Microsoftが推進するAI PC「Copilot+ PC」として、Qualcomm Snapdragon X Elite/Plusを搭載するArmベースのWindowsノートパソコンが続々と登場し始めました。

「Copilot+ PC=Arm」というわけではなく、今後x86/x64系のIntel/AMDプロセッサを搭載した機種も登場する見込みですが、要件のひとつに「40TOPS以上のNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット、AI処理に特化したプロセッサのこと)を搭載する」というのがあり、結果的にローンチ時点ではQualcomm一択になっています。

Qualcomm Snapdragon X Eliteを搭載する「Copilot+ PC」が続々と登場し始めた

ArmベースのWindows PCはこれまでも細々と展開されてはいたのですが、いよいよ表舞台に出てきたということで、数年前にMacがArmアーキテクチャへ移行した時のように、そのパフォーマンスや互換性が気になっている人も多いでしょう。

今回はそんなCopilot+ PC第一弾のひとつ、「Lenovo Yoga Slim 7x Gen 9」をレノボ・ジャパンからお借りして試用しました。

レノボ・ジャパンから発売されたSnapdragon X Elite搭載PC「Lenovo Yoga Slim 7x Gen 9」。試用機の構成(メモリ32GB/SSD1TB)では、直販価格は253,220円

○エンタメ性能も高いスタイリッシュな薄型ノートPC

Yogaといえばかつてはディスプレイ部が360度回転する2in1 PCを指す名称でしたが、近年はコンシューマー向け製品のプレミアムブランドと再定義されており、本機も形状としては通常のヒンジを備える一般的なスタイルのノートPCとなっています。本体サイズは約325×225.15×12.9mm(最薄部)、重量は約1.28kg。カラーはコズミックブルー1色です。薄型ながらMIL規格準拠のタフさも備えます。

カラーはコズミックブルーのみ

2in1スタイルではないがタッチ操作に対応し、170度近くまで開く

画面サイズは14.5インチでアスペクト比は16:10。解像度は2,944×1,840と高くリフレッシュレートは最大90Hz、10億色表示やVESA DisplayHDR True Black 600、Dolby Visionにも対応するハイグレードな有機ELディスプレイが搭載されています。表面処理はグレアで、10点マルチタッチに対応しています。

Dolby Atmos対応のクアッドスピーカーも搭載しており、動画視聴などのエンタメ用途でも優れた体験ができるあたりは、個人向けのプレミアムPCらしいところです。また、4つのノイズキャンセリングマイクを搭載し、WebカメラはCopilot+ PCのAI機能のひとつ「Windows Studio Effects」による画質向上も受けられ、ビデオ通話も得意とするところです。

インターフェースはUSB Type-Cのみで、左側に2つ、右側に1つ。右の側面にはUSB Type-C端子のほかに、カメラをオフにするプライバシーシャッタースイッチと電源ボタンが並びます。充電もUSB Type-C経由で行い、65WのUSB PD充電器が付属します。

左側にはUSB Type-Cポートが2つ

右側にはUSB Type-Cポートと電源ボタン、プライバシーシャッタースイッチがある

キーボードは日本語配列。YogaシリーズやIdeaPadではよく見られる、Enterキーやスペースキーの周囲をつなげてUS配列との金型共通化でコストを抑えたタイプとなる

キーストロークは1.5mm、バックライトを搭載

あまりに静かでベンチマークテストを行うまで気付かなかったが、ファンレス設計ではない

○ファンレスかと思うほど静かでバッテリー駆動時間も長いが……

Yoga Slim 7x Gen 9の価格は、メモリ16GB/SSD512GBモデルが実売約22万円、メモリ32GB/SSD1TBモデルが約25万円。いずれもプロセッサはSnapdragon X Eliteで、ディスプレイやバッテリーなどの構成は同じ。WWAN搭載モデルは設定されていません。試用機はメモリ32GB/SSD1TBの上位構成でした。

見慣れたCPU-Zの画面にSnapdragonのロゴが表示されるのはまだ馴染みがなく新鮮だ

まず、従来の一般的なWindows PCとは異なるアーキテクチャを採用しているということで「ソフトウェアがちゃんと動くのか」が気になる方はやはり多いと思います。

せっかくの機会なので、個人的に今後Snapdragon搭載PCに買い替えるときのためにも普段使っているソフトウェアを色々と入れて試してみました。テキストエディタの「秀丸エディタ」や画像一括リサイズツールの「Ralpha」など業務に使っている古くからあるツールはエミュレーションで正常に動作し、「Google Chrome」はすでにArm版が提供されておりネイティブに動作します。画像処理ソフトの「GIMP」も、試験提供中だそうですがインストーラーで自動的にArm版が選択されました。

一方で、「Google日本語入力」やAndroid端末とのデータのやり取りに便利な「クイック共有(旧:ニアバイシェア)」など、インストール自体が弾かれてしまうケースもあります。また、日頃検証に利用しているベンチマークソフト「PCMark」では、一見正常に動き出しますが、x86/x64環境では起きないエラーで特定の箇所で毎回落ちてしまいベンチマークテストを完走できませんでした。

Copilot+ PCとして代々的に売り出されるようになったことで、Arm版Windowsはすでに「違いをわかっている人が買う」とは限らない存在になっていますから、我々メディアや販売現場も含めて、しっかり周知していかなければならない部分だと感じました。

Google ChromeはArm版が提供されている

Google日本語入力はインストールできなかった

互換性の壁はまだあるにしても、処理性能はモバイルノートとしてはやはり高く、たとえば「Cinebench 2024」ではCPUマルチコア1018点/シングルコア106点という結果に。利用したいツールのArm対応が済んでいるのであれば、クリエイター向けとしても実用に耐えうるポテンシャルはあるでしょう。参考までに、AdobeでいえばPhotoshopやLightroomは対応済み、IllustratorとInDesignは7月中に対応予定でPremiere ProやAfter Effectsはまだこれからという状況です。

Yoga Slim 7x Gen 9はファンレスではないのですが、ベンチマークテストなどで高負荷をかけてようやく存在を意識できる程度で実用上はファンが回らない場面も多く、静音性に優れる点は魅力的でした。

Cinebench 2024

3DMark(Wild Life)

3DMark(Steel Nomad)

3DMark(Fire Strike)

ファイナルファンタジー XIV: 黄金のレガシー ベンチマーク

また、Apple Silicon登場時を思い返すと「WindowsでもArmになったら同様に電池持ちが格段に良くなるのではないか」という期待を抱いている方も多いと思います。

試しに動画再生での連続駆動時間を見てみようと、YouTubeでフルHD動画のストリーミング再生を続けてみたところ、電池残量100%から始めて3%でシャットダウンされるまで、約13時間30分持ちました(Google Chrome・画面輝度50%・スピーカー音量10%・Wi-Fi接続)。優秀な記録ではありますが、実は本機種は70Whもある大容量バッテリーを搭載しているので、航続距離ではなく燃費で考えるなら、Intel/AMDの機種と比べて省電力性能に格段の差があるとまでは言い切れません。

YouTubeで動画を再生し続けた際のバッテリー使用状況(背景が色分けされている部分は充電中)

現状ではまだSnapdragon搭載Windows PCを積極的に選んで恩恵を受けられるのはAI周りの機能に魅力を感じる人に限られるとは思いますが、ソフトウェアのArm対応がもう少し進んで来れば避ける理由も無くなってくるでしょう。

Yoga Slim 7x Gen 9そのものは、いまCopilot+ PCを選ぶなら有力候補といえます。スタイリッシュなデザインに高品質な有機ELディスプレイとクアッドスピーカー、そしてSnapdragon X Eliteと32GBメモリによる高い処理性能を備えながら約25万円と、SurfaceやMacで近い構成を選ぶよりはずっと現実的な選択肢です。