「大きな進歩」と言えるアウェー群馬戦のドロー。秋田豊監督が率いるJ3初参戦・高知ユナイテッドSCの現在地
秋田監督はご存じの通り、鹿島アントラーズで第一次黄金期を築き、1998年フランス大会、2002年の日韓大会と、二度のワールドカップに出場したレジェンド。2007年の引退後は京都サンガF.C.、FC町田ゼルビア、いわてグルージャ盛岡で指揮を執った。
その秋田監督が再び現場復帰し、四国の地に赴いたということで、チーム作りの行方が注目されていたが、17日に行なわれたアウェーのザスパ群馬戦ではその一端が見て取れた。
この日の高知は開幕時から採用している3−1−4−2でスタート。開始早々の2分に相手GKのミスから左ウイングバックの水野颯太が先制点を挙げ、好発進を見せる。しかし、19分に群馬の左CKの流れから加賀美登生に同点弾を叩き込まれてしまった。
この加賀美は秋田監督がいわて時代に指導していた教え子。「前節も点を取っているし、自信を持っていることがスカウティングでも分かっていたので、何とか防ぎたかった」と指揮官は悔しがっていた。
1−1で後半に突入すると、49分にカウンターから群馬に逆転を許した。内容的にも押し込まれ、耐え忍ぶ展開を強いられたが、高知は守備のハードワークと驚異の粘りを発揮。終盤の81分に途中出場の杉山怜央が起死回生の同点ゴールを決め、2−2に持ち込むことに成功したのだ。
「一番嬉しかったのは、失点を終了間際にしなかったこと。それは大きな進歩。負けているところで1点を返したことも自信につながる。団子状態での1ポイントは非常に大きい」と秋田監督も力を込めたが、劣勢を耐え抜いた選手たちのタフさは大いに目を引いた。
今季の高知はプロ契約がわずかに5人。その1人が現時点で10ゴールをマークし、J3得点ランキングでトップに立っている小林心。その彼もレンタカーショップで働きながらプレーしているというのだ。
「JFL時代は週3回だったのが、今季から週2回・4時間勤務になりました。練習が午前中にあって、今年から強度も上がったので、メチャクチャきついですけど、トレーナーさんにうまくケアをしてもらいながら、何とかやっています。
正直、序盤で二桁得点というのはまったく想像していなかったですけど、厳しい環境のなかでも自分が点を取ることで、JFLでやっているフォワードの希望になれると思う。大学卒業してプロの道に行けなかったとしても、2〜3年でJの舞台で活躍できる可能性があることの証明にもなるのかなと。最後まで諦めずにやり続けることが大事だと思います」と、流通経済大学出身で、下から這い上がってきた24歳の点取り屋はギラギラ感を押し出した。
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小林のような雑草魂を胸に秘めた若手を育てながら、守備強度を植え付け、しぶとく勝ち切るのが、秋田監督の志向するスタイルだ。鹿島で試合出場の機会を得られなかった須藤直輝のようなレンタル組も一から鍛え直しているところだ。
徐々にマークが厳しくなり、直近2試合はゴールから遠ざかっている小林に対しても「ウチは守備からリズムを作っているチーム。群馬のようにボールをつなぐスタイルじゃないし、まずは守備でハードワークしていくことで、自然とボールが来るようになる。今日、2トップを組んだ相棒のマサキ(新谷聖基)はそれができていた」と、注文をつけていた。「まずは守備ありき」という哲学は、下剋上を目ざす集団にとって必要不可欠なことなのだろう。
そういうチームが13試合で計25失点というのは、やはり改善が必要だ。直近5試合はすべて複数失点を喫していて、群馬戦の後半も一方的に押し込まれた時間帯があった。ここから夏場に突入し、気象条件が厳しくなるうえ、高知はどの試合も移動距離が長い。しかも選手の大半が兼業だ。こういう状況下で「J3優勝」という目標に向かっていくのは、容易ではなさそうだ。
「ただ、僕なりに群馬戦の失点の仕方は改善できたと思っている。組織で崩されたわけではないし、相手の良い連係とかシュートが入ってしまったので。いきなり、すべてを求めても正直、難しい。僕も現役時代には『ここまではやらせても致し方ない』という基準を作ってプレーしていた。今はまず連敗を止められたことを前向きに受け止めたいし、褒めてあげたい」と秋田監督はポジティブに発言。「本当の勝負はここからだ」と考えているのだろう。
J3新規参入クラブということで、確かに伸びしろは少なくない。リーグへの適応も進んでいくだろうし、選手個々のさらなる成長が期待できそうだ。今季の序盤3か月で小林がブレイクし、群馬戦で2点目をマークした杉山のような新たな得点源も生まれつつある。前向きな機運を今後につなげていくしかない。
7月5日の第19節が折り返し地点となるが、その相手はかつて代表で共闘した中山雅史監督が率いるアスルクラロ沼津。この段階で上位に躍進していれば理想的。秋田監督の挑戦はここからが本番だ。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
