まるでロープウェーだが、「スカイレール」は索道ではなく鉄道に分類される(筆者撮影)

広島県の広島市にある山陽本線の瀬野駅と八本松駅との間は、約10kmにわたって22.6‰(パーミル)の勾配が続く区間で、226mの高低差がある。そのため、鉄道開業当初から補助機関車を用いて、列車が運行される区間となっている。

現在は貨物列車がこの区間を通る時に、前後に電気機関車を連結して通過するようになっている。俗にこの区間は「セノハチ」と呼ばれており、力強く補助機関車を連結して走る列車を撮影しようと、鉄道ファンにとっておなじみの場所である。

しかし、ここには「セノハチ」だけではなく、瀬野駅に隣接されている一風変わった鉄道がある。

赤字で2024年4月末に廃止

それは広島短距離交通・瀬野線である。愛称は「スカイレール」。山陽本線の瀬野駅に隣接する「みどり口駅」と、丘の上に整備された住宅街にある「みどり中央駅」の1.3kmを5分で結ぶ鉄道路線である。

このスカイレールのシステムは、宅地を開発した積水ハウスや青木あすなろ建設が、駅と宅地を結ぶ公共交通機関として発注し、神戸製鋼所と三菱重工業が開発した。住宅街と瀬野駅の高低差は160mある。つまり、約123パーミルである(スカイレールの最急勾配は263パーミル)。この勾配を移動するのは通常の鉄道では非常に難しい。かといってモノレールでは輸送力が過剰になってしまうため、ロープウェーのようにワイヤーで引っ張られる仕組みが開発された。なお、駅構内はリニア駆動で移動する。

ロープウェーのような仕組みではあるが、法規上はロープウェーのような「索道」ではなく、「鉄道」に分類される。モノレールやAGTなど同じ部類の「新交通システム」である。

車両に相当するゴンドラには鉄道車両のような形式が与えられている。「200形」と呼ばれており、開業当時から運用されている車両で、最大で37人乗車可能と意外にも大容量である。進む方向は前照灯が点灯し、後ろ側は尾灯が点灯するなど、軌道法に則って運用されているのがわかる。

ラッシュ時間帯は7〜8分間隔、日中時間帯は15分間隔と、アクティブな運行も可能である。開発元の1社である神戸製鋼所によると、建設費用はAGTの約3分の1と割安。走行性能は半径30mの急カーブにも対応できるという。

ただ、残念ながらこのスカイレールは、赤字が続いていることを理由に、2024年4月末に廃止になる予定だ。

実際に乗ってみた

廃止の発表後、乗りに行ってきた。JR瀬野駅からコンコース経由で、みどり口駅に行くことができるので、まずは駅舎外観を階段で降りてみる。ケーブルが動く音なのか、「ゴウンゴウン」と静かな街並みに響いている。

やがて、山の上から前照灯を輝かせながら降りてくるゴンドラには、たくさんの通勤客が乗っている。「これは面白い乗り物だ」と感じ、期待を込めて駅舎に入った。乗車券を買うと、表面にQRコードが入っている。これを改札機にスキャンさせて入場するのだ。QRコードを乗車券に使用しているのは、まだ全国的に珍しく、これは興味深いアイテムである。

住宅街に向かう「みどり中央行き」の車内は筆者1人。ロープウェーに比べると、車内は広く、吊り革もあるので通勤用途を考慮したのだということがわかる。

また、一般の鉄道車両と同様に、非常通報装置や防犯カメラも設置されているので安心できる。

発車のブザーが鳴り、ドアが閉まると、ゴンドラが動き出した。急勾配をぐんぐん上がっていく力強い登板力。上に向かって引っ張られるほどの感覚だった。途中駅の「みどり中街駅」の手前で、リニア軌道に入る。大きな振動はなく、スムーズに到着した。

乗降が終わり、再び動き出すとリニア駆動の音がして、駅間に入るとワイヤーで牽引される。終点の「みどり中央駅」は、スカイレールタウンみどり坂にあり、近くに小学校がある。朝の時間帯なので駅を降りると、学校の先生がいて、登校してくる生徒たちの見守りを行っていた。

その学校の先生の話によると、「スカイレールはみどり坂の導入をモデルに、交通が不便な住宅街やベッドタウンに売り込む予定だった。車両や施設を量産し、全体的に導入費用や維持修繕費を安く済ませようと考えていたようだ」とのことだ。

確かに、しっかりとした橋脚や軌道、安全性や機動性が保てるシステムだ。全国展開すれば、費用対効果も期待できると考えたのだろう。しかし、思ったよりも反響は少なく、実用化されたのは、このスカイレールのみ。車両や設備の更新時期が近づいたが、部品などが特注で、軌道や橋脚などの修繕費用も、高価なものになってしまうらしい。

今後の維持や管理費用を考えると、廃止せざるをえないとのことで、実に残念だ。主要部品の多くが、オリジナルというのだから仕方がない。今となっては、部品の一部でも他の新交通システム(愛知県のリニモや懸垂式のモノレール)など共用できるものがあれば、ひょっとしたら存続の余地もあったのかもしれないと惜しまれる。

スカイレールを運営するスカイレールサービス株式会社に直接話を聞いたが、廃止の理由はやはり、「赤字であることや部品調達が困難」ということだった。

なお当初の運行終了時期は2023年12月末だったが2024年4月末に延期された。この理由は代替交通手段となるEVバスによる路線バスの運行開始が2023年11月初旬から2024年3月30日に延期されたためだ。「代替交通として予定していた電気自動車(EV)バスの路線運行について、許認可が必要なので、手続きなどの準備が間に合わないため」ということだ。

沿線外の利用者が増えた

EVバスは8台が導入され、現在製造中。16カ所のバス停設置を検討しているという。一方で前述のとおりスカイレールは、日中15分間隔、ラッシュ時7〜8分間隔で、1日あたり平均約90便、土休日は約70便を運行中と比較的多い本数だが、バスの運行本数やダイヤについては、「運行本数やダイヤなどは、バス事業なので、認可前ということで正式な公表は現状できない」としつつも、「現状のスカイレールと、同等の輸送力を確保する便数などを予定している」とのことだった。

今後の運行体系については、地域のバス会社である芸陽バスに運行を委託する予定だ。バス転換後の運賃については、200円を想定しており、現状のスカイレール170円より30円の値上げを計画しているという。

今回の運行終了に関して、沿線住民の反応についてスカイレールサービスの担当者に聞くと、「住民から大きな反対の声は、ゼロではないが、ほとんど聞こえてこない」という。スカイレール終了のリリースがあった後は、沿線住民以外の利用者が訪れているそうだ。スカイレールの廃止を惜しむ鉄道ファンが多いのかもしれない。

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)