TBS「Eye Love You」(写真:公式サイトより引用)

女性向け恋愛ドラマ枠として定着しているTBS火曜ドラマ。その枠で1月23日よりスタートしたのが『Eye Love You』だ。

K-POPが日本の音楽シーンを席巻し、動画配信サービスでは韓国ドラマが人気コンテンツ上位に並ぶなか、本作はヒロインの相手役に韓国の若手人気俳優チェ・ジョンヒョプを起用。日本地上波連ドラの新たな挑戦になったが、第1話の平均世帯視聴率は5.5%(個人視聴率3.2%)と数字的には微妙な結果となった。

一方で、SNSでは好意的なリアクションが多く見られる。そんな第1話を考察し、視聴者層や日韓ドラマの特徴などを分析したい。

韓国の人気俳優を起用した

本作の目玉は、ナチュラルなかわいらしさと演技力を兼ね備える主演の二階堂ふみと、男性1番手の相手役として韓国で人気のチェ・ジョンヒョプの共演だ。

チェ・ジョンヒョプは、出演作『わかっていても』のほか、男性1番手のメインキャストを演じた『無人島のディーバ』がNetflixで配信され、日本でも韓国ドラマファンを中心に人気を得ている。

そんな2人が、国境と文化を超えたド直球の日韓男女のラブストーリーで共演する。

物語は、目が合うと相手の心の声が聞こえてしまう“テレパス“能力を持った主人公・本宮侑里(二階堂)が主人公。知りたくもない相手の「本音」が聞こえてしまうため、恋愛を長い間諦めていたなか、料理配達のアルバイトをしていた韓国人留学生のユン・テオ(チェ・ジョンヒョプ)と出会う。

明るく人懐っこいテオは勉強中の日本語を話すが、漏れ聞こえてしまう心の声は韓国語なので、侑里には意味がわからなかった。しだいに太陽のように明るくストレートなテオの存在が、恋愛に対して閉ざされた侑里の心を解かしていくファンタジック・ラブストーリーになる。

第1話は、韓国語のナレーションできれいな海と半島の風景からはじまる韓ドラらしいオープニングではじまった。

冒頭のキャラクター紹介的に映し出される侑里は、仕事場で興奮すると気性が荒くなるアクティブな女性で、空腹になると怒る。これも韓ドラによくある主人公に寄せている印象がある。

明るくて元気なテオは、素直で周囲からかわいがられ、恋愛に対して真っ直ぐでピュアな性格。こちらも韓ドラでよく出てくるかわいらしい好青年だ。


二階堂ふみとチェ・ジョンヒョプの共演で話題(写真:ドラマ公式サイトより引用)

一方、ロケーションが日本であることのほか、ドラマのテンポや効果音など、細かな演出は日本の連ドラを踏襲している。

また第1話の後半では、特殊能力を持つに至った侑里の過去の心の傷が明かされるとともに、なかなか主張ができない日本人女性らしい性格もにじみ出ていた。全体的に日韓ドラマ両方の特徴をバランスよく取り込もうとしている印象を受ける。

韓ドラ好きはジャンルごとにわかれる

昨年の『NHK紅白歌合戦』ではK-POPアーティストが数多く出演したり、コロナ禍では『愛の不時着』や『梨泰院クラス』『イカゲーム』といった韓国ドラマが国民的ヒットになっていたが、基本的に韓国エンターテインメントは音楽やドラマなどジャンルによってファン層がわかれる。

またドラマにおいては、『冬のソナタ』から『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』といった純愛ラブストーリー、『猟奇的な彼女』から『応答せよ』シリーズなどのラブコメ、『シグナル』『ボイス』など刑事サスペンス、『SKYキャッスル』『ペントハウス』などの破滅的愛憎ドラマなど、さらに細かくファン層がわかれる。

こうしたジャンルごとでの話題作は生まれているが、一般層へブレイクスルーした『愛の不時着』や『梨泰院クラス』に続く、スーパーヒットはこの数年生まれていない。

そう考えると、純愛ラブストーリーとラブコメの視聴者層と近い『Eye Love You』の韓ドラファンの取り込み見込み規模は、もともとそれほど大きくはないだろう。

第1話の世帯視聴率5.5%(個人視聴率3.2%)は、前期同枠『マイ・セカンド・アオハル』の世帯同5.7%(個人同3.3%)からは落ちるが、まずまずの合格点といったところではないだろうか。

一方、SNSでの好意的なリアクションが多いことは、一定の韓ドラファン層にアプローチできていることを示している。まだまだこの先の展開次第で口コミが拡散していくポテンシャルを十分有していると見ることができるだろう。

内容部分では、チェ・ジョンヒョプは子どものような無邪気さのあるかわいらしさと、言葉の理解が及ばず戸惑ったり、切なさそうにするときの愛らしさなど、韓ドラの韓国俳優の真骨頂といえる魅力を日本の連ドラでしっかりと体現していた。

この先、話が進むなかで、日本の俳優とはまた違うそのキャラクター性を新鮮に感じて気づきを得たりする新たな韓ドラファンが生まれてくるかもしれない。

また、第1話のラストは、周囲に木がないビルの屋上に、降り積もるはずもない一面の落ち葉を2人が一緒に掃除するなか、侑里のドジで落ち葉がなぜか屋上全体に紙吹雪のように舞い上がり、意図せずふいに2人が急接近してしまうベタなシーンもあった。そんなツッコミどころ満載の強引なシチュエーションも、日韓ラブコメならではのお約束的な、くすっと笑えるポイントなのだろう。茶化しつつ楽しむのも1つの視聴スタイルになるに違いない。

壁を乗り越える2人の姿に共感

その一方、侑里とテオの心が少しずつ近づいていく出来事が続くなかで、チョコレートショップの社長である侑里の仕事に重ねた、人生の甘さと苦さがしっかりと映し出されていた。演出のおもしろおかしさのなかに、物語に込めるメッセージ性もきちんと響かせている。

恋愛ドラマは、2人の間の壁を乗り越える姿やその感情が共感を呼び、幅広い層に響いて大きく化けることがある。

近年でも『silent』『First Love 初恋』『大恋愛〜僕を忘れる君と』などの純愛物語が世の中的な話題になっているが、本作も第1話で描かれた侑里とテオの間の言葉と文化の壁や、テオの純粋すぎる真っ直ぐな人間性が特殊な力を持つ侑里の心を揺り動かす過程などから、そのポテンシャルがありそうに感じる。

本作のプロデューサーの1人は、韓国出身で韓国の大手コングロマリット傘下のエンターテインメント系企業・CJ ENMでドラマやバラエティの制作に携わっていた、TBSテレビの車賢智(チャ・ヒョンジ)さん。

韓国ではサスペンスや刑事ドラマを手がけており、ラブストーリーは本作が初めてとのことだが「私の周りにも韓国人男性との恋愛に興味がある日本人女性が少なくないので、このドラマを通じて彼女たちの期待に応えることができたら嬉しいなと。積極的にアプローチする韓国人男性ならではの恋愛ネタもたくさん入れました」(TBS Innovation Landインタビュー記事より)とし、脚本作りから撮影現場でのコミュニケーションまで、韓国ラブストーリーの要素を日本の連続ドラマに融合させる大きな役割を担った。

アジアでのヒット波及にも期待

韓国ドラマのリメイクは、『六本木クラス』のほか『グッド・ドクター』『シグナル』『ボイス』『美男ですね』など日本でも無数にある。そんななか本作は、既存の枠を超えて、本場の経験値を持つプロデューサーとキャストが参画し、日韓ラブストーリーという新たなカテゴリへ挑んだ、意義のある作品になる。

本作制作陣には、韓国ドラマ人気の下地がある日本はもちろん、チェ・ジョンヒョプ人気の高い韓国のほか、アジアへ波及するヒットへの期待もあるに違いない。

そんな本作が日本ドラマシーンの新たな地平を切り開くことを期待しつつ、第2話以降も注目したい。

(視聴率は関東地区、ビデオリサーチの調べ)

(武井 保之 : ライター)