小学校高学年〜中高生向けの、「読書感想文を書きやすい本/書きがいのある本」を紹介します(写真:プラナ/PIXTA)

夏休みに宿題として出され、多くの子どもたちを悩ませる読書感想文。「子どもたちに、本を読む楽しさを知ってほしい」と思う反面、「自分も書くのが苦手だったな……」と思う方も少なくないのでは?

そこで東洋経済オンラインでは、プロの書評家・三宅香帆さんが小中高校生の読書感想文の課題図書を読み直し、本気で読書感想文にする企画を実施。「読書感想文のコツ」を届けつつ、「想いを文字にする楽しさ」「本を読む楽しさ」を子どもたちに知ってもらうことを目指します。

約8週間にわたってお届けする短期集中連載の第7回は、「まだ間に合う! 読書感想文オススメの作品」と題し、「読書感想文を書きやすい本/書きがいのある本」を紹介します。

読書感想文の書き方や、その指導法について書いてきたこの連載。そろそろ8月も終わりそうですが、宿題は終わりましたか? もう新学期が始まっている学校も多そうですね。さて今回は、読書感想文におすすめの本を紹介してみましょう。

小学校高学年〜中高生におすすめの本を紹介

基本的に、お子さんの学年によっておすすめすべき本もさまざまではあります。今回はひとまず小学校高学年〜中高生におすすめの本を選んでみました。

『ぼくと未来屋の夏』(はやみねかおる、青い鳥文庫、講談社)

夏休み、自由研究を通して神隠しの謎に挑んだ小学生の思い出を描いた児童文学。ファンタジー小説かなと思って読み始めると、徐々に本格的なミステリ小説であることに気づくはずです。

児童文学の名手がつづる、青い鳥文庫レーベルの傑作は、今までミステリ小説を読んでこなかった方々にも「ミステリって面白い!」と思ってもらえるのではないでしょうか。

また、村の伝説やキャラクターの秘密など、さまざまな仕掛けで読者の興味を引いてくれるので、読書感想文において重要な「印象に残った箇所を挙げる」ことも比較的やりやすいはず!

『なぜ私たちは理系を選んだのか』(桝太一、岩波ジュニアスタートブックス、岩波書店)

元日本テレビアナウンサーの桝太一さんが、さまざまな理系出身の大人に「なぜこの分野に進んだのか?」を聞いてまわったインタビュー集です。

本書の特徴的な点は、理系出身ではあるけれども、最終的に彼らが就いている仕事が理系の分野ばかりではないこと。たとえば宇宙飛行士、科学博物館や水族館の職員もいますが、YouTuberや小説家も登場するのです。進路に悩んでいる方や、勉強する意味がわからない子にこそ読んでほしい!

ちなみに小説が苦手な子はこういうインタビュー集や対談集をテーマに書いてみるのも、かなりおすすめです。自分に引きつけた感想文が書きやすいので。

今生きる社会の価値観を考え直してみる

『モモ』(ミヒャエル・エンデ、岩波少年文庫、岩波書店)


ドイツで生まれた古典的名作児童文学です。ある町の片隅に住むモモは、特別な能力を持っていました。それは「人の話をじっと聞く」ことができるというもの。

なぜそれが特殊能力なのか? この街には、時間のない人が多すぎて、誰もが人の話に耳を傾けられなくなってしまっているからです。

最近はやりの「タイパ(効率重視でタイムパフォーマンスを考えること)」をめぐる物語ですので、ぜひ自分のタイパの考え方と比べて読んでみることをおすすめします。

どれくらい自分がタイパを重視しているのか、そしてモモのような生き方、街の人々の生き方を読んでどう感じるのか、読書感想文の書きがいのある小説なのです。

『生きづらい明治社会 不安と競争の時代』(松沢裕作、岩波ジュニア新書、岩波書店)

歴史に興味がある子にとって、これ以上ないくらい刺激的な、10代向けの新書がこちらです。明治時代、実は私たちが今生きる社会のはじまりがたくさん存在していました。「頑張れば成功する」という価値観、実は明治時代にやってきた考え方なんですよ!

自分の中にある、明治時代らしい価値観と、本書で語られる価値観を比較してみれば、あっという間に読書感想文が誕生してしまいます。中学生から高校生に、とてもおすすめしたい1冊です。歴史に対する考え方も変わるかもしれません。

『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ (シリーズ「あいだで考える」)』(奈倉有里、創元社)

「10代以上のすべての人のための人文書ーあいだで考える」シリーズの1冊として刊行されたこちらは、ロシア文学研究者・翻訳家によるエッセイです。

しかし、ただの随筆というよりは、言葉についてじっくり考えるおしゃべり、というテイスト。翻訳や通訳、あるいは語学や異国での生活に興味がある方にとっては、面白いと思えるトピックが1つは見つかる本だと思います。

翻訳とはどういう行為なのか? 翻訳家はいったい何をしているのか? そんな問いについて教えてくれる本書は、自分の言葉を見直すきっかけにもなりうる1冊です。ぜひ自分が普段使っている言葉とともに、本書で伝えようとしている言語の営みについて考えてみてくださいね。こちらも主に中学生〜高校生向けにおすすめです。

全然興味がなかった分野の本を探してみるのも

こんなふうに、フィクション、ノンフィクションに限らず、さまざまな分野でお子さん向けの本は刊行されています。図書館や書店で、ぜひお子さんが興味を持った分野に近しい本、あるいは全然興味がなかった分野の本を探してみるのも、夏の終わりの思い出になるのではないでしょうか?

今回おすすめした本は、もちろん大人でもじゅうぶん楽しめる本ばかりですので、親御さんとお子さんが一緒に読むのもおすすめですよ!

(三宅 香帆 : 文筆家)