2023年9月、ロシアの宇宙基地を訪問した北朝鮮の金正恩総書記(右から2番目)が、プーチン大統領と参観した(写真・AFP=時事)

北朝鮮は2023年11月21日夜に発射した軍事偵察衛星「万里鏡1号」の発射が成功したと明らかにした。国営朝鮮中央通信は翌11月22日、「国家航空宇宙技術総局は2023年11月21日22時42分28秒に、平安北道鉄山(チョルサン)郡の西海(黄海)衛星発射場から、偵察衛星『万里鏡1号』を新型衛星運搬ロケット『千里馬1型』に搭載して発射に成功した」と報道した。

北朝鮮メディアの発表は、偵察衛星発射から約3時間後に発表された。

北朝鮮「衛星を正確に進入」

朝鮮中央通信はまた、「千里馬1型は予定されていた飛行軌道に沿って正常飛行しており、発射から705秒後となる22時54分13秒に偵察衛星・万里鏡1号を軌道に対して正確に進入させた」と説明した。

また、「偵察衛星の発射は、自衛権強化に関する(北朝鮮の)合法的な権利であり、敵らの危険千万な軍事的策動で国の周辺地域の安全環境に対応したものだ。共和国(北朝鮮)武力の戦争準備態勢をしっかりと高めるために大きく寄与するだろう」と主張した。

北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記は現地で発射を参観した。朝鮮中央通信は、金総書記が「朝鮮労働党第8回大会の決定をしっかりと正確に、立派に貫徹した国家航空宇宙技術総局全体とその関連機関の幹部と科学者、技術者を熱烈に祝った」と伝えている。

さらに、国家航空宇宙技術総局は今後、早い時期に数個の偵察衛星を追加して発射する計画であることを党中央委員会第8期第9回総会に提出すると付け加えた。これにより、2023年内に開催される同総会で、今後の偵察衛星発射の細部計画が立案されるものと思われる。

金総書記は2023年4月、国家宇宙開発局を現地指導した際、「今後、連続して数個の偵察衛星を多角的に配置し、衛星による偵察情報収集能力をしっかりと構築するための戦闘的課業」を提示したことがある。

2023年11月22日、韓国軍の合同参謀本部によれば、北朝鮮の宇宙発射体は、朝鮮半島最南端の離於(イオ)島西側を通過した。北朝鮮が前日に日本などに通報した飛行経路によれば、北朝鮮の発射体はフィリピン東側の太平洋上を通ることを予定していた。

韓国軍の早期警報レーダーと韓国海軍のイージス艦が発射体の移動経路を追跡したため、落下物の海上での位置も把握されたという。軍当局は、北朝鮮の宇宙発射体の第1段ロケットなど海上への落下物を収集し、北朝鮮のロケット技術水準を調査する計画だ。

日本政府は、北朝鮮が発射した弾道ミサイルである可能性がある物体が、地球の軌道へ投入されたことは確認されていないと明らかにした。

松野博一官房長官は11月22日午前1時に行われた記者会見で、「北朝鮮は21日午後10時43分ごろ、北朝鮮北西部の東倉地区から衛星発射を目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射が行われた」と説明した。

さらに「発射された1発はいくつかに分離された。最初は午後10時50分、朝鮮半島西側約350キロメートルの、予告された落下区域の外に落下した」と明らかにした。

また2番目は午後10時55分ごろ、沖縄本島と宮古島の間の上空を通過し、午後10時57分に沖ノ鳥島から南西に1200キロメートルの太平洋上で日本の排他的経済水域(EEZ)の外にある予告落下区域内に落下した」と述べた。

8回発射、うち軌道進入成功は2回

北朝鮮の発表が事実であれば、2023年5月の最初の発射と8月の2回目の発射に失敗してから、3回目の発射で偵察衛星の発射に成功したことになる。

北朝鮮は1998年から今回を含めて8回にわたり、衛星を搭載したロケットを発射した。衛星を宇宙の軌道に進入させたのは今回で3回目だ。

2012年12月と2016年2月にも、北朝鮮が地球観測衛星と主張する「光明星3号」と「光明星4号」を宇宙の軌道に進入させたことがある。

「光明星」シリーズは非軍事目的の衛星とされるが、今回の「万里鏡1号」は北朝鮮初となる軍事偵察衛星だ。また、光明星3号と同4号は、すでに軌道を離脱して落下した状況であり、宇宙の軌道を回る北朝鮮の人工衛星は、現在万里鏡1号のみとなる。

ただ、北朝鮮の偵察衛星が監視・偵察機能をきちんと作動させられるかどうかは未知数だ。万里鏡1号の重量は300キログラム前後で、通常の偵察衛星と比較すると小さいとされている。

偵察衛星が撮影した映像の解像度は1メートル以上であればよいとされているが、万里鏡1号はこれにはるかに及ばないと韓国軍当局は評価している。

韓国国防安保フォーラムのシン・ジョンウ事務局長も、「衛星は軌道を回りながら情報を収集すべきだが、北朝鮮がかつて公開した衛星は性能が粗悪なものとされている。結局、衛星の性能よりは発射に成功し、弾道ミサイルの発射基盤技術を持つことで、体制の宣伝目的用という性格が強い」と評価する。

一方、解像度が落ちるとしても偵察機能が動かないということではないという見方もある。韓国・科学技術政策研究院のイ・チュングン名誉研究委員は、「解像度が3メートルレベルであっても、艦艇や電車、トラックなどは識別できる」とし、北朝鮮の偵察衛星もそれなりの効用を持つとみている。

今回の発射に関して、ロシアからの協力を得られたかどうかも注目されている。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2023年9月13日に行われたロ朝首脳会談当時、金総書記に「北朝鮮の人工衛星開発を助ける」との趣旨を発言したことがある。

ロシアは発射にどこまで支援したか

その後、韓国の情報機関・国家情報院は、北朝鮮がロシアに砲弾を提供してロシアの技術諮問を受け入れたようだと明らかにし、発射の成功確率が高まる可能性があると分析していた。韓国軍も、北朝鮮の偵察衛星発射が成功すれば、ロシアの技術支援が少なからず貢献したとみている。

北朝鮮が3回目の発射を行ったことで、韓国政府はこれに対抗するという意味で、2018年に南北間で合意した「9.19南北軍事合意」の一部条項の効力を停止する手続きに入る。

韓国軍関係者は11月22日、「成功・失敗にかかわらず、発射したこと自体が脅威であり挑発だ」とし、軍事合意の効力停止に関する議論に入ることを明らかにしている。

「9.19南北軍事合意」とは、2018年9月に平壌で行われた南北首脳会談での「平壌共同宣言」の付属合意として締結された「歴史的な板門店宣言の履行のための軍事分野の合意書」を指す。

これは、偶発的な武力衝突が全面戦争へと拡大しないように、南北の境界地域の陸海空に緩衝区域を設定し、互いに敵対行為をやめる、という内容だ。

この軍事合意の効力停止は、国家安全保障会議(NSC)で外交安保当局が合意に至り、国務会議の審議・議決を経て北朝鮮に通報するといった、簡単な手続きで行える。韓国政府では、今回の発射事態が国連安全保障理事会決議に違反したものであり、深刻な軍事的脅威とみており、対応措置を行うという立場を堅持している。

とくに2018年に合意されたこの軍事合意で、南北間の偶発的な衝突を防止するため軍事境界線(MDL)を基準に飛行禁止区域を設定した条項について効力停止を宣言する可能性がありそうだ。一部では、アメリカの爆撃機や原子力空母のような戦略資産を朝鮮半島周辺で展開する可能性も議論されている。

韓国国防省のチョン・ハギュ報道官は11月21日、「衛星発射以降、NSCで議論がなされれば国務会議の手続きを経て9.19南北軍事合意の効力停止に関する内容を国民に向けて説明できるだろう」と述べている。

イギリス訪問中の尹錫悦大統領が現地で「南北関係発展法に南北が合意したどのような事項も、国家安保を含む重大事由が発生した場合、南北合意の部分、あるいは全体について効力を停止できるという条項がある」と述べ、韓国大統領室も軍事合意を中止する可能性を示唆した。

(ソウル新聞)