2023年1月10日のフルモデルチェンジでシリーズパラレルハイブリッド車(HEV)、2023年3月1日にはプラグインハイブリッド車(PHEV)を発売し、新型となる5代目となったトヨタのプリウス(写真:トヨタ自動車)

世界初の量産ハイブリッド車(HV)として、世界のHVを先導してきたトヨタ「プリウス」が、2023年1月にフルモデルチェンジして5代目となった。

HVとPHEVの販売状況


新型プリウスのPHEVは、WLTCモードで19インチタイヤ装着車26.0km/L、17インチタイヤ装着車30.1km/Lの低燃費を実現。EVモードでは、19インチタイヤ装着車でEV走行距離87km、17インチタイヤ装着車では105kmを達成している(写真:トヨタ自動車)

プリウスには、3代目から事前に充電しておくことでモーター走行が一定距離可能になるプラグインハイブリッド車(PHV、5代目からはPHEVと変更)が加わり、新型にも設定されている。だが、その発売はHVに遅れて3月からとなり、新型プリウスのHVとPHEVの販売比率は、およそ9:1とトヨタ広報は述べる。

新型プリウスについては、昨年1月が発売月であったため、同月の販売台数は3214台で、19位という販売成績であったと、一般社団法人日本自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位に記されている。しかし、翌2月には7600台以上を売って10位に躍進し、3月は順位こそ11位に落としたが、販売台数は9861台となって1万台に迫った。そして6月に1万1000台超を達成する。


1997年、世界初の量産ハイブリッドカーとして登場した初代プリウス(写真:トヨタ自動車)

初代プリウスは、1997年12月に発売された。以後、25年にわたりプリウスはHVの象徴的存在として市場を牽引してきた。車名の意味は、「〜に先駆けて」である。新型プリウスも、HV先駆者として販売に底堅さが感じられる。


2015年12月9日に発売された4代目プリウス(写真:トヨタ自動車)

前型の4代目は、斬新な外観の造形により当初は好みがわかれた。そこで2018年のマイナーチェンジを機に、外観がより普遍的な造形となり、2019年は1月から好調な販売となった。

振り返ると、同年2月には1位の日産「ノート」に次いで2位となり、その際の販売台数は1万1867台である。翌3月には1万5000台を超え、4〜7月まで1位となって、いずれも1万台を超える販売台数であった。その好調さは衰えず、1〜12月の年間販売で1位となり、その販売台数は12万5587台を数え、月平均すれば1万台超であったことになる。

プリウスが販売1位になれない理由


「一目惚れするデザイン」をテーマに、「感性に響くエモーション」と「普遍的な美しさ」を表現したという新型プリウスのスタイリング(写真:トヨタ自動車)

前型当初の造形に対する好みの差の影響をかえりみ、新型プリウスは「一目ぼれするデザイン」を目指した。開発当初は、あたかもタクシーのような普遍的HVにしてもいいのではないかと豊田章男社長(当時)の言葉があったようだが、開発陣は、愛車を目指したと語る。そしてスポーツカーやスペシャリティカーかと思わせる印象深い外観がなによりの特徴となった。

それでも販売台数が1万台に届きにくい背景には、2019年当時と比べ、半導体を含め部品調達の課題が世界中の自動車メーカーを苦しめたことが挙げられる。また、コロナ禍での納車遅れの挽回といった特別な事情もあるだろう。昨年1年の販売累計で9万9000台規模にとどまり、月平均すれば8200台強と1万台には届かず、1万台超えがほぼ常態化しているヤリスやカローラに比べると、購入を躊躇させるなにかが背景にあるかもしれない。


新型プリウスのリアビュー(写真:トヨタ自動車)

新車価格は、2015年の前型当初の売り出しが約242万円からであったのに対し、新型は275万円からと30万円以上高くなっている(FF車比較)。もっとも高額な車種では、前型が約339万円であったのに比べ、新型は392万円(E-Four比較)となり50万円以上高い。ただし、こちらはエンジンが前型の1.8リッターから2.0リッターへ変更されたぶんを含む。

それでも、値上がりぶんだけの販売動向ではないような気が私はしている。

車名のプリウスの意味が「〜に先駆けて」であることは、すでに述べた。初代が誕生した1997年はまさにその意味の通り、世界が驚愕する新しい価値のクルマとして登場した。しかも、高額で特殊な車種ではなく、多くの消費者が購入できる5ナンバーの小型4ドアセダンとして現れ、車両価格は215万円と、安くはないが買えない値段ではなかった。

この価格設定は、「21世紀にゴー(5)」という、語呂合わせだとの噂ものぼった。宣伝のキャッチコピーは「21世紀に間に合いました」であり、20世紀の最後を飾り、次の世紀へ夢を託すHVの誕生であった。

ハイブリッドシステム進化の歴史


初代プリウスのハイブリッドシステム。従来のガソリンエンジン車に比べて2倍となる、28km/L(10.15モード)という燃費を実現(写真:トヨタ自動車)

一方、ガソリンエンジンとモーターを併用する駆動方式であることから、加速や減速での原動機の切り替えや併用などで、段付きのあるような不自然さが残り、出力そのものにも物足りなさを覚える面があって、従来からのガソリンエンジン車と比較すれば難点が指摘されることもあった。


2003年9月1日に登場した2代目プリウス(写真:トヨタ自動車)

そこで2代目は、ハイブリッド・シナジー・ドライブと称し、HVでも快適に運転できる性能の追求が行われた。海外での販売強化も視野に、3ナンバー車へと車体寸法がやや拡大された。加えて、性能が上がり高速走行が増えれば空気抵抗の影響が強まるため、外観の造形は車体後半へ流れるようなクーペのようになった。その姿が現在まで継承されている。


2009年5月18日に登場した3代目プリウス(写真:トヨタ自動車)

3代目では、より手軽に購入できる販売戦略により、燃費のよい車種の購入に対する補助金制度も視野に、価格的価値を高め、一気にHV人気を押し上げ、存在を普遍化し、街にプリウスが溢れた。同時にまた、PHVというHVの可能性を拡張する車種を追加したのもこの3代目である。

先駆けとしての価値の創造は、この3代目で一つの区切りがついたといえる。

4代目は、外観を斬新にする見栄えが強調され、先駆けとしての意味を失いはじめた。しいて新しさをあげれば、HVの車載バッテリーに、従来のニッケル水素とあわせてリチウムイオンを選べるようにしたことである。

新型プリウスにある違和感


まるでスポーツカーのようなスタイリングになった新型プリウス(写真:トヨタ自動車)

そして迎えたのが、新型の5代目だ。

新型プリウスを実際に目にして驚いたのは、まさにスポーツカーかと思わせるほど、乗り手を選ぶような外観だった。はた目に格好いいと思えても、果たして運転免許を取得して間もない人や、高齢者、あるいは必要に迫られ運転する人にとって、扱いやすく身近な存在になるのだろうかとの疑問がわいた。


新型プリウスの運転席からの視界(写真:トヨタ自動車)

案の定、運転席に座ると、窮屈な空間に圧迫感を覚えた。フロントウィンドウの支柱が、自分の顔に向かって迫りきて、圧倒される。そして右斜め前方の視界が制約を受けた。左斜め前方の視界も、フロントサイドウィンドウがせり上がり、フロントウィンドウ左端の下側に丸みがあることによって、車幅がつかみにくく、道路左側のガードレールとの間合いをつかみにくい。

ルームミラーを見ると、リアウィンドウが小さく感じ、なおかつ、2代目から4代目まで後方視界を補助する小窓がリアウィンドウ下に設けられていたが、新型では廃止され、外観の見栄えが優先されている。

車体寸法自体は、前型とほとんど変わらないが、より大柄なクルマを運転するかのような不安をもたらした。車両感覚がわかりにくいためだ。


新型プリウスのインテリア全景(写真:トヨタ自動車)

運転すると、その杞憂は走行中ずっと不安感をもたらし、方向転換しようとした際の後方の安全確認はもちろん、後退しながら路地へクルマを差し入れるときのガードレールの端の見極めもできない。後退時には、カーナビゲーション画面に車両の周辺状況を見せる映像が表示されるとはいえ、映像と、実際の障害物との距離のゆとりがどれほどであるかを把握しにくい。実際、路地の先にある電柱に危うく車体をぶつけてしまいかねないことも経験し、冷や汗をかいた。


新型プリウスのプラグインハイブリッドシステム(写真:トヨタ自動車)

PHVあらためPHEVは、モーター駆動による走行距離が延ばされ、電気自動車(EV)と同様の走りをより味わえるようになった。そこは将来的なEVヘの乗り換えなどを視野に新しい感触を味わえる。しかしHVは、基本的に初代から続く乗り味に変わりなく、新鮮味は薄い。先駆けとしての先見性や新鮮味は、もはやHVでは味わいにくい。

これまでのプリウスは、多くの消費者が乗る機会を与えられるHVとして人々に愛されてきたのではないか。だが、新型は、運転する人を選び、量産市販車としての安心と安全をもたらす基準を満たしていないと私は考える。

愛車の本質意味を問いたい


新型プリウス(PHEV)のスタイリング(写真:トヨタ自動車)

愛車を目指したと開発陣は語る。だが、愛車とは、頼れる相棒であり、格好がよければ愛車になるわけではないと言いたい。カローラでもヤリスでも、扱いやすく頼りがいがあれば、愛車になるのだ。そこに格好よさが加われば、愛情は倍増する。


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いくら電子制御で安全性能を高めても、日々利用するクルマとして基本的安心感を覚えられなければ、もはや特殊な車種でしかなく、それは冒頭にも述べたようなスポーツカーやスペシャリティカーといった存在でなら許されることだ。

プリウスの販売は、決して悪いわけではない。しかし、前型のマイナーチェンジ後に示された、幅広い消費者が待ち望んだ存在ではもはやなくなったと思わざるを得ない。

(御堀 直嗣 : モータージャーナリスト)