「高性能の最新版が登場!?」と話題…300基以上が新設された高速道路“オービスもどき”本当の目的

写真拡大 (全3枚)

“オービスもどき”が急増中

深夜の高速道路を走っていると、突如として頭上に現れる「不気味な監視機器」に肝を冷やした経験はないだろうか。支柱には四角いアンテナ、そして路面を睨みつけるカメラと、赤外線ストロボらしき黒い箱――。さらに不気味なことに、夜間走行中、その機器が一瞬だけ「チラッ」と赤く発光することがある。

〈あれ、こんなところにオービス(自動速度取締機)なんてあったっけ……?〉

思わずブレーキペダルに足を乗せ、スピードメーターを確認する。だが、考えてみると、オービスの手前に必ず設置されているはずの『自動速度取締機設置路線』という青い予告看板は見当たらなかった。

実は今、こうした謎の機器が全国の高速道路各地に存在している。ドライバーたちの間では「新型のオービスではないか」「いや、Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)の新型だ」と憶測も飛び交っているが、その正体をご存知だろうか。この見慣れない機器について、全国の交通取り締まり情報を長年調査している『オービスガイド』の大須賀克巳氏は、こう説明する。

「これはオービスではありません。ETC深夜割引の新システムに対応するために設置された、通信用のアンテナのセットです」

大須賀氏によると、’24年ごろから急激に目撃情報が増えたという。

「形状は、現在主流の『LHシステム』と呼ばれる固定式オービスに非常によく似ています。道路を跨ぐ支柱に、通信用のアンテナだけでなく、車両を撮影するためのカメラや夜間撮影用の照明装置のようなものまで備え付けられているため、詳しくない方が見間違えるのも無理はありません。はっきりと分かる違いは『LHシステム』には支柱上に赤いパトランプがあり、さらに路面には白線マーカーが引かれている点です。ETCアンテナセットには、これらがありません」(大須賀氏)

典型的な設置場所はジャンクションから次のインターチェンジへ向かう区間。インターチェンジから数キロ手前に設置されているケースが多いという。

設置は「完了」しているのだが……

この装置は、’26年度以降に開始が予定されている高速道路の深夜料金の新制度に対応するための通信設備だ。具体的には、通過車両のナンバープレートや通過時刻を記録し、その車が「いつ」「どのルート」を走行したかを特定するために使われる。これまでの深夜割引は「入口と出口の通過時刻」だけで判定していたが、新制度では「実際に走行した区間」を正確に把握する必要がある。そのために、車両の走行ルートを正確に把握できるよう、全国の高速道路上のあちこちに設置されたのがこのアンテナセットというわけだ。

では実際、どのくらいの数が設置されているのか。NEXCO東日本に取材を申し込んだ。

「私どもの管内(東日本エリア)における114ヵ所の設置工事については、現時点ですべて完了しております。NEXCO中日本、西日本を含めた3社合計では、約309ヵ所になります」

アンテナの設置工事はNEXCO東日本だけでなく、NEXCO3社すべてで’24年度末までに完了している。しかし、実際にこのシステムが運用されるのは、当初の予定より大幅に遅れているという。機器の設置は終わっているのに、なぜ運用開始のメドが立っていないのか。その背景には、新制度のあまりに複雑な仕組みに加え、既存のETCシステムで相次ぐ「深刻なトラブル」があった。

実はこの新システム、当初は’25年3月ごろに運用開始を予定していたが2度の延期の末、現時点で具体的な開始時期は未定である。決定打となったのが、昨年4月6日にNEXCO中日本管内で発生した、広域的なETCシステム障害だ。1都7県、最大17路線106ヵ所のETCが利用不能となり、完全復旧までに約38時間を要する事態となった。この障害は新たな深夜割引システムに関連する部分でも発生したため、システム整備を一時的に中断せざるを得なかったのである。

未だに開始時期が見通せない要因についてNEXCO東日本はFRIDAYデジタルの取材に、

「新料金システムは複数のメーカーで分担して整備しています。このためシステム整備の調整に、想定以上の時間が必要になりました。また、昨年4月のシステム障害を受け、システム整備や一連の動作環境、システムが問題なく稼働するのかという検証作業をより慎重に実施する必要がでてきたのです」

と説明する。機械の設置こそ完了したものの、複雑な処理を要するソフト面の調整がいまだ軌道に乗っていないのである。新システムの稼働が報じられないまま、見た目だけはソックリな装置が増えている……その二つの要素がかけ合わさった結果、「新型オービスではないか」との憶測が広まっているのだ。

ところで、なぜこれほどシステム構築が難航しているのか。それは新制度の料金計算が想像以上に複雑だからだ。「通過時刻の判定」「平均速度の算出」「上限速度での補正」「休憩時間の控除」−−。新システムは、これらすべての変数を、全国を走る数百万台の車両一台一台に対して突き合わせ、割引額を算出する仕組みとなっている。あまりに処理が膨大で複雑なため、車が出口を通過した瞬間には正確な計算を完了させることができないのだ。

その結果、出口料金所の表示器には割引料金が表示されない。これまでは料金所を通過した瞬間に「3割引料金」が適用されていたが、新制度では一旦「通常料金」で決済される。その後、全国の「オービスもどき」が収集した走行データをサーバーで集計し、翌月以降にポイント等で還元することになる。割引を受けるには『ETCマイレージサービス』や『ETCコーポレートカード』への事前登録が必須。登録がない場合、深夜にどれだけ走行しても還元は適用されない。

新制度を推し進めるNEXCOの狙い

新制度の複雑さは、単に計算に時間がかかるというだけでなく、割引ルールそのものに「歪み」を生じさせている。新制度では、全国に点在するETCアンテナ間の通過時間から「平均速度」を割り出し走行距離を特定する仕組みだが、普通車の場合、計算上の上限速度は一律で「時速105km」に制限される。

この一律設定の理由について、NEXCO東日本は次のように説明する。

「全国の高速道路網において、区間ごとの制限速度や、気象条件による臨時規制をすべてリアルタイムで把握し、個別に上限値を設定するのはシステム上困難なのです。そのため、一律の上限設定とさせていただきました」(NEXCO東日本)

つまり、たとえ新東名高速などの時速120km区間を制限速度通りに走行した場合でも、割引計算上はあくまで「時速105kmで走った」とみなされてしまうのである。1時間で120kmを走行しても、割引対象としてカウントされるのは105km分のみ。差分の15km分については、深夜帯の走行であっても割引対象外として切り捨てられることになるのだ。

また、長距離ドライバーに影響するのが休憩時間の扱いだ。4時間を超えて走行する場合、実際に休憩を取ったかどうかにかかわらず安全上の観点から一律で30分(0.5時間)相当の走行距離が割引対象から自動的に除外されるルールとなっている。この「時速105kmの上限」と「強制的な30分間の控除」を組み合わせると、深夜帯にどれだけ効率よく走ったとしても、割引が及ぶ距離には「105km/h × 6.5時間 = 682.5km」という物理的な上限が設けられる計算だ。

なにかと問題を抱えて、ドライバーからは「実質的な値上げ」「改悪」だと批判を浴びているこの新料金システム。しかし、NEXCO側の意図は明確だ。

「深夜割引の見直しは、料金所付近での『0時待ち』による滞留や危険な駐停車の解消が主な目的です。現行の『深夜0時から4時の間にわずかでも走行していれば、全走行区間の料金が3割引になる』という仕組みを改め、深夜帯の実走行分のみを割り引く本来の趣旨に即した形へ変更します。新設アンテナ等で走行距離を捕捉・算出するため、出口での即時算出は困難で後日還元型となりますが、安全確保と滞留解消のためですのでご理解ください」(同前)

「オービスもどき」は、実用化の時を静かに待っている。