中国政府の国債追加発行をきっかけに、鉄鉱石への投機的需要が急増した。写真は浙江省の輸入鉄鉱石の堆積場(寧波舟山港の運営会社ウェブサイトより)

中国の商品取引所で鉄鉱石の先物価格が急上昇している。11月8日の取引では、2024年1月渡しの先物価格が1トン当たり935元(約1万9308円)と、2021年8月上旬以降の最高値をつけた。

相場上昇のきっかけは、中国政府が10月24日に(景気刺激策の一環として)決定した1兆元(約20兆6498億円)の国債の追加発行だ。

「それを引き金に、鉄筋や鋼板への投機的な需要が急増した。末端の需要家は鋼材の仕入れになお慎重だが、それでも(思惑が先行して)相場が押し上げられた」。財新記者の取材に応じた鋼材原料のベテランアナリストは、背景をそう解説した。

鋼材相場も同時に上昇

国債の追加発行の発表以降、鉄鉱石の先物相場は右肩上がりで推移している。10月23日時点の1トン当たり835元(約1万7243円)と比べると、2週間余りで12%近く値上がりした勘定だ。

鉄鉱石と同時に鋼材の相場も上がっている。11月8日の取引では(建物の鉄筋などに使われる)異形棒鋼の2024年1月渡しの先物価格が1トン当たり3848元(約7万9460円)をつけ、10月23日との比較で7.7%上昇。熱間圧延コイルは同3940元(約8万1360円)と、同6%の上昇を記録した。

鋼材相場の上昇は、需要底打ちのタイミングと重なったことも影響したと見られている。


鋼材相場の上昇を受け、鉄鋼メーカーは過剰生産能力の調整に消極的になっている(写真は国有鉄鋼大手、河鋼集団のウェブサイトより)

「10月以降、中国各地の地方政府が(住宅取得規制の緩和を通じた)不動産市況のテコ入れを強化するなか、住宅需要が徐々に回復しつつある。加えて、公共インフラ向けや製造業の鋼材需要は安定成長を維持している」

ビッグデータに基づいた市場分析を手がける富実数据研究院の院長の蔡拥政氏はそう述べ、さらにこう補足した。

「不動産市況の先行きが不透明ななか、鉄鋼メーカーは相対的に収益性が高い鋼板の生産を優先し、異形棒鋼の生産を絞った。そのため、直近では鉄筋の在庫が不足気味に(なり、価格が上がりやすく)なっていた」

鉄鋼の過剰生産に拍車も

中国の鉄鋼業界では、2023年上半期(1〜6月)はほとんどの主要メーカーの業績が赤字だった。しかし鋼材価格の上昇により赤字幅が縮小し、黒字に転換した企業もある。

そのため、鉄鋼メーカー各社は製品の(過剰生産を抑制するための)減産に消極的になっている。鉄鋼業界の専門情報サイト「我的鋼鉄網」のチーフアナリストを務める徐向春氏によれば、11月第1週(10月28日〜11月3日)の主要鉄鋼メーカーの高炉稼働率は80%だった。


本記事は「財新」の提供記事です

しかし市場全体の需給を俯瞰すれば、不動産開発向けの需要の落ち込みに対して、鉄鋼メーカーの生産水準は依然として高すぎる。前出のベテランアナリストは、業界の現状に対して次のように警鐘を鳴らす。

「鉄鋼メーカー各社は量(による規模のメリット)の競争で勝ち残ろうとしている。だが、中国市場にそこまで大量の生産能力は必要ない」

(財新記者:羅国平)
※原文の配信は11月8日

(財新 Biz&Tech)