2021年6月に発表されたオーラ(ノートオーラ)。ノートと異なり3ナンバーサイズのボディを持つ(写真:日産自動車)

コンパクトカーといえば、長きにわたりホンダ「フィット」、トヨタ「ヤリス(旧ヴィッツ)」「アクア」、日産「ノート」、マツダ「MAZDA2(旧デミオ)」などがしのぎを削ってきた、日本の売れ筋ボディタイプである。

中でもノートは、シリーズハイブリッド「e-POWER」の追加で人気を博し、2020年に発売した3代目からはe-POWERのみのラインナップとするなど、独自性を打ち出している。


2020年12月に登場した3代目ノート。オーラはこのクルマがベースとなる派生車(写真:日産自動車)

また、2021年8月にはノートから派生する形で「オーラ」が発売された。オーラはプレミアムコンパクトをコンセプトとするモデルであり、これまで日本市場ではあまり定着してこなかった「小さな高級車」を体現している。

そこで今回は、ここまでの振り返りの意味も込めて、プレミアムコンパクトとして登場したオーラについて購入者分析を通して見ていくこととする。比較時の参考としてノート、ヤリス、フィットを加える。

データは、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める、自動車に関する調査「Car-kit®」だ。

<分析対象数>
■日産 オーラ:796名
■日産 ノート:809名
■トヨタ ヤリス:720名(ヤリスクロス、GRヤリスは含まない)
■ホンダ フィット:899名
※分析対象は新車購入者のみ。※オーラの発売時期に合わせるため、いずれの車種も2021年8月以降の購入者のみとする

なお、日産は2023年12月にノートをマイナーチェンジし、2024年1月下旬に発売すると発表。主に外装デザインを大きく変更する。オーラのマイナーチェンジについては、現時点で発表はない。


2024年1月に発表されたノートのマイナーチェンジモデル(写真:日産自動車)

「値引き前車両本体+オプション価格」は357万円

オーラはプレミアムなコンパクトカーのポジションを取るため、まずは価格に関するデータから確認していこう。

「(a)値引き前車両本体+オプション価格」を見てみると、オーラ:357万円、ノート:304万円と53万円差となっている。


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カタログ上の車両本体価格では、両車の間には40万〜50万円ほどの価格差があるため、車両本体価格の差に加え、オプション価格でも数万円程度の差がありそうである。

値引き額は両車ともに20万円弱。オーラのほうが、車両本体価格が高いことを考えると、値引き率としてはやや渋いといえそうだ。下取り車の平均価格はオーラ:44万円、ノート:23万円と、20万円程度オーラが高かった。下取り車の違いも、オーラが上級車種であることを示しているといえる。


シート生地や木目パネルなど素材感で高級感を演出するオーラのインテリア(写真:日産自動車)

下取りを考慮した「最終支払い額」としてはオーラ:295万円、ノート:262万円と、差は30万円程度となった。乗り出し価格で300万円を切るとなると、オーラまで検討範囲に入る消費者も多いだろうから、絶妙な価格差と言えそうだ。

日産車からの乗り換えは67%

次に基本的な属性情報として「性別・年代」の構成比を見てみよう。


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比較対象の中でも、オーラは男性の多さが特徴的だ。ヤリスは、世帯内に複数台保有する家庭で女性ドライバーが利用するケースも多い車種であるため、女性比率が高くなっている。一方で、年代にはオーラとノートの間に大きな差はない。

続いて、前有車(購入前に乗っていたクルマ)をチェックしていく。オーラの前有車の1位は日産で67%。ノートも1位は日産であるが、こちらは77%とより「日産からの乗り換え」が多い。


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オーラはノートより歴史が浅いモデルであるだけに、2021年の新発売とともに他メーカーからの購入者を獲得できていると見ることができる。

オーラでの購入体験・日々の利用体験を通して日産へのロイヤルティを高めることができれば、次の代替え購入時の潜在顧客として期待できるサイクルがまわる。オーラによって、日産がこれまで獲得できていなかった顧客層との接点を持つことができれば、プレミアムコンパクトとしての役割を十分果たしていると言えるだろう。

オーラが他メーカーユーザーを獲得できていることは、次のデータからも見えてくる。購入時の前提条件の結果を確認すると、「メーカー」「購入予算」の回答割合が、オーラはノートより低いのだ。つまり、日産というメーカーにこだわって購入した人がやや少なく、予算の制約から購入車種が絞られた人も少ない。


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よって、オーラというモデルそのものの魅力から購入に至った、新たな日産オーナーを獲得できていると言える。裏を返せば、メーカーへのこだわりが強くない購入層だけに、どれだけ日産ファンを作り出せるかが次に向けての勝負どころだと見ることもできる。

プレミアムな部分への評価

次に、購入したクルマの「気に入った点」を見てみよう。オーラでは「スタイルや外観」「内装のデザイン」など、高級感が表れやすい見た目やデザインに関する項目のスコアがとても高くなっている。


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加えて、「静粛性」や「運転をラクにする機能」などの装備面の評価も高い。オーラが他の車種との差異として押し出した特徴が、ユーザーにしっかりと届いている。最後に、各車に「あてはまるイメージ」を見てみよう。


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こちらはオーラを購入した人はオーラについて、フィットを購入した人はフィットについてのイメージをそれぞれ回答した結果である。オーラは、他の3車種より複数の項目で高いスコアを得た。

1つ目が「先進的」「都会的」「おしゃれ」といった、スマートさを表現するような項目。2つ目は、プレミアムコンパクトを表す「高級」。そして3つ目が、「高性能・走りのよい」「運転を楽しめる」という走りの関する部分だ。


BOSEパーソナルプラスサウンドシステムなどプレミアムな装備も満載(写真:日産自動車)

一方、「実用的」「カジュアル」といった点のスコアは低く、ノートと明確な違いが出ている。これらのことから、発売から約2年の間で、“ユーザーの抱くイメージ”がしっかり定着していることがわかる。

またオーラでは、「購入時の想定用途」の質問に対して「一人でのドライブ・旅行」「運転すること自体を楽しむ」のスコアが高かったことも特徴の1つであろう。反対に「家族の送り迎え」は、他の3車種より低かった。このあたりからも、オーラが静粛性や快適性に優れた室内空間で走りを楽しむ人に求められていることがわかる。

「小さな高級車」は日本に合っている

日本の住宅事情や道路事情を考えると、大きなクルマは使いづらい。でも、上質なものがほしい――。

オーラの購入者を分析していくと、そんなユーザーは少なくないことが浮かび上がる。

また、「家族の送り迎え」を用途としてあげた人が少ないオーラは、子育てを終えた世代や夫婦2人世帯など、比較的経済的な余裕がある層が「小さな高級車」を求めるのはイメージしやすい。

レクサスからも「LBX」が2023年11月に発表(発売は12月)されているように、今後の日本市場においてプレミアムコンパクトにポジションを取る車種が増えていく可能性はある。


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日産は、日産車を乗り継ぐユーザーが多いメーカーであったが、オーラによってこれまで接点のなかった新たな顧客層を獲得できつつあるといえるだろう。

BEVの「サクラ」も、軽自動車とは思えない上質な走りに定評がある。大型SUVだけでなく、コンパクトカーや軽自動車においてもプレミアムさを追求していくことで、日産は他の国産メーカーとの違いを出していくことができるかもしれない。

(三浦 太郎 : インテージ シニア・リサーチャー)