NASAが、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されているジャイロスコープの一部が使用不能となり観測を一時停止したことを報告しました。これによりハッブル宇宙望遠鏡で使用可能なジャイロスコープは残り2個となりましたが、NASAは「1個のジャイロスコープで姿勢制御するモード」で観測を再開する予定です。

NASA to Change How It Points Hubble Space Telescope - NASA Science

https://science.nasa.gov/missions/hubble/nasa-to-change-how-it-points-hubble-space-telescope/

Operating Hubble with Only One Gyroscope - NASA Science

https://science.nasa.gov/mission/hubble/observatory/design/hubble-one-gyro-mode/

ハッブル宇宙望遠鏡には6個のジャイロスコープが搭載されており、そのうち3個を予備として確保して残りの3個で姿勢を制御するシステムが採用されていました。



ジャイロスコープの見た目はこんな感じ。



ジャイロスコープの内部には髪の毛ほどの細さのワイヤーが仕込まれています。このワイヤーは時間とともに劣化し、劣化が進むとジャイロスコープが正常に動作しなくなります。



NASAは、2009年に実施した整備ミッションでハッブル宇宙望遠鏡のジャイロスコープをすべて新品に交換しました。また、新品への交換に合わせて「1個のジャイロスコープで姿勢制御するモード」を追加するアップデートも実施されました。



その後、ハッブル宇宙望遠鏡は一部期間を除いて「3個のジャイロスコープで姿勢制御するモード」で運用されてきましたが、ジャイロスコープの劣化が徐々に進んで6個のうち3個が使用不能となりました。

そして、2023年11月23日には3個のうち1個のジャイロスコープで問題が発生して観測が一時停止。さらに、2024年4月23日にも同じジャイロスコープで動作不良が起きました。NASAはジャイロスコープの電子系統のリセットを実施してなんとか動作させていましたが、2024年5月24日にも同じジャイロスコープで問題が発生して観測が一時停止することとなりました。

NASAは問題が発生したジャイロスコープは使用不能になったと判断し、残り2個のジャイロスコープのうち1個を予備として確保して「1個のジャイロスコープで姿勢制御するモード」での運用を開始することを決定しました。モード移行が成功すれば、ハッブル宇宙望遠鏡は2024年6月中旬までに観測を再開する予定です。



なお、2008年の短期間の実験では「1個のジャイロスコープで姿勢制御するモード」でも観測結果の品質に問題は出ないことが確認されています。ただし、3個のジャイロスコープを用いる場合と比較して姿勢変更に要する時間が長くなるため、「特定のタイミングで観測したい」というケースでは問題が生じる可能性があるとのこと。また、「火星より近い移動物体」の観測は不可能となりますが、これはハッブル宇宙望遠鏡にとってまれな観測対象だとNASAは指摘しています。