西山理恵氏(立憲民主党の公式サイトより)

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 福井テレビの報道によると「愛が終わった」のが離党の理由だという──。福井1区から立憲民主党公認で立候補を予定していた西山理恵氏が党県連に離党願いを提出(註1)。県連は擁立を断念する方針を固めた。西山氏は福井テレビの取材に応じ、ネットニュースでは動画の形で配信されたが、その独特な“語り口”は文章でも伝わるはずだ。

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【写真7枚】「ウソでしょ?そりゃ炎上するよ」あまりに下品で問題になった“ヒーラー立候補者”の実際の投稿

 福井テレビのネット版記事から引用させていただこう。

《西山氏は福井テレビの取材に「(離党届を)出した。話の中で愛が終わった。立憲民主での愛があってこそ外に持っていけるのに、(立憲民主の)愛がなくなったら外に出すものがなくなる。無所属で永田町を目指す》

 愛、外に持って行ける、外に出すものがなくなる──こうした表現は、少なくとも政治の世界では珍しいと言える。

西山理恵氏(立憲民主党の公式サイトより)

 実は西山氏、昨年にも物議を醸す言動があり、デイリー新潮は2023年10月24日、「福井1区で立民から出馬するスピリチュアル系『女性候補』 Xに下品過ぎる投稿で大荒れ 本人は拡散に『感謝と感動と敬意』」との記事を配信した。ここに記事を再掲載し、職業が“ヒーラー”と報じられた西山氏のユニークな言動をお伝えしたい(記述は全て当時のもの)。

 日本初の国政選挙は1890(明治23)年7月に行われた第1回衆議院議員選挙。爾来、130年を超える歳月が流れ、次回の衆院選は第50回を迎える。この間、数多の立候補者が有権者に政策を訴え、支持を求めてきたわけだが、“ヒーラー”の肩書を報じられた女性が国政選挙に出馬するのは恐らく、日本の憲政史上、初めてだろう。

宇宙のエネルギーを活用

 福井新聞は9月27日、朝刊に「立民衆院福井1区 西山氏の公認決定」との記事を掲載した。立憲民主党は次期衆院選で福井1区の公認候補として、《新人でサロン兼民泊施設経営の西山理恵氏(47)》の擁立を決めたという内容だった。

 ちなみに福井1区は自民党現職の稲田朋美元防衛相(64)が7選を目指しているほか、共産党で県書記長を務める金元幸枝氏(65)も立候補を表明している。

 西山氏だが、1月には福井県議選でも勝山市選挙区から立候補した。中日新聞が福井版で西山氏の出馬を報じた際、彼女の肩書を《ヒーラー(治療師)》と伝えたのだ(註2)。

 ヒーラーとは何か。Googleで検索すると、「ヒーラーとセラピストはどう違う?ヒーリングにかかわる仕事やヒーラーの資格について紹介」との記事が表示された(註3)。

 この記事によると、ヒーラーとは《治癒を意味する英単語である「ヒーリング」から派生した言葉で、宇宙のエネルギー・生命のエネルギーを活用しながら、お客様をいやす職業》という。

 宇宙のエネルギーとは《自然の中を散歩している時などに感じるスピリチュアルなエネルギー》、生命のエネルギーとは《体内の器官を循環させるエネルギーのことをさすことが多い》そうだ。

Xの投稿内容に批判

 ヒーラー問題については後でも詳述するが、衆院選の出馬表明でヒーラーの肩書を使った新聞記事は確認できなかった。各紙の報道を見ると、「マッサージサロン」と「民泊」を経営していると伝えたようだ。

 西山氏の出馬が報じられると、X(旧Twitter)は大騒ぎになった。《どーすんだ、コレ》、《うわ、なにこいつ》、《立憲民主党ってのはココまで人材不足だったんだ》、《立憲の身辺調査ガバガバ過ぎる》──という具合だ。一体、何があったのか、担当記者が言う。

「西山さんは10月中旬、自身に寄せられた様々な質問に対し、Xで回答を行いました。そもそも西山さんには、Xのポストの内容について批判する声が散見されたのです。例えば絵文字が非常に多用されており、やはり国政を目指す人物の投稿には見えません。数々の批判に西山さんは反論しようと考えたのでしょう。西山さんは疑問の声をリポストなどで引用するのではなく、自分で『何で絵文字いぱい使うの?下品や』などと要約して引用し、『下品て見えるに使った貴方の物差しはどこから来たのかしら』と自分で回答したのです」

 絵文字の多用もそうだが、《いぱい》、《下品て見える》、《使った貴方の物差し》といった独特の日本語表現も興味深い。

問題投稿に騒然

「さらに『なんでSNS沢山出すの?』という質問も自分で記述し、自分で《出すんやなくて出ちゃう》、《愛やから》、《あたいの御出産》、などと回答したのです。10月19日現在、この投稿は削除されているようですが、以前に表示されていたのは確認していますし、今でも拡散を続けています。もちろんXでは表現が下品ではないのかと問題視する意見が殺到したのです」(同・記者)

 西山氏のQ&Aには「どやたらそんな動けるの?」という質問項目もある。なかなか意味を汲み取りにくいが、多分、「なぜ出馬したのか? なぜ立候補者として選挙区内を走り回っているのか?」というニュアンスのようだ。

 その回答は、《伝えたくなた政治が希望やてんなてわたしたちが希望やてんなてみちゃたんキラキラやうちら》となっている。こうなると暗号に等しく、判読すら難しい。

 もちろん新聞社が西山氏の発言をそのまま伝えることはない。仮にも衆院選に立憲民主党の公認候補として出馬する予定なのだ。オブラートに包むようにして記事にしており、その一例を毎日新聞の福井県版からご紹介しよう(註4)。

《会見では「福井から今の社会をひっくり返したい」と語り、重点政策として、インボイス制度の廃止や農林水産業の振興などを挙げた》

レイキヒーリング

 さっそく福井1区を騒がせている西山氏とは一体、どのような人物なのか。立憲民主党の公式サイトには、1976年1月生まれなどのプロフィールが記載されている。

「公式サイトによると、福井市の短大を卒業。英会話講師や、メガネ製造の関連企業で海外営業などの仕事を経て、地元の勝山市役所に勤めたとあります。他にも西山さんはブログなど精力的に投稿しており、結婚して子供が4人産まれたことや、離婚して市役所も辞め、シングルマザーとしてお子さんと共にドイツに移り住んだことなども綴られています」(同・記者)

 西山氏が経営するマッサージサロンと民泊施設は今も公式サイトが公開されている。その中には自身の経歴として《UCSD カリフォルニア大学で国際英語教授法修了》との一文があるほか、ドイツで通訳などをしながら《国際タイマッサージ学校で1年間学びタイ古式マッサージ国際教授法修了》したことなどが紹介されている。

「公式サイトはマッサージによって《「身体」「精神」「エネルギー」を刺激》するとの記述があるほか、《レイキヒーリング》の施術も行うとあります。このレイキヒーリングについてウィキペディアは《手をかざす、または直接相手の体に手を置いて、生命エネルギー「レイキ」を流し込むという考え方・実践》と説明しています。憲法は思想および良心の自由を保障しています。国政選挙の立候補者がヒーリングを信じていても何の問題もありませんが、とはいえ、『オカルトで非科学的だ』と嫌気する有権者も相当な数に上るのではないでしょうか」(担当記者)

超保守王国・福井県

 衆議院の解散が報じられていない段階でも、西山氏の言動は注目されている。批判の声も少なくない。となると、解散が現実味を増せば増すほど、西山氏に対する逆風が強くなっても不思議ではない。

 実は、立憲民主党の内部からも、「西山さんを擁立して大丈夫なのか?」と不安視する声は出ていたという。党関係者が明かす。

「党の公認候補を決めることがどれだけ重要かは言うまでもなく、選考はきちんとしたプロセスを踏みます。経歴は精査し、党幹部が面接を行うなどして、擁立を決定します。その過程で、西山さんに対する異論は出ていましたから、今の状況も予想の範囲内だと言えます。ただ率直に言って、福井県は全国屈指の保守王国として知られ、例えば2022年の参院選の比例選では、自民党の投票率は45・33%に達しました」

 2022年の参院比例選で自民党の得票率が最も高かったのは山口県で48・88%。2位は石川県で46・02%。そして3位が福井県だった。

「福井1区の歴史を振り返っても、2000年から8回の衆議院選挙が行われましたが、全て自民党の候補が勝利しています。比例復活ですら2005年と2009年の2回しかなく、稲田さんは2012年から連続4回の選挙で比例復活を許していません。前回2021年の選挙では約13・6万票を獲得したのに対し、相手候補は約7・1万票しか獲得できませんでした。まともな立候補者を擁立しようにも、該当者がいないのです」(同・関係者)

ご本人に取材

 ご本人に連絡して取材を申請すると、電話で快諾してくれた。まずは問題視されたXのポストについて訊くと、自身の投稿と、自身の削除を認めた。

「今の政治には隠し事が多く、多くの有権者が政治に不信感を持っている原因だと考えています。政治不信を解決するには、情報公開が重要です。私個人も自分の想いを素直に伝えることが大切で、InstagramやFacebook、XといったSNSで隠し事なく発信しています。問題となったXのポストをなぜ削除したのかは、色々な事情から説明することができません。申し訳ありません。ただ私のポストが今もネット上で拡散していることは嬉しいです。そして様々な批判も感謝しながら目を通しているとは申し上げられます」

 オカルト色が強いと感じる有権者がいるのではないかという指摘については、「統一教会の問題もあり、今の有権者は特に不安を抱きやすいのかもしれません」と言う。

「ヒーリングは『気』を扱います。元気の気です。気は目に見えません。そのため非科学的、オカルト的と批判されるのでしょう。しかし、私は目に見えないものの価値を大切にしたいと考えています。日本人は古くから、目に見えない『自然と人間の結びつき』を重んじ、野山や海川の自然を慈しんできました。毎日の食べ物に深い感謝を捧げるのも、同じ想いからです。私のヒーラーとしての経歴や主張に不安を感じる有権者がいらっしゃるのなら、丁寧な説明や対話と通じて懸念を払拭していきたいです」

立憲民主党が“一本釣り”

 統一教会の問題については、「統一教会に依存させるよう仕向けるシステムが問題であり、ヒーリングの世界ではあり得ません」と指摘する。

「多額の献金が問題視されたように、信者に依存させ、全てを捧げることを求めていました。宗教そのものが悪いのではなく、統一教会が駄目なのです。むしろヒーリングは心と身体のバランスを重視し、依存などさせません。まさに正反対だと分かってもらえるはずです」

 西山氏の地元である勝山市は県議選で無投票当選が長く続いてきた。西山氏は「参政権が行使されないのはおかしい」と訴えて立候補。12年ぶりの選挙戦を実現させた。結果は現職が約6800票で当選し、西山氏は約2400票で落選した。

 一定の存在感を発揮したことから勝山市議選での立候補を考えていたが、立憲民主党から「福井1区で衆院選に出馬しませんか」と打診されたという。

「立候補を表明して政治の世界に入りましたが、毎日街頭演説を行い、有権者の声を直にいただけることに感動しています。私たちの声を結集し、それを投票という形で伝えることができる。これがどれほど感動的なことなのか、今後も声を大にして伝えていきたいと考えています」

註1:立憲民主・福井で“ドタバタ劇” 解散総選挙の直前「愛が終わった」と公認候補が党県連に突然の離党届提出(福井テレビ:10月1日)

註1:県議選勝山市区に西山さん出馬意向 元市職員(中日新聞福井版・2023年1月14日朝刊)

註2:ヒーラーとセラピストはどう違う?ヒーリングにかかわる仕事やヒーラーの資格について紹介(モアリジョブ・2023年1月4日)

註3:次期衆院選:次期衆院選福井1区 立憲・西山氏出馬表明(毎日新聞福井版・2023年9月29日)

デイリー新潮編集部