地球からおよそ1300光年離れた宇宙には、馬頭星雲と呼ばれる馬の頭に似た形の暗黒星雲が広がっています。新たに、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された中赤外線観測装置(MIRI)と近赤外線カメラ(NIRCam)が、馬頭星雲をかつてないほど鮮明に捉えることに成功しました。

ESA - Webb captures iconic Horsehead Nebula in unprecedented detail

https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Webb/Webb_captures_iconic_Horsehead_Nebula_in_unprecedented_detail



馬頭星雲のような光解離領域(PDR)では、若い大質量の恒星から生じた紫外線が、恒星を取り囲むイオン化したガスと恒星が生まれた雲の間に、ガスと塵が混ざり合った高温の領域を作り出しています。このようなPDRから放出される光は、恒星の形成過程や星間物質を観測できるという点で、天文学的に非常に重要です。

また、馬頭星雲はPDRの物理的構造やガスとちりの化学的特性、放射線を浴びた星間物質がどのように変化するかを研究する上で理想的な天体の1つと考えられています。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、この馬頭星雲の観測を行っています。アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心となって開発が進められたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡には、MIRIとNIRCamという観測装置が搭載されており、馬頭星雲を含むさまざまな天体の観測が進められています。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は今回、馬頭星雲の端の小さな層構造を初めて明らかにしました。また、PDR前面に垂直に伸び、星雲の光蒸発に巻き込まれたちりの粒子と電離ガスを含むしま模様も検出しました。今回の観測結果により、天文学者は光蒸発によるちりの減衰と放出の影響を調べ、星雲の多層的な構造を分析することが可能になります。

ヨーロッパ宇宙開発機関(ESA)はユークリッド宇宙望遠鏡が撮影した画像やハッブル宇宙望遠鏡による赤外線画像、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamが撮影した近赤外線画像を組み合わせて、馬頭星雲にズームする動画を公開しています。

ESAが公開した馬頭星雲へのズームの様子 - YouTube

NIRCam(左)とMIRI(右)で撮影した馬頭星雲の画像を比較したものが以下。NIRCamで撮影した画像は馬頭星雲内部が鮮明に映し出されている一方、MIRIで撮影した画像は馬頭星雲の層構造を確認することが可能です。