なにげなく利用するSA/PAで今、「駐車マス」をめぐるさまざまな議論が行われている(写真:HiroHiro555 / PIXTA)

2023年の後半あたりから、サービスエリアやパーキングエリアの駐車スペースに関する議論が目立つようになった。そんな中で注目されているのが、「駐車マス」のあり方である。

背景には、コロナ禍が明けて高速道路の通行量が回復し、もともとあまり落ち込みのなかった物流の大型車と、観光やビジネスの乗用車とがともに増加し、限られた「駐車マス」を奪い合うような状況に陥ったことに加え、「2024年問題」が直近に迫り、運転手の労働時間の規制が強まることで休憩時間の確保が重要視されたことがある。


ずらりと並ぶ大型トラック、東名・足利SA(下り)にて(筆者撮影)

特に平日夜間は大型車の混雑が慢性化して、流入路などへの駐車が目立ったり、そこにすら停められない大型車が増えたりするなど、社会問題となっている。以上のことを踏まえ、ここ数カ月の議論を少し整理してみたい。

次々と打ち出される駐車マス対策

暮れも押し迫った2023年12月下旬に公表されたニュースに、「高速道路各社がサービスエリアの混雑対策として、長時間駐車の有料化を将来的に検討すること、また駐車スペース拡大のために、SA(サービスエリア)やPA(パーキングエリア)の敷地拡大や2階建て駐車場の導入なども検討していくことを発表した」というものがある。

そして、その前提としてすでに一部のSAで、回転率を上げるために一部の大型車の駐車スペースで利用を1時間以内に制限する「短時間限定駐車マス」の実証実験を始めていることも伝えられた

<2023年末時点で実証実験を行っているSA>
NEXCO中日本:東名・足柄SA(上り線)39マス
NEXCO西日本:九州道・古賀SA(下り線)5マス
NEXCO東日本:東北道・上河内SA(上り線)5マス
NEXCO西日本:山陽道・龍野西SA(上下線)22マス

それぞれ11月下旬から12月下旬に実証実験を開始しており、半年から1年の実証期間を予定しているという。

その駐車マスには、黄色く囲った中に大きく「短時間」と書かれ、非常に目立つような仕様になっている。ただし、実証実験では1時間を超えても罰則はなく、あくまで注意喚起にとどまっている。

有料化するためにはシステムの導入が必須だが、現在ほとんどのクルマがETCを搭載しているので、駐車した際に自動的にETCと交信して料金を引き落とせるようになれば、大規模な設備投資をしなくても運用は可能になるだろう。


ETCを使えば料金収受のシステムとしては問題ないが…(写真:takotako2016 / PIXTA)

ただし、この料金の負担が個人のドライバーや中小の運送会社に課されれば、節約のために所定の場所に駐車しなかったり、休憩を諦めたりするケースも出るかもしれず、そのあたりのケアを含めた「実験」が必要であろう。

なお、この実証実験は今後、東北道の国見、安達太良、蓮田の各SA、山陽道の吉備、福山SA、中国道・美東SAでも実施が計画されている。

「後退駐車・前進発車」V字配置で駐車マス1.4倍

さらに、将来計画の一環として、スペース確保のために駐車場の立体化も盛り込まれている。これまでSA/PAでは設備投資がかさむなどの理由で、立体駐車場はほとんど設置されてこなかった。

数少ない例外は、海上の限られたスペースに駐車場を作らざるをえなかった東京湾アクアラインの海ほたるPAくらいだ。


海ほたるPAの立体式駐車場。1〜3階が駐車場、4〜5階が店舗という作り(筆者撮影)

こうした新規策だけでなく、実はこれまでも継続的に駐車マスは増やされ続けてきた。

例えば、「小型車マスと大型車マスの兼用化」がある。これは、平日と休日、昼間と夜間で乗用車と大型車の利用割合が異なるため、小型用・大型用が満車になった場合、どちらの車種でも停められるように、「兼用」をうたった駐車マスである。

そのほか、2021年度からSA/PAの遊休地や隣接地、あるいは路外の土地を活用した駐車マスの拡充などが行われてきたが、完全な解決には至っていない。

さらに、駐車スペースの確保のため、NEXCO西日本では山陽道・佐波川SA(上り)において、「後退駐車・前進発車」を基本とした、上から見て車両がV字配置となるような「V字駐車」を適用し、大型車マスを58台分から81台分へと、1.4倍に拡充する施策も行われている。

後退駐車にすると駐車車両前方が通路に面するため、通路に停めるとクルマの通路を塞ぐことになり停めづらくなるという通路(枠外)駐車防止対策にもなるし、また前進発車のため、発車しやすく接触事故の低減を図ることができるメリットもある。

2024年問題でSA/PA「原点回帰」を

駐車マスの議論は近年、テーマパーク化、観光目的化が著しいSA/PAの「本来の役割は何か」を突きつけているように思える。SA/PAの本来の目的は、もちろん「休憩するための施設」だ。

高速道路の長距離走行は疲労や眠気をもたらす。そこで、疲労や眠気を感じた場合に、体を(もちろんクルマも)休めるために設けられた施設である。いうまでもなく、ただ駐車スペースがあればよいわけではなく、付随的にトイレも必要だし、喉の渇きを潤すために飲料の自動販売機も必要だろう。

そんな本来の目的を忘れ、近年のSA/PAのグルメ競争は、付随的な目的が「主」になってしまう「本末転倒」状態となっている。しかし、「ドライバーの休憩施設」という最大の目的が十分果たせないようでは、SA/PAの存在意義は薄い。


それ自体を楽しむ施設としてのSAも魅力的ではあるが…(写真:gandhi / PIXTA)

単に休憩してもらうよりも、利用者に店舗でお金を使ってもらったほうがNEXCOグループとしてはありがたいのかもしれないが、やはり休憩施設という原点に戻るべきであろうし、昨今の流れはその原点回帰に沿っていると考えることもできる。

また、大型トラックの場合、ジャストインタイムの納入のためSA/PAで時間調整をしているケースも多いが、本来、時間調整のためのスペースは到着地の企業や店舗が確保すべきものだ。この構造も変えていかなければ、問題の完全な解決にはつながらないだろう。


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高速道路のヘビーユーザーに話を聞くと、グルメで有名な常時混雑するSA/PAよりも、トイレと自販機と簡単な軽食コーナーがあるだけの、混雑とは無縁で駐車マスの心配をしなくてもいいSA/PAのほうが安心できるという声をよく聞く。

今年は、まさに「2024年問題」の当年でもあり、こうした「原点回帰」が明確になり、ドライバーにとってSA/PAの本来の役目を果たす節目の年であってほしい。

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)