自分の考えや気持ちを誰に対しても自由に話すことのできる状態がいい

ビジネスパーソンの間で今、「心理的安全性」という言葉が大きな関心を集めるようになってきた。企業などの組織や自身の仕事を一変させるこの言葉の意味とは何か。『週刊東洋経済』9月2日号では「『心理的安全性』超入門」を特集。注目キーワードのすべてを解説する。


組織の中で日々悪戦苦闘しているビジネスパーソンなら、「心理的安全性」という言葉がかなり気になっているはずだ。

提唱者である米ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授の著書 『恐れのない組織』は日本でもベストセラーになった。同氏によれば、職場ではみんな「無知だと思われたくない」「無能だと思われたくない」「邪魔だと思われたくない」「否定的だと思われたくない」という4つの不安を抱えている。

例えば会議中にほかの人に変な質問をして無知だと思われたり、仕事で何度も失敗して無能だと思われたりすることへの不安を心の奥底に抱えているのである。

自分らしく活動していける状態

心理的安全性の定義は専門家の間でも100%一致しているわけではない。取材内容をまとめると、「組織内で自分の考えや気持ちを誰に対しても安心して発言できる状態。内部で安心感が共有される」ということになる。ほかの人たちの反応に怖さを感じることなく、自分らしく活動していける状態といえるだろうか。

極端な話だが、権力をすべて握るオーナー経営者が「恐怖政治」を行っているような企業は、心理的安全性の低い組織と考えられる(下写真上のイメージ)。できるだけフラットな関係性を構築し、活発なコミュニケーションが行われるのが望ましい(下写真下のイメージ)。もちろん、それにはいくつものプロセスが必要になる。


心理的安全性が低い組織と高い組織 (写真:Getty Images)

注意したいのは、多くのビジネスパーソンが「心理的安全性の高い組織はぬるま湯的な組織である」と勘違いしていることだ。心理的安全性の高い組織には一定の緊張感も伴う。この特集内でプロノイア・グループのピョートル・フェリクス・グジバチ氏が指摘するように、目的を間違えると「ワイワイガヤガヤ、笑い声が聞こえる」だけの職場になってしまう。目指すのはあくまで仕事で高いパフォーマンスを達成することなのである。

心理的安全性を高めていくために具体的に何をすべきなのか。特集ではこのテーマで最も注目されるエキスパートたちに詳しく解説してもらった。そのうえで、組織のリーダーやメンバーが今日から始めることのできる取り組みを紹介する。この特集で、日頃から頭の中に引っかかっていて、もやもやとしていた心理的安全性のすべてがわかるようになるはずだ。


全体の構図を理解してもらうためにこの心理的安全性を図解にしてみた。また心理的安全性に関連する重要なキーワードもまとめたので、ご覧頂きたい。エイミー・C・エドモンドソン氏が提唱した「心理的安全性」。あらためて定義を確認すると、組織内で自分の考えや気持ちを誰に対しても安心して発言できる状態を指すことである。組織のほかのメンバーが自分の発言を遮ったり、罰したりしない状態である。

この組織やチームにいる限り、人間関係の悪化が広がらないという安心感が共有されている。

人には優しい組織

職場にはみんなが感じる「4つの不安」があるというのは先ほど述べた。これをどう解消していくかがとくに大事になっていく。プロノイア・グループのピョートル・フェリクス・グジバチ氏によれば、その考え方の基本は「人に優しく結果に厳しく」「管理しないで支援」だ。


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心理的安全性の高い状態が確保されている組織では、絶えず情報が四方八方に流れている。その結果、独創的なアイデアが生まれ、事業におけるイノベーションも起きやすい。

旧態依然とした組織の風土改革において推進力となることもある。不祥事を起こしたメガバンクが今まさにそうした取り組みを行っているし、常勝軍団を築いた大学ラクビー部の例もある。また8月の全国高校野球選手権で優勝した慶應義塾高校は心理的安全性の高さがその要因になったといっていいだろう。

今、日本の社会や企業が直面している閉塞感を打ち破る要因の1つのキーワードが心理的安全性なのである。



(堀川 美行 : 東洋経済 記者)