石破下ろしスタート…自民過半数割れ「自公維・高市政権へ」増税ラッシュが国民にバレたら、ヤバイ

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 石破茂政権が発足した。そして早速解散に打って出た。なぜこのタイミングか。支持率が落ち始める前かつ野党が準備できない今しかないという極めて姑息な古い自民党的政治力学が推察される。一方で次の政権に向けた動きもみられる。日本はこれからどこへ向かうのか。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

なぜ高市早苗に自民党議員は投票しなかったのか

 石破茂首相が総選挙に打って出た。

 これに先立つ自民党総裁選(9月27日投開票)では、序盤に小泉進次郎氏、後半には高市早苗氏が総理・総裁に選ばれるのではないかという観測が飛び交っていた。特に最終盤において、高市氏が一歩及ばなかった理由については、さまざまな解釈がある。

 例えば、東洋経済オンライン(9月29日)は「すべての票が“ボス“の思惑通りに動いたとは限らない。多くの議員票は『次の選挙』を考えて投じられたのではないか」とし、AERAドット(9月28日)は「(議員が)高市さんの政策に危機感を感じたのではないでしょうか」と指摘している。議員が匿名で投票を行う総裁選において、なぜ石破氏に票を投じたのかについて語る議員は少なく、正確な理由を知ることは難しいが、この結果には政治情勢の複雑な力学が作用していると言えるであろう。

 また、SNSが政治に及ぼす影響が日に日に大きくなっていることを強く感じさせる一幕でもあった。特に高市氏の支持者の一部は、選挙戦の過熱に伴い攻撃的な投稿を繰り返し、他のライバル候補に対して批判的なコメントを発信する姿が目立った。高市氏自身も自制を呼びかけざるを得ない状況となり、SNSの影響力がいかに広がり、選挙戦に影響を与えたかが伺える。 

 実際、高市氏は9月2日にX(旧Twitter)で以下のようなメッセージを投稿している。「SNSに、特定の候補予定者やその方を支援しておられる議員への誹謗中傷があると聞き、残念に思いました。候補者予定者は、皆が同じ党に集う国会議員ですから、互いに敬意を表し合い、礼節を重んじて、堂々と政策を論じたいと考えます。私を応援して下さる皆様も、同じ心で自民党への御支援をお願い申し上げます!」と、高市氏は自身の支持者にも冷静な対応を求めている。これにより、選挙戦での過度な攻撃的な姿勢がいかに問題視されていたかが明らかである。

破壊的な抗議行動に議員は反感を持つが、世論には逆の効果

 こうした状況はSNS発達以前の選挙には例のないものであろうが、類似しているとも思われるのがベトナムの反戦運動に関する研究調査『国内での戦争反戦抗議と議会投票、1965年から1973年まで』(2002年)だ。この論文は、1965年から1973年にかけてのベトナム戦争時代におけるアメリカ国内での反戦抗議と、その抗議が議会での投票行動にどのような影響を与えたかを実証データを元に分析している。興味深いの以下の3点だ。

 1つ目、過激な抗議行動が議会の投票ペースを一時的に遅らせる一方で、平和的な抗議行動は投票を促し、戦争反対の投票が増加するという結果が出るという点だ。議会の投票ペースとは、議会での投票が行われる頻度を指し、平和支持の投票数が増えることで、抗議行動が政策に影響を与えていることが示されている。

 2つ目は、暴力的な抗議行動が議員にマイナスの影響を与えることもあるということ。暴力的な抗議行動は、議員に対して過激すぎるという印象を与え、逆に政策変更に対する抵抗を強める可能性あるのだ。この点からも、抗議行動の性質や規模がどのように議員に受け取られるかが、政策に影響を与える上で重要な要素であることがわかる。

 ここまでは、納得感のある話なのだが、興味深いのは3つ目だ。破壊的な抗議行動は、議員がその抗議に対して反感を持ち、戦争支持の投票を続ける可能性を高めるというネガティブな影響を与える一方で、世論には逆の効果をもたらす場合がある。世論に対しては、暴力的な抗議行動が「政府が市民の声を無視している」というシグナルを送り、それが一般の人々の反感を強め、戦争反対の世論を拡大させるというのだ。

 こう考えると、高市氏が総裁選で敗れた理由も見えてくる。確かに、高市氏は総裁選候補の中で最も中国に対して強硬な姿勢を取っていたと国民には映っただろう。しかし、例えば靖国神社への参拝に関しては、過去に小泉純一郎氏が首相在任中に毎年終戦記念日に参拝しており、その息子である進次郎氏も毎年参拝を続けている。この点において、高市氏の姿勢は特に新しいものではなく、既存の政治家たちの行動に沿ったものであった。

高市氏に比べ、石破首相の頼りなさが際立つ

 また、総裁選中の9月18日には、中国南部深圳市で日本人学校に通う10歳の男子児童が中国人に殺害されるという衝撃的な事件が発生した。高市氏はこの事件に対し強い言葉で抗議を表明したが、その声明も政府のこれまでの方針を大きく逸脱するものではなかった。

 むしろ、総裁選に勝利した石破首相が掲げる「アジア版NATO」の方が、中国やロシアを明確に敵視する過激な外交政策と言える。「中国と断交しろ」などとSNSで叫ぶ一部の過激な支持者の言説と高市氏の立場が重なり、これが逆に議員票を減らす結果を招いた可能性が高い。

 しかし、前述の論文の知見を適用するならば、過激な支持者の投稿は議員票を減らす一方で、世論を惹きつけるという意味では一定の効果を発揮したことになる。高市氏は今後、党内でさらに大きな存在感を示していく可能性がある。

 一方で、その高市氏に比べ、石破首相の頼りなさが際立つ。総裁選前に掲げていた政策を次々と覆してしまい、何が彼の政策として残っているのかが不透明な状態に陥っている。これでは、国民や党内からの信頼を失う恐れがあり、彼の今後のリーダーシップが問われる局面に差し掛かっていると言えよう。

一貫性のない政策に国民は石破に失望

 総選挙の日程について、総裁選中に(早期解散を掲げた)進次郎氏に対して「何でもいいから早くやればいいというものではない」と上から目線で語っていたにもかかわらず、総裁選後に石破氏は予算委員会すら開かず、最速の日程で選挙を実施することを表明した。さらに、リニア中央新幹線に対しては懐疑的な立場を示していたものの、推進派に転じた。経済成長よりも財政再建を優先するというスタンスや、日銀の利上げに対する姿勢もすべて放棄した。こうした一貫性のない政策の変更により、国民は石破政権に対する信頼を失いつつある。

 気になるのは、石破首相が自ら増税に対する意思を示している防衛増税について、一言も触れていないことである。選挙終了後の11月から12月の上旬にかけて、2025年度税制改正大綱で防衛増税が決定される予定であり、その時には確実に実施されることが予想される。防衛増税が決定されれば、所得税、法人税、そしてたばこ税が増税されることになるであろう。今回は「見送り」といった誤魔化しが通用しにくい状況である。遅くとも2026年度から段階的に増税が実施され、2027年度には年1兆円規模の国民負担増が現実のものとなる。1年だけ見送ることを約束して国民は納得することはないだろう。

増税は一貫して経済を悪くすることが証明されている行為

「所得税も法人税もたばこ税も私にはあまり関係ない」という人がいるかもしれない。そして、自民党の政治家が「あなたには関係のない増税です」と説明していたとしても、決して騙されてはいけない。例えば、法人税が1%増加すれば、雇用が0.2%悪化し、所得が0.3%減少することが、『To Cut or Not to Cut? On the Impact of Corporate Taxes on Employment and Income』(2018年)などの先行研究で明らかにされている。誰がどの税を増税しようとも、日本に住んでいる限り、その悪影響から間接的に逃れることはできない。増税は一貫して経済を悪くすることが証明されている行為だ。

 さらに、2026年度からは子育て支援金という名の増税が段階的に実施され、2028年度には年1兆円の負担が国民にのしかかることになる。加えて、炭素税に関しても、2028年度以降、年間0.9兆円の負担増が見込まれている。年間約3兆円という膨大な増税が、この次の選挙後に待ち受けているのである。

 もしこれらの事実が国民に広く知れ渡った場合、自公過半数の獲得は現実的なものではなくなるかもしれない。「岸田首相は増税していない」という主張は、実際には岸田首相在任中に増税は行われたが、それは岸田首相が決定したものではないという、筋の通らない言い分であった。同様に「石破首相は増税していない。実施したのは彼だが、決定したのは岸田首相だ」といった言い逃れが、果たして国民に通用するのだろうか。

高市首相誕生というシナリオ

 もし自民党が大敗すれば、石破首相は責任を取って退陣することになり、維新との協力を模索しつつ、高市首相誕生というシナリオが浮上するであろう。むしろ石破首相は、総裁選挙前に公約していた約束のほとんどを反故にし、180度方向転換した政策を推進しようとしている。このような状況下で、石破首相はこの選挙で何を訴えようとしているのだろうか。

 まともに訴えることのない選挙で、勝利を得るほど、日本の有権者は自民党に甘くないだろう。