージを狙ったのだが、全体としてエッジを効かせすぎて高級感があまり感じられない印象に仕上がった。

 結果としてアルファードが大ヒット車となり、ヴェルファイアはアルファードの3分の1にも届かない販売台数となってしまった(もっともヴェルファイアもブランド別登録台数では25位前後に入っているのだから、十分に人気車と言えるが)。

 ちなみに初代アルファードから2代目までの、およそ高級車とは思えない足回りにも起因する魅力の低さは、3代目で大幅に改良された。リアサスペンションにマルチリンク式(トヨタはWウィッシュボーンと呼ぶ)を採用することで、操縦安定性と乗り心地を高め、運転していても満足感の高いクルマへと仕立てられたのだ。

 一方のエルグランドは、マイナーチェンジでフロントグリルやバンパーの加飾を強調し、アルファード/ヴェルファイア好きユーザーに寄せるなどの努力は続けたが、アルファードを街で見かける頻度が高まるほどアルファードに憧れるドライバーが増えるという現象には勝つことができなかった。

エルグランドはアルファード/ヴェルファイアと戦う気がない?

 振り返ると、これらLクラスミニバンを求める個人ユーザーの多くの購入の決め手に「フロントマスクの押し出し感の強さ」があることは明白だった。初代エルグランドが成功したことと、3代目アルファードが大ヒットしたことの共通項は、やはりフロントマスクの押し出し感だからである。

 またトヨタ勢が売れたのは、風格あるフロントマスクに加え、残価設定クレジットの存在も大きい。残価額が大きく、予算に余裕がない人でも残クレを利用すれば購入できるようになり「残クレアルファード」というミームすら誕生した。アルファードの場合、トヨタディーラーの認定中古車として販売すれば、ディーラーはもう一度利益を生み出せる旨味もある。

 ここであらためて、新型エルグランドに話題を戻そう。

 同車では組子をモチーフとした内外装を取り入れており、フロントマスクの押し出し感は、オラオラ感の強いアルファード/ヴェルファイアほど強くない。これまでの成功パターンを踏襲していないわけで、果たして日産は、社会現象にもなった残クレ勢を取り込むことができるのか?

「マイルドヤンキー」は眼中になし?

 筆者は日産の意図は別のところにあるのでは、と考えている。というのも、エルグランドはアルファード/ヴェルファイアとの真っ向勝負を避け、新たな領域へターゲット顧客を求めているように見えるからだ。

 続く記事では、日産が「残クレアルファード」の主だった購入者層と見られる「マイルドヤンキー」を切り捨てたことを中心に新型エルグランドから透けて見える「意外な狙い」を解説しています。合わせてお読みください。

「残クレアルファード勢」は眼中になし? 新型エルグランドが「オラオラ顔」とマイルドヤンキーを切り捨てた、納得の背景〉へ続く

(高根 英幸)