夏休み明け前後の時期、親として気を付けてあげたいことがあります(写真:tabiphoto/PIXTA)

夏休み明け前後の時期は、子どもを持つ親御さんにとっては注意を要する時期です。というのも、このタイミングで不登校になる子が毎年たくさんいるからです。また、子どもの自殺が増えるのもこのタイミングだからです。

その理由はいろいろ考えられます。

1、夏休み前に友達とトラブルがあった。またはいじめに遭っていた
2、夏休み中にSNSでのいじめやトラブルがあった
3、夏休み前から先生との関係がうまくいっていなかった
4、夏休み中にSNSやゲームなどをやりすぎて生活リズムが乱れてしまった
5、新学期の学校生活・行事・勉強への不安(給食の時間がつらいとか部活動がつらいなども意外に多い)
6、夏休み中に起立性調節障害が発症したり悪化したりした
7、集団的な行動が多い学校のシステムそのものが苦手
8、家庭環境や親子関係の急激な変化による不安感
9、発達障害、知的障害、情緒的障害など各種障害
10、漠然とした不安

親としてしてあげられる大切なこと

では、親としてはどうしたらいいでしょうか?とにかく大事なのは。注意力・観察力を発揮して子どもをしっかり見ていてあげることです。SOSのサインとしては、「一応次のようなこと」が考えられます。

表情が乏しい。表情が暗い。笑顔がない
眠れない。起きてこない。食欲がない
イライラしたり怒りっぽくなったりする
すぐ泣く。甘えてくる
口数が減った。逆に妙に口数が増えた
元気がない。逆に妙に明るい
物の扱いが乱暴になった
行動がいつもより遅くなった
お腹が痛いなど体調不良を訴える

「一応次のようなこと」と書いたのは、子どもによっていろいろな現れ方がありえて一概には言えないからです。とにかくいつもと違う様子については注意が必要です。

とはいえ、こうしたサインが表に出ない子もいますし、親も超能力者ではありませんので、事前に気づくというのは非常に難しいことでもあります。ですから、気づかなかったからと言って自分を責めないようにしてほしいと思います。

では、もし子どもが「学校に行きたくない」と言ったらどうすればいいでしょうか?よくやりがちなのが、「ダメだよ、行かなきゃ」「何言ってるの、行くに決まってるでしょ」と一蹴して無理にでも登校させることです。

このように無理に登校させられた場合、子どもが学校で非常に苦しむ可能性があります。学校にも家にもいる場所がないということになって、最悪の結果を招く可能性もあります。

また、無理に登校させないまでも、子どもの話をろくに聞きもしないで「大丈夫だよ。困ったら先生に相談すればいいよ」「嫌なことされたら嫌って言いなさい」「○○すればいいじゃん」など、一方的に励ましたりアドバイスしたりするのもよくありません。

まずは子どものペースに合わせて話を聞く

いきなりこのように言われると、子どもは自分の気持ちを言えなくなり、ため込んでしまいます。

ですから、まずは子どもの話を「そうなんだ。それは嫌だね」「つらいね」というように、共感的に聞くことがとても大事です。親が焦ったりイライラしたりして語調がきつくなったりすると子どもは話しにくくなりますので、深呼吸して心を落ち着かせ冷静に聞きましょう。

「あなたにも問題がある」「やめてとはっきり言わないからだよ」などと、子どもを責めるのは絶対にやめましょう。それよりも、「よく話してくれたね。話してくれてよかった。話してくれてありがとう。お母さんとお父さんはどんなことがあってもあなたの味方だからね」という言葉も贈ってあげてください。

このようにたっぷり聞いてもらえれば、子どもは「自分のつらい気持ちがわかってもらえた」と感じることができ少しは気持ちが軽くなりますし、わかってくれた親への信頼感も高まります。

それにたくさん話を聞くことで親のほうにもいろいろな情報が入るので、状況がより理解しやすくなります。それによって、行きたくない原因がわかってきたり、対策が見えてきたりすることもあります。

ただし、子どもによっては話したがらない場合もあります。こういうとき無理に問い詰めたりすると逆効果になる可能性があります。その場合は、「いつでもお話聞くからね」「お父さん・お母さんはいつもあなたの味方だよ」と言ってあげましょう。そうすれば、親が気にかけていることが伝わりますので、子どものほうから話してくれるようになるかもしれません。

また、子どもから話を聞くだけでなく、他の人に相談したり話を聞いたりすることでわかってくることもあります。例えば、担任の先生、元担任、保健の先生、友達、友達の親、児童クラブや塾や習い事の先生などです。これらの人たちと相談して問題解決をはかることが必要になったら、子どものためにも果敢に行動しましょう。

このように理由を探ったり問題解決のために行動したりすることも大事ですが、理由が複合的だったり本人にもわからない部分もあったりするので、これもなかなか難しい面もあります。ですから、まずはとにかく子どもの気持ちを最優先にして、少しでも安らかな気持ちで過ごせるようにしてあげてください。

親のほうには「何とか学校に行かせなければ」という気持ちがあると思いますが、「登校ありき」の態度で臨むと子どもは苦しくなりますし、その後の選択肢も非常に狭くなってしまいます。

大事なのは子どもが幸せな人生を送ること

以前は学校に行くのが当然という価値観が支配的でしたが、社会の大きな変化によりすでに不登校も選択肢の一つになっています。そもそも学校へ行くことは子どもが幸せな人生を送れるようにするための一つの手段であり、それ自体が目的なのではありません。手段が目的になってしまうのは本末転倒で、それによって不必要に苦しむことになります。

繰り返しますが、大事なのは子どもが幸せな人生を送ることです。そのためには、今無理に登校するよりも家で安らかな気持ちで充実した時間を過ごせるようにしてあげたほうがいいという選択はあって当然です。そして、ICTの発達や価値観の変化でそれが可能な時代になってきてもいるのです。

オンラインで学べるサービスやフリースクールもたくさんあります。それらを活用すれば、学校に行くよりもかえって個別最適化された学びができます。つまり、自分に合った内容を自分に合った方法で自分に合ったペースで効果的に学べるということです。個別最適化は学力を上げるためにとても大事なことなのですが、日本の学校は一人の先生による大人数一斉授業なのでできないのです。

自宅にいて自分が好きなことややりたいことに熱中して、自分の世界を掘り下げることもできます。「できます」というより、ぜひ、そうしてあげてください。そういう時間が多ければ幸福感が増しますし、生活全体に張りが出てきます。好きな分野を深掘りすることで自信がつけば自己肯定感も上がりますし、生きる意欲が出てきます。

また、脳科学によると好きなことに熱中しているときにドーパミンがたくさん出て、脳のシナプスがどんどん増えます。これによって脳の処理能力が上がり、地頭がよくなります。認識力・思考力・判断力・情報処理力・記憶力などが上がるのです。地頭をよくすることで、「いわゆる勉強」においても学力の大幅な向上が可能になります。

大事なのは登校することではない

また、自分が好きなことに熱中した経験がある人は、自分がやりたいことを自分で見つけてどんどんやっていく自己実現力もつきます。これはAI化やグローバル化が進む激動の時代において極めて大切な能力です。

ということで、子どもが「学校に行きたくない」と言っても慌てる必要はありません。深呼吸して気持ちを落ち着かせ、ドーンと構えてください。そして、まずは共感的に話を聞くことから始めてください。

大事なのは登校することではありません。「登校ありき」で臨まず、子どもが安らかな気持ちで幸せに生活できるようにしてあげてください。これが最優先です。

不登校の子は家にいても安らげないことが多いです。こういう状態が続くのは子どもの精神衛生面で本当によくありません。大事なことなので何度も言いますが、とにかく子どもが安らかな気持ちで幸せに生活できるようにしてあげてください。


この連載の記事一覧はこちら

(親野 智可等 : 教育評論家)