◆第三子誕生で生活が一変

ダイスケさん家はその後、第三子が生まれたことで「昔ながらの育児」やオーガニックママたちとの付き合いが減っていった。

単純に、ていねいな育児をしている余裕がなくなったのだ。

さらに、過剰な発信が周囲でウワサになり、仕事関係者や昔からの知人に距離を置かれるようになっていたことも大きい。

しかし平穏に軌道修正……とはならなかった。ダイスケさん妻は、いままで大切にしていたものを、極端に憎むようになってしまったのだ。

沼が転じてアンチになるのも、よく見る現象ではある。

昔ながらの育児。環境に配慮したオーガニック生活。自然を通じて内面と向き合う取り組み。悩みを共有し、寄り添い合うコミュニティ。そうしたものを罵倒し、家事育児の一切も放棄し、自暴自棄な生活を送るようになった。

「あれだけ手をかけたのに、思ったような成果が得られなかった失意が大きいようです。いまはもう人生に何も期待しない、早く死にたいと頻繁に大暴れし、子どもも巻き込んでいます。子どもはもう小学生なので、周囲に暴力被害を訴え、各所からたびたび問い合わせが来ています。

育児のストレスと人間関係のこじれ、そして精神的な病が原因であり、オーガニックなどが直接関係しているわけではありませんが、状況を悪化させる一因ではあったのではないでしょうか」

◆「寄り添い」を大事にしていたのに

行政の協力もあおぎ、なんとか医療につなげようとするダイスケさんだが、妻はカウンセリングを伴う“寄り添い”的なものを極端に嫌悪している。もちかけると「それで何が救われるんだ!」と悪態をつく。

「ママ友たちと魂の対話とか潜在意識のなんちゃらワークとか、あれだけ好んで取り組んでいたのに、もうそうしたものと関わり合いたくない、対話も寄り添いも私に何ももたらしてくてくれない、一切の期待をしないと、頑なに拒否しています。素人のそれと医療のものは、また違うと思うのですが、聞く耳を持ちません。

いまはかつての妻とは真逆に、推し活に全振りしています。自分は妻の対応と心情を専門家と一緒に考え、ワンオペ状態で3人の子どもの世話をする毎日です」

◆妻は、何になりたかったのか

何者かになりたかった母たちと、巻き込まれる家族たち。

自己実現の模索のなかで、子どもによりよいものを与えたいジレンマもあるだろう。程度の差はあれど、多くの人が足を踏み入れる可能性のある沼なのかもしれない。

<取材・文/山田ノジル>

【山田ノジル】
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru