ビジネスパーソンに必須であるグローバルな視点と幅広い教養。最新の科学トピックスから、1日の長さ と地球の自転速度のムラ、うるう秒などについて紹介します(写真:ZARost/PIXTA)

先行き不透明なVUCA時代、ビジネスを取り巻く環境の目まぐるしい変化に対応するには、グローバルな視点と幅広い教養が必須です。そんななか、「ビジネスパーソンこそ、最新の科学トピックスに親しんでいただきたい」と、作家で科学ジャーナリストの茜灯里さんは語ります。

地球環境、生命科学、宇宙、テクノロジーなど多岐にわたる科学技術分野のニュースを国内外の原著論文や背景と共に紹介するコラム連載をまとめた書籍『ビジネス教養としての最新科学トピックス』から抜粋、人気のテーマをいくつか紹介します。

地球の中心は浮かんでいる

地球内部は、ゆで卵のような構造をしています。

私たちは卵の殻にあたる「地殻(プレート)」の上で生活しています。半径約6400kmの地球で、地殻はわずか5〜70kmです。薄い地殻の下にあるのが、白身にあたる「マントル」で、地下2900kmまでを高温で柔らかい岩石が占めています。

マントルに包まれているのが黄身にあたる半径約3500kmの「核」で、液体の外核と固体の内核に分かれます。地球の最奥部の内核は月の大きさの75%の直径を持ちます。熱い液体に浮かぶ鉄球のような構造をしているので、地球の自転とは異なるスピードや方向で回転することも可能です。

北京大学の研究チームは、地震波の測定から「過去10年間で内核の回転が止まり、さらに逆回転している可能性がある」と指摘しました。研究成果は、2023年1月23日付の『Nature Geoscience』に掲載されました。

1日の長さの調整方法である「うるう秒」が起きる原因にも、内核の「自転とは異なる回転」が関わっていると考えられています。「地球の中心と時間の謎」を紹介しましょう。

地球の中心と時間の謎

地球は、太陽の周囲を365日で公転し、北極点と南極点を結ぶ地軸を回転軸として24時間で自転しています。

もっとも、地球の公転周期は、正確には365.2422日(365日5時間48分46秒)です。

そのため、4年に1度のうるう年を設けて、2月に1日、「うるう日(2月29日)」を足しています。さらに細かいズレを補正するために、「うるう年は100で割れる年には導入しないが、400で割れる年には導入する」というルールもあります。

「うるう日」と似た名前のものに、「うるう秒」があります。1972年の第1回から2017年の第27回までは、1月1日か7月1日の午前9時(日本時間)の前に午前8時59分60秒を特別に設けて、1秒足して実施しました。

うるう秒は、1年の日数を調整して公転周期を補正するうるう日とは異なり、1日の長さを調整して自転周期を補正するものです。

紀元前2世紀、ギリシアの天文学者ヒッパルコスは、「1日の昼と夜を平等に24分割する」ことを最初に唱えました。のちに、その60分の1が1分、さらに60分の1が1秒となりました。

けれど、300年に1秒の誤差しか生じない高精度の「セシウム133原子時計」が、1955年にイギリスの国立物理学研究所(NPL)で開発、実用化されると、実は地球の回転速度にはムラがあり、1日の長さは一定ではないことがわかってきました。

そこで、「地球が1回転するのにかかる時間(1日)」について、原子時計を基準とする高精度な測定時間(協定世界時、略号:UTC)と、天体観測による従来の24時間(世界時、略号:UT1)の差が、0.9秒を上回ったり下回ったりした際に、協定世界時にプラスマイナス1秒して補正することにしました。

これまでの27回のうるう秒では、すべて1秒足す補正を行っています。もっとも、イレギュラーに1秒足すことはデジタルインフラに深刻な誤動作をもたらすリスクがあるので、2035年までにうるう秒に代わる新たな時間調整システムが導入される見込みです。

うるう秒が起きる、つまり1日の長さが変わる原因は、いくつかあります。

1つは、月の潮汐力と考えられています。月の引力で、海水と海底の間に摩擦が起こると、地球の自転速度はだんだんと遅くなります、ただし、100年間で1.8ミリ秒(1ミリ秒は1000分の1秒)程度と換算されており、月の潮汐力だけでUTCとUT1が0.9秒ずれるためには、5万年かかる計算になります。

国立天文台によると、1990年頃には、地球は24時間より約2ミリ秒長くかかって1回転していましたが、2003年の自転速度は24時間プラス約1ミリ秒でした。2003年のほうが、むしろ自転速度は速くなっているのです。

この現象を説明する有力なものが、「自転とは異なる内核の回転速度」です。

1996年にコロンビア大学のポール・リチャーズ博士とシャオドン・ソン博士は、地震波の移動時間がマントルと内核では異なることから、「地球の内核はマントルよりも速いスピードで回転している」とする論文を、イギリス科学総合誌『Nature』に発表しました。

この時点では、内核の回転速度は具体的に示されませんでしたが、2005年に同じ2人によって、「内核は、それより外側の部分よりも1年で0.3〜0.5度速く回転している」と試算されました。

その後、他の研究者らから「内核は自転と同じ方向に常に自転速度よりも速く回転しているのではなく、外核やマントルの粘性の影響で回転が反転する場合があるのではないか」という指摘がありました。

地球深部の観測は地震を使う

南カリフォルニア大学のジョン・ヴィデール博士らの研究チームは2022年、ソビエト(1971〜1974年)とアラスカ(1969〜1971年)で行われた地下核実験を用いて、内核の運動について分析しました。

地下核実験では、地震のように地球深部まで伝搬する巨大な振動が発生します。しかも、実施の地点、時刻、強度に関する正確な記録があるため、地球内部の精密なデータを得ることができます。

すると、内核は1969年から1971年にかけて徐々に減速していき、その後の1971年から1974年では回転方向が逆転していたことが分かりました。これは、地球の自転速度が、不規則に速くなったり遅くなったりして、1日の長さが伸びたり縮んだりする事実を説明できるものでした。

もっとも内核の回転速度は直接測定できないため、すべての研究者が「自転速度の変化の内核由来説」に同意しているわけではありません。内核での地震波の変化は、外核と内核の境界の局所的な変形に起因すると考える研究者もいます。

今回、北京大学の教授となったシャオドン・ソン博士らの研究チームは、1990年代と2000年代に発生した地震波データを調べました。

その結果、2009年以降は、それまでは内核部分で変動していた地震波の移動時間にほとんど変化がなくなっていたことから、過去10年間は内核の独自の回転がほぼ停止し、マントルと同じ速度で回転している可能性が示唆されました。

同じ結果は地球全体で観測されたため、研究チームは内核表面の局所的な変形による現象ではないと主張しています。

内核の回転は70年周期

さらにソン博士らは、1960〜1970年代の地震データと比較したところ、内核の回転は約70年の周期を持ち、約30年ごとに回転の向きを変えていた可能性があると提唱しています。これは、地球の磁場や1日の長さが70年周期を持っていることにも関連していそうだといいます。


内核の回転は、外核の流体運動によって発生する磁場で推進され、マントルとの重力効果でバランスを取っていると考えられています。もっとも、内核が特別な回転を停止したとしても、災害に直結するわけではないと研究者らは語ります。

私たちが日々意識している1日の長さには、金属球である内核が深く関わっているようです。

最近では、地下核実験は国際的な批判があるため行われません。地球深部の研究を進めるためには、予測できない地震の発生に頼らざるをえず、この先の進展には時間がかかるかもしれません。

けれど、今後、内核の研究が進めば、地球内部が地球表層の気候や生命体にどのように影響を与えているかも、知ることができるかもしれません。

【ポイント】
・うるう秒が起こる原因は、地球の自転速度にムラがあるからである
・1日の長さは、内核の不規則な回転速度に影響されていると考えられている
・地球深部の状態は、地震波の観測でしか推定できないため、解明が難しい

(茜 灯里 : 作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師)