仕事や観光で出かけているタイミングで、津波に遭遇する可能性は誰にでも。津波の情報をどう受け取るか、避難先はどこか、などは知っておいて損はありません(写真:MediaFOTO /PIXTA)

元日に能登半島を震源として発生した「令和6年能登半島地震」では、石川県能登地方に大津波警報が発表されました。

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以来、実に約13年ぶりに発表された大津波警報でした。石川県珠洲市では海面からの高さが4.7メートルの津波が襲来したとされ、津波により亡くなった方も報告されています。

津波の発生においては、津波浸水が想定される地域からの迅速な避難が最も重要になります。しかし、頻繁に起きるわけではない津波避難には、いくつかの盲点や誤解もあることが実態です。

ここでは、津波警報、大津波警報の発表があった際の注意点や、津波の報道、また津波に関する基礎知識の盲点となりやすい事項について解説します。

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「切り替え」の表現が意味すること

令和6年1月1日、16時10分ごろに発生した能登半島地震では、気象庁が石川県能登地方に大津波警報を発表。同日20時30分、大津波警報は津波警報に「切り替え」がされました。

このような切り替えは、津波に対し安全になったということではありません。「大津波警報から、津波警報として切り替えて、継続」という意味です。津波警報では、津波に対して危険な場所にお住まいの方は引き続き避難を続け、「安全な場所から離れない」ことが必要となっている状態です。

なお、以前は「大津波警報は解除」のように表現されていましたが、「解除」という言葉は「安全になった」と勘違いされやすいとして、津波警報への「切り替え」として言い換えが進んでいます。

しかし今回、ニュース記事や報道機関のSNSなどでは言い換え前の「解除」を使った表現が残っているケースも複数見られました。たとえば「石川県能登地方に出ていた大津波警報は解除され、津波警報となりました」という具合です。

そのため「切り替え」という情報を聞いた時には、「大津波警報が津波警報へ切り替え」になったのか「津波警報も含めて解除」となったのか、よく確認しましょう。


津波警報・注意報の分類(出所:気象庁HP

次に、津波に関する報道でよく見かける、「津波の到達予想時刻」に関する注意点です。

津波の到達予想時刻を表示する際、震源に近い地域では「すでに到達か」「津波到達中と推測」などと表現されていることがあります。その時、既に押し寄せた津波の第1波が比較的小さくても、津波の第2波、第3波などが、第1波より大きな津波となることは珍しくありません。

実際に、令和6年能登半島地震で観測された津波でも、第2波以降で津波の高さが大きくなる事例が見られています。下の図は、気象庁による報道発表資料です。グラフは津波観測状況(波形)を表し、時間(横軸)と津波の高さ(縦軸)を示しています。

一番上のグラフは酒田(山形県酒田市)の観測データですが、第1波(青丸)より、その後に続く第2波以降のほうが津波の高さが高く、グラフの期間における最大の波は赤丸で示した波でした。

酒田における第1波観測は17:12とされていますが、最大波観測は19:08とされており、第1波到達から2時間近く経過した後であることがわかります。大津波警報や津波警報の発表時は、「第1波到達」の津波の高さが低くても甘く見ず、より大きな津波が押し寄せる可能性を考えて速やかな避難を行いましょう。


(画像:気象庁「令和6年能登半島地震」について(第3報)の津波波形図に筆者が一部を加工)

さらに岬の先端や湾の奥といった地形では、周囲より高い津波が押し寄せることもあります。

過小評価は禁物

また今回の能登半島地震では富山湾で海底地すべり痕跡が発見されました。これにより、震源付近とは「別の発生源」による津波が起きていた可能性も指摘されています。

これらのことをふまえ、最初に到達した津波を見て「この程度なら避難はいらないだろう」と過小評価することなく、少しでも高い土地にある「安全な場所」に避難を行う必要があります。例えば津波を撮影しようと思って、海の近くなどに留まることは危険です。

もうひとつ、上の津波波形からわかることは「津波が来る前に必ず『引き波』が起きるわけではない」ということです。

以前、X(旧Twitter)の気象庁防災情報が津波に関するクイズとして“皆さんは、「津波の前には必ず潮が引く」という話を聞いたことがありますか?さて、この話は本当でしょうか?”と投稿していました。

このクイズには「本当」と答えた方が55%でしたが、正解は「間違い」です。地震によっては海底の底が見えるほど海が引いたような地震がありますが、必ずしもそうではありません。津波の押し波(高い部分)と引き波(低い部分)があるとき、引き波から陸に到達すると、潮が引いたように見えることがあるのみです。


X(旧Twitter)の「気象庁防災情報」に投稿された津波クイズ(画像:気象庁防災情報)

このような、「津波の前に必ず潮が引く」という迷信を信じてしまうと、「潮が引かないと津波は来ない」のように考えてしまうこともあるので、どうかご注意ください

出先での津波被害に備えて

沿岸部にお住まいでない方は、津波は他人事のような意識もあるかもしれません。しかし、海や大きな川の近くに旅行や仕事で行った際や、通勤・通学や移動先への行程で偶然、津波に巻き込まれる可能性もゼロではありません。

それでは、自宅やよく知っている場所だけでなく、出先などで津波警報、大津波警報が出たらどうするべきでしょうか。

まずは近隣の津波避難に関する看板などを見て、近くの津波避難場所となっている高台などへ避難することが望ましいでしょう。

しかし、場所によっては必ずしも高台があるわけではありません。そのような場合は、近隣にある津波避難ビル(施設)などに避難することができます。沿岸部や海に遊びに行く際は、事前に現地付近にて近隣の津波避難ビル(施設)、津波避難場所の場所などを確認しておくことをお勧めします。

津波警報、大津波警報について正しい知識をつけて、いざという時には身を守ってほしいと考えます。

(横山 芳春 : だいち災害リスク研究所 所長・地盤災害ドクター)