9月に発売予定のシャークニンジャのドライヤー「Shark FlexStyle」。写真は髪が自動で巻き付くアタッチメント「エアカーラー」(写真:シャークニンジャ)

一人世帯や少人数世帯が増加し、日本ではここ数十年でライフスタイルが大きく変わってきている。家電製品といえば、冷蔵庫や洗濯機といった大型家電が中心だったが、最近では少人数世帯が使いやすいコンパクトな便利家電や個人の好みに合わせた家電もよく売れており、家電のジャンルも細分化されている。

独自の目線で開発されたユニークな便利家電は、海外の企業や中小企業がヒット製品を生み出し、大企業が遅れをとることも増えてきた。「シャークニンジャ」もハンディークリーナーというカテゴリで頭角を現し、他社にも大きな影響を与えた。そのシャークニンジャが、今度は美容家電にも参入するという。

「ハンディークリーナー」が大ヒット

「シャークニンジャ」と聞いても、ピンと来る人は少ないのかもしれない。

日本ではハンディークリーナーが大ヒットし、2018年9月の発売開始からわずか3カ月でコードレスハンディークリーナー市場のトップに躍り出た(シャークニンジャ調べ)。家電量販店のクリーナー売り場でも目にとまる位置で大々的に販売されていたことから、一度は見たことがある方も多いのではないだろうか。

シャークニンジャという名前から、海外向けに製品を販売する日本メーカーと思う方もいるかもしれないが、北米の会社である。もともとはEuro-Pro(ユーロ・プロ)という会社であったが、途中で社名を変更している。

サメに似たデザインのハンディークリーナーを販売し、1999年に「Shark」ブランドを立ち上げ、そこからフロアケア製品を拡充した。2010年にはユニークで実用的なブレンダーを「Ninja」ブランドとして販売し、コーヒーメーカーやマルチクッカーなどの調理家電も次々に発売。「Shark」と「Ninja」ブランドがそれぞれ北米で浸透したことから、2015年に社名をShark Ninjaと改名して、現在に至る。

日本独自のニーズを徹底的に研究

日本には2018年に「シャークニンジャ」として上陸し、販売を開始する。日本で販売する製品に関しては、日本独自の掃除シーンやニーズを日本で徹底的に研究し、ローカライズしていることが特徴だ。上陸当時に取材したことがあるが、単に北米で販売している製品をそのまま日本で売るのではなく、日本の生活シーンでとくに重視されるサイズ感や使い勝手、お手入れのしやすさを調査しながら日本のユーザー好みに合わせているという話を聞いた。


大ヒットしたハンディークリーナー「EVOPOWER」。模倣品が多数発売された(筆者撮影)

先に発売したのはコードレススティッククリーナーだが、2018年に発売したコードレスハンディークリーナー「EVOPOWER」が日本で大ヒットとなり、シャークニンジャは一躍有名になった。

当時、ハンディークリーナーはそれほど注目されている家電ではなかった。ダイソンを中心に、コードレススティッククリーナーが大人気で、日本のメーカーも競うように新しいコードレススティッククリーナーを発売していたころだ。

「EVOPOWER」は、狭い場所でも使い勝手がよく、吸引力が高い。棚やソファ、布団などをパッと掃除できるハンディークリーナーだ。また、「映えるデザイン」も受け入れられた大きな要因の1つだ。

一見掃除機には見えず、出しっぱなしにしていてもインテリアを損ねることがない。お手入れ面でも考えられており、ボタンを押すだけでパッとゴミを捨てられる。床だけではなく、部屋中を手軽に掃除できる手軽さがきれい好きな日本人に受け入れられた。このヒットを受けて、そっくりな模倣品が他社から続々発売されるほど、当時は業界にインパクトを与えた。

注目されていなかったハンディークリーナーの需要を掘り起こしたシャークニンジャだが、同社が発売したコードレススティッククリーナーは、ハンディークリーナーほどの大ヒットにはなっていない。コードレススティッククリーナーの中で後発としては健闘しており、一部ユーザーからは高い支持を得ているものの、一般的には認知度が高いとは言えないだろう。

そんなシャークニンジャが、新たに挑戦する分野は「美容家電」。9月にユニークなドライヤーが発売される。

美容機器の世界市場規模は、2021年で約9.1兆円。2022年から2030年の年平均成長率は21%と試算されており、2030年には約50.1兆円に達すると見込まれている。世界的にみると期待されている成長分野だ(パノラマデータインサイト調べ。1ドル145円換算)。

国内ではヤーマン、パナソニック、MTGが強く、ドライヤーはダイソンも好評で根強い人気がある。新たに参入した美容分野で、シャークニンジャはこの波に乗りたいところだろう。

アタッチメントが豊富なユニークなドライヤー


シャークニンジャ「Shark FlexStyle」。ひねるとドライヤーになるユニークなギミック(筆者撮影)

美容機器に勢いがある中、本国アメリカで「Shark BEAUTY」ブランドを立ち上げ、2023年8月2日には日本でヘアドライヤー「Shark FlexStyle」(以下、FlexStyle)が発表された。

FlexStyleは多機能なドライヤーで、カールなどのヘアアレンジも簡単にできるスタイラーとしても使える。ひねると本体の先端が直角に曲がり、ドライヤーにもなるユニークな構造だ。このような形状に変わることで、後ろ髪のセットもしやすい。使わないときは本体がスティック状になるので、収納時はコンパクトだ。

特徴的なのは近づけるだけで髪が巻き付く「エアカーラー」などのアタッチメントが付属していること。温風が円柱に沿って流れるコアンダ効果で髪が自動的に巻き付く仕組みで、手軽に短時間でスタイリングできる。


髪が自動で巻き付くアタッチメント「エアカーラー」(筆者撮影)

コテやカールアイロンとは異なり、熱ではなく風の力で乾かすので濡れた状態でも使える。乾ききった髪に高温でスタイリングするよりもダメージが少なく、自然なカールで今風の垢抜けた雰囲気になる。

この「コアンダ効果」で思い出すのは、ダイソン「エアラップ マルチスタイラー」シリーズだ。すでに販売しており、初代から比べて改良を重ねている。FlexStyleの場合、右巻き用と左巻き用の2本が付属しており、使い分ける必要がある。これは、髪が巻かれる方向は一定で、風向きを変えられないためだ。

「エアラップ マルチスタイラー」の場合、カーラーは1本のみで、切り替えることで左右どちらも使えるようになっている。付け替える必要がない点は魅力だ。その点は、やはり先行して販売し、改良を続けている「エアラップ マルチスタイラー」のほうが使い勝手はよい。


アタッチメントが豊富。さまざまなスタイリングができる(筆者撮影)

一方、FlexStyleのロールブラシは天然の猪毛を採用している。くるくるドライヤーのように使えるアタッチメントで、猪毛のため、使えば使うほど髪にツヤが出る。同社によると、日本で販売しているFlexStyleは、先に海外で販売されている同製品よりも日本人の髪質に合わせて猪毛を増量しているという。

細やかな配慮はシャークニンジャの得意とするところで、ハンディークリーナーのように日本人の好みに合わせて今後も開発・改良をしていくことだろう。なお、予想実売価格は3万4980円前後で、競合のダイソン「エアラップ マルチスタイラー」シリーズ(直販価格4万4000円〜)より価格は安い。コスパのよさでは「Shark FlexStyle」に軍配が上がる。

ハンディークリーナーは、新しい切り口と質感のよさで大ヒットに導いた実績があるが、急激に成長している美容機器分野でも頭角を現すのだろうか。注目が集まっている。

(石井 和美 : 家電プロレビュアー)