「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の平本淳也代表(右)と石丸志門副代表。かつての石丸氏は、35年前から問題を告発してきた平本氏を批判する側だったという(撮影:尾形文繁)

「タレント数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれるという、深く憂慮すべき疑惑が明らかになった」。ジャニーズ事務所元社長の故・ジャニー喜多川氏による性加害問題について、国連の人権理事会「ビジネスと人権」作業部会の専門家は訪日調査の結果、そう指摘した。

8月5日配信の『国連も調査「ジャニーズ問題」に企業はどう対応?』で記したように、企業活動や企業経営という観点でも見過ごしてはならない問題のはずだ。そこで、元所属タレントらで結成された「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の平本淳也代表と石丸志門副代表に、改めてこの問題について語ってもらった。

──国連の「ビジネスと人権」作業部会の専門家が8月4日に開いた記者会見は、各メディアが取り上げました。一般の人たちの関心は変わったと感じますか。

平本 テレビをつけると、いろんな番組で自分たちの姿が映し出されたことは大きかった。だからといって、一般の人たちが関心を持っているかというと皆無なのでは。他人事なので。(イギリスBBCが告発番組を放送する)3月以前はあなた方(記者)も関心なかったでしょ? 

日本マクドナルドや日産自動車など、ジャニーズタレントをCMに起用しているスポンサー企業の関係者も同様ではないか。対応に困っていると思う半面、「今のままで大丈夫ではないか」と考えていないか。

ただ、世の中のみなさんが悪いと言っているわけではない。ほかの社会問題については自分もそうなので。だからこそ、会見では石丸が「この問題を報道し続けてください」と訴えた。

何を持って「救済」か、答えられますか

石丸 メディアでの取り上げ方はとくに地上波テレビで物足りないと感じるが、この問題についての情報はそうとうインプットされたと思う。一方で先日の会見では、事の本質がまだまだ理解されていないと感じる場面があったので、こう問いかけた。

「もしみなさんが今日の帰りにレイプ被害に遭って『救済します』と言われたら、何を求めますか。お金ですか、謝罪ですか。何を持って救済されたと判断されますか。この問いに答えられる人はいますか」

自分の体が汚されて、「1000万円で補償します」「1億円で補償します」といわれても、金額の問題ではない。メンタルケアの専門家を紹介しますといわれても、そこに通えば記憶を消せるのか。消えないですよ。

──性被害は石丸さんの心身にどのような影響を与えたのでしょうか。

石丸 PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされている。寝るときに電気を消すと、つま先から触られている感触を思い出す。触られた記憶ではなく、触られている感触。鳥肌がぶわーとたって、ぞくぞくぞくっと体が硬直して眠れない。

36歳でうつ病になって、今も続いている。当時は仕事が激務であったためと診断された。ところが今年5月に性被害を告白したら、うつ病もそれが原因ではないかと病院でいわれた。性被害に遭ったことをごまかすために、自ら激烈な働き方を好んで行っていたようだ。

一方でジャニーズは自分にとって人生の出発点。それを自己肯定するために、自分のブログではジャニーズやジャニー喜多川を賞賛していた。「洗脳」は、BBCの報道とカウアン・オカモトさんの告発で解けた。今はジャニーに「さん」と敬称をつけることもおぞましい。


石丸志門氏は2023年5月、自身のブログで「ジャニーさん、ごめんね」と題し、性被害を告白した(画像:石丸氏のブログ「ジャニあっく!」より)

カウアンさんと私の年齢差は30歳。その30年間にいったい何人の被害者が出たのか。私の感覚だと数千人はいる。(被害の場となった)合宿所の場所は年代によって違うが、当事者の会に入ったメンバーの話を聞くと、加害行為の中身は同じ。むしろ回数などは酷くなっている。

あのとき身を挺して動いていれば、後輩たちの被害を止められた可能性はゼロではなかったかもしれない。罪悪感を感じる。

受け入れないと居場所がなくなる

平本 先ほど石丸が言った「ぞわっ」とする感触は、リアルにわかる。あるとき不意にやってくる。

被害の度合いは人によって違う。されるのは、最初は抵抗するがもはやどうでもよくなる。「もう好きにしてくれ」とがまんすればいい。受け入れないと居場所がなくなる。「YOU、なんでここに来たの?来ちゃダメでしょ」と、みんなの前で言われるのは怖い。

でもどうしても越えられない壁が次にある。「YOUからは『愛して』くれないの?」と。そこを越えてがんばった人たちが活躍している人たち。擁護するわけではないが、彼からすると純真な愛情を注いでいただけ。ただ理性はゼロ。本能しかなかった。

──CMスポンサー企業などジャニーズ事務所に関連する企業には、告白をどう受けて止めてほしいですか。

石丸 もはや一芸能事務所と被害者たちだけの問題ではない。明らかに不健全な会社が何のお咎めもなく利益を得ている今の状態は正常なのか。経済界として意見を出してもいいくらいの状態だと思っている。


いしまる・しもん/1967年生まれ。1982〜85年までジャニーズ事務所に所属。少年隊の全国ツアーに帯同。イギリスBBCによる報道やカウアン・オカモト氏の告発を受け、自身も喜多川氏の性加害を告発。「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の副代表

平本 今の事務所に利益を提供し続けることは、被害者を冒涜していませんか。マクドナルドにせよ日産にせよ、世界的ブランドであり世界的な企業。この問題についての話し合いを社内でしたことがあるのか、何か対応するかどうかは知りたい。

石丸 日産はジャニーズタレントが多く出演する「24時間テレビ」の初回放送からのスポンサー。来年もスポンサーを続けるのだろうか。

来年6月には国連の作業部会が今回の調査についての最終報告書を人権理事会に提出する。その中では政府や日本企業に対する勧告が示されるだろう。スポンサー企業にも、今回のような事態が二度と生まれないような仕組みをつくっていくことに協力してほしい。

──「数十年にわたって不祥事のもみ消しに加担したと伝えられている」と国連の専門家に指摘されたメディアに対してはどうでしょう?

石丸 現場で取材される方たちの熱量は変わった。頑として動かなかったテレビ朝日が取材するようになっているし。取材したことの放送はなかなかしないが。

自分たちに傷がつかないように、アウトプットするタイミングを見計らっているようにみえる。「問題があると知っていたのに、なぜ今まで報じてこなかったのか」というアンチテーゼを自ら抱えることになるテーマなので。

──ジャニーズ事務所の対応は皆さんの目にどう映っていますか。

平本 事務所によって設置された「外部専門家による再発防止特別チーム」が被害者への調査を行っている。ただ、3〜4人目をヒアリングするまでに1か月以上かかっており、8月4日の国連専門家の会見の後になって私も調査を受けた。「一生懸命やっています」感を急いで出している。

当事者の会は、事実認定、謝罪、そのうえでの救済を1つのパッケージとして、話し合いで平和的に解決することを目指している。今年5月に事務所が公開した藤島ジュリー景子社長の動画は、事実として認めていないけれども謝っていた。それには怒りを覚えた。まずは事実の認定から始まる。


ひらもと・じゅんや/1966年生まれ。1980〜85年までジャニーズ事務所に所属。1996年に著者として告発本『ジャニーズのすべて』を出版。イギリスのBBCが2023年3月、ジャニー喜多川氏の性加害について報じたドキュメンタリー「プレデター」に出演。「ジャニーズ性加害問題当事者の会」代表

今だから明かせるが、国連の専門家は「私たちはあなたたちを救いに来た。あなたたちは救われなければならない」と、私たちの目をみて話を聞いてくれた。作業部会の専門家は国連を代表しているわけではないが、ここまで言ってくれたことには本当に救われた。

──救済に向けての考えは?

平本 自分たちだけが被害者ではない。今から20年後、30年後になって「やっと話せます」という被害者が出てくる可能性もある。救済は恒久的でなければならない。

被害者救済センターや基金のようなものを作るというアイデアはある。
そういうことができる組織づくりを一緒にしませんかと。被害調査を行うにしても、被害者同士だからこそ聞けることがある。

「俺はジャニーさんを喜ばせたよ」とか「やられまくりましたから」とか、ギャグでも交えないと、わが身に起こったことを第三者に話すことができない。実態をリアルに話すと今でも泣けてくる。私たちが遭った性被害とはそういうものだ。

(緒方 欽一 : 東洋経済 記者)
(大塚 隆史 : 東洋経済 記者)