研修医になって半年、ななとさんの心は限界だった。

「両親に『医者を辞めて本格的にホストとして働きたい』と伝えたら、猛反対を受けました。何度も説得して父はしぶしぶ了承してくれましたが、父より教育熱心だった母はいまだに僕の選択を許していません」

 ホストに復帰した2023年、SNSに元医者であることを公表したところ、ななとさんの元には驚きの声とともに、批判的な意見も届いた。

「『社会のクズになった』『立派な職業から底辺に落ちるなんて』などのひどい言葉を受けました。でも、そう言いたくなる気持ちは僕も分かるんです。医学生時代、退学したり医師の道を諦めたりする同級生を見て、同じような感情を持ちました。『自分はこんなに頑張っているのに、なんで逃げるんだろう』と、憤りを感じていました。でも今は、医者になることがすべてではないと思っています。人生の選択肢はたくさんあって、医学部を出て医者を選ぶ人もいればそうでない人もいる。ただ、それだけなんですよね。私立の医学部でアルバイトをしていたときの劣等感や研修医時代の辛さを乗り越えてきたからこそ、厳しい意見も寛容に受け止められるようになりました」

◆「元医者ホスト」の肩書きでSNSで大ウケ。今後は…

 一方、「元医者ホスト」という個性的な肩書きに注目が集まったことで、Xのフォロワーは4カ月で2000人以上増えた。過去に、1カ月で1300万円を売り上げたこともある。しかし業界全体の売り上げは、売掛金問題によって2023年12月ごろから目に見えて落ちているという。さらに外販と呼ばれる客引きにも規制が入ったため、新規客も激減した。

「そこで多くのホストはより、SNSに力を入れるようになりました。僕の場合は肩書きがバズって、X経由で新規のお客さんが来店することもあります。ただ必ずしも、『認知される=集客できる』わけでもありません。自分の知名度や影響力をどうすれば最大限生かせるのか、ビジネス書を読んで勉強中です」

 将来は元医者ホストという肩書きを生かし、美容クリニックの経営に挑戦してみたいというななとさん。

ホストという職業に出合ったことで“個性の磨き方”を学び、医師を目指したことで“努力の仕方”を学びました。今までのキャリアをうまく利用しながら、自分らしい働き方を模索していきたいです」

 医者になるまで、血をにじむような努力を続けてきたななとさん。コツコツ真面目に向き合うことで結果が付いてくる、という成功体験を自信に、ナンバー1ホストを目指す。

<取材・文/橋本岬 撮影/藤本篤史>

【橋本 岬】
IT企業の広報兼フリーライター。元レースクイーン。よく書くテーマはキャリアや女性の働き方など。好きなお酒はレモンサワーです