なぜ夫は妻に避けられるようになってしまったのでしょうか(漫画:umitabe)

結婚生活を続けるうちについ不満がたまります。そんなときにどうすべきなのか。長年夫婦で「夫婦のカウンセリング」を行い、2000組を超える夫婦の話を聞いてきた夫婦カウンセラーの安東秀海氏が、代表的なカウンセリング事例から、解決策を紹介します。今回は夫が妻に避けるようになったケースです。

※本稿は『夫は、妻は、わかってない。 夫婦リカバリーの作法』から一部抜粋・再構成したものです。

ケンカが増え、会話が減ってきた夫婦

●相談内容
最近、妻とケンカが増えてきた。会話も減ってきて妻からは避けられているように感じる。理由もわからずどうしていいのかわからない。相談の主訴はセックスレスだったが、深掘りしていくと義実家と奥様の不仲問題が潜んでいることがわかった。妻は、結婚当初から義母の言葉に傷ついていたという……。

・相談者
加藤壮太さん・順子さん(仮名)ご夫婦
夫は39歳。妻は37歳。結婚10年目で共働き。
9歳と2歳の女の子がいる4人家族。



(漫画:umitabe)

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安東:会話が減ってきた、ということですが、具体的にはどんな様子でしょうか?

壮太さん(以下、敬称略):最近、ケンカが増えていて……。セックスもないですし、なにより妻から避けられているように感じるんです。

安東:順子さんのほうはどうですか?

順子さん(以下、敬称略):私はとくに問題だと思っていません。普通に会話していますし、仕事も家事も忙しいのでセックスする気持ちにならないだけです。

夫が問題だと思っているのはわかっていますが、それを言われるとちょっとイラッとするというか、なんだかモヤモヤします。

夫がセックスレスなんて言い出すこと自体も嫌な感じしかしません。

安東:モヤモヤ、ですか。それってなんだかとっても大切な気がします。もう少し深掘ってみてもいいですか?

順子:モヤモヤがですか? はい、かまいませんがどうすればいいかはわかりません。

安東:大丈夫です。モヤモヤってもしかすると「言語化」できない「感情」なのかな、って考えています。言語化できないのは、それをまだうまく認知できていないからかもしれません。感情は目に見えないし触れませんしね。

でも、だからこそ、イメージを使って視覚的に捉え直してみたり、身体感覚を使って感じ直してみると、キャッチしやすくなる場合があります。

順子:そうなんですね、わかりました。面白そうです。

感じている「モヤモヤ」とは?

安東:ありがとうございます。では始めましょうね。リラックスして、モヤモヤするその感覚に意識を向けてみましょう。

それは、体のどのあたりにある感じですか?

順子:そうですね、お腹のあたりですかね。

安東:お腹ですね。じゃあ、そのモヤモヤはどんな色をしていますか?

順子:……グレー? ですかね。

安東:お腹のあたりにグレーの塊があるんですね。それは重いでしょうか? 軽いでしょうか? 触ってみるとどんな感じがしますか?

順子:触ってみると、ふわふわしています。重さは……、なんだか重いですね。

安東:ふわふわしているのに重いってちょっと不思議ですね。その感覚ってこれまでにも感じたことはありますか? あるとしたらそれはいつ、どんなときですか?

順子:あ、何か思い出しました。この感覚、結婚式のときにもあったような気がします。結婚式のときに義理の母から「赤ちゃんたくさん産んでね」と言われたんですが、これってすごく失礼ですよね。そのときに感じたモヤモヤと、同じ感じがします。

安東:結婚式の出来事が思い出された? 壮太さんはそれ、ピンときますか?

壮太:はい、これまでも何度か聞いたことはあるんで。でもそれ、失礼とかじゃなくて、母はただ孫の顔が早く見たいってことを言っただけだと思うんですけど……。

順子:それはわかるよ。でも結婚式で、わざわざ言うことじゃなくない? 私の両親もいたのに。

あと、長女が生まれたときもそう。「あら女の子だったの」って言われてすごく嫌でした。次女のときも性別がわかって最初に思ったんです。「また女の子なの」って言われるんだろうなって。

壮太:でも、そうは言ってないじゃない。

順子:言ってないよ、でもきっとそう思ったんだろうなってこと。そもそもあなたはいつもそうやってお義母さんをかばうでしょ? それが嫌だって何度も伝えてきたじゃない。でもこの人、全然わからないんですよ。

味方のポジションにいない=敵に見える

安東:なるほど、壮太さん。これ、何が問題なのかというとですね、順子さんから見て、壮太さんがお義母さん側に立っているように見える、ということなんだと思うんです。

つまり、「私がお義母さんのことを嫌だと言っているときに、あなたは私サイドに立ってくれてないよね」と感じている、ということなんですが、順子さん合っていますか?

順子:はい、そうなんです。いつも彼は向こう側にいて、私と娘たちの反対側にいるみたいに思えていました。

壮太:え、そうなの?

安東:はい、そうですね。味方のポジションにいない、というのは時に敵にさえ見えてしまう場合がありますが、それはピンときますか?

壮太:はい、もし妻がそんなふうに僕を見ていたとしたら、確かに敵に見えちゃったかも、というのは理解できます。

順子:ありがとうございます。2人で話していると、このニュアンスが全然伝わらなくて、だからもうこの話はしないようにしていましたし、私たちの味方じゃないんだって線引きしていたようにも思います。

安東:それが心の中にたまっていたモヤモヤなのかもしれませんね。

壮太:母に不満を持っているのは薄々わかっていましたが、それが夫婦の関係にこんなに影響するとは思っていませんでした。

順子:それって私の気持ちがわかってない証拠だと思う。

安東:そういう不満を抱えていて、わかってもらえていないと思っている相手と近づきたいと思わないですよね。

まずは、順子さんの不満を解消していくことと、お母さんとの関わり方を見直していくことが大切だと思います。

壮太:どうすればいいんでしょうか。

安東:そうですね、お二人の間にある感情のわだかまりを解いていきましょう。

夫はヘラヘラ笑っているだけだった

安東:順子さんは、今までで一番怒っている、あるいは悲しかったといえば、いつのころでしょうか?

順子:やっぱり結婚式のときですね。お義母さんに言われたときに、夫はヘラヘラ笑っているだけでした。

安東:では、そのときの「私」をイメージしてみてください。

順子:はい。

安東:壮太さんも、できるだけ当時のことを思い出して。自分が見てきた世界とは違って見えるかもしれませんが、今、目の前にはお義母さんの言葉で傷ついた順子さんがいる、と思ってください。

壮太:はい。

安東:では、気持ちの準備ができたら、壮太さんから「あのときはごめんね」と言ってくださいね。

壮太:あのときはつらい思いをさせてごめんなさい。

安東:順子さん、壮太さんが謝っていますが、どんな感じがしますか?

順子:はい、ちょっとだけ気持ちが落ち着きました。でもまだ怒っていますけどね。

安東:怒っているんですね。いいことだと思います。では、今度は順子さんから言いたいことがあったら言ってください。

順子:何よいまさら、謝ったら済むってことじゃないんだよ。

安東:はい、いいですね、怒り、出てますね。じゃあ、今度はその怒りの下にある感情を探ってみましょうか。

順子さんは、何にそんなに怒っているんでしょう? そこにはどんな気持ちがあると思いますか?

順子:何に怒っているか、ですか……。そうですね、怒っているのは、結婚式なのに夫が私を助けてくれなかったことですね。それがムカつきますね。

夫が助けてくれなくて悲しい

安東:怒っているだけですか?

順子:怒っているだけ? いや、違いますね。怒っているというか、なんだか悲しいです。結婚式なのに夫が私を助けてくれなくて、そのことが悲しいです。


安東:ありがとうございます、順子さんは悲しいんですね。壮太さんは、この悲しみを理解しておく必要があると思います。怒っているからごめんなさい、ではなく、悲しませてごめんなさい、と理解しておきましょう。

壮太:わかりました。ずっと妻に拒否されて、なんでこんな目にあわなきゃいけないんだって僕もちょっと怒っていたんですけど、意味もなくそうなってたんじゃなかったのかも、って理解できました。

あと、妻が悲しかったんだって言ったとき、僕もずっと悲しかったのかもって思いました。

順子:え、そうなの?

安東:ご夫婦が問題と直面しているときって、やっぱりお互いが傷ついているんだと思うんです。本当は仲良くしたいし、大切にもしたい。でもそれができないから。そんなときには、傷ついているのが自分だけじゃなくて、相手も傷ついていたのか、と気づけると、見え方もずいぶん変わってきます。

(安東 秀海 : 夫婦カウンセラー)