勉強の本質と、社会人の勉強において大切な要素を紹介します(写真:foly/PIXTA)

多くの方は、社会人の勉強を難しく考えすぎています。勉強の本質は「できないことをできるようにすること」。そのうえで必要になるのは「知識」と「スキル」を分けて習得し、最終的な自分の目標に向けて「どう生かすか」を考えることです。

こう語るのは、これまで2万人の社会人の勉強に成果をもたらしてきた、社会人向けの学習塾を中心に展開するスタディーハッカー代表取締役の岡健作さん。岡さんの『勉強の戦略──9割の「努力」をやめ、真に必要な一点に集中する』から抜粋・編集し、社会人が最短の時間、最高の効率で勉強するための戦略をお伝えします。

勉強とはすべて「実技科目」である

多くの人は「勉強」について、難しく考えすぎています。

勉強とは、シンプルに言うと「できないことを、できるようにする」という行為です。

そのためには「できないこと」、つまり「課題」の解像度を上げないといけません。

もっと言えば「〇〇について勉強する」ということ自体が、より大きな人生の課題を解決するための手段なのです。

「勉強することそのものが目的です」という考えの方ももちろんいらっしゃいますが、この記事の読者の皆さんには、あまり当てはまらないと思います。

もしそうであるならば、勉強の先には「仕事や人生をよりよくしたい」という目的があるはず。そのための手段である勉強に、いろいろとほかの意味を持たせても、ただノイズになるだけです。

これは、学生の勉強と社会人の勉強の、大きな違いかもしれません。

学校では基本的に、知識を身につけることを目的として勉強します。

しかし、学校を卒業したら、学校で得た知識は「あると有利になることが多い武器」ではありますが、「最終的な目的」ではなくなります。

社会人にとっては、勉強ができるということよりも、それを「どう生かすか」を考える力のほうが大切な要素になります。


(『勉強の戦略』本文より)

勉強して身につくことには、大きく2つの種類があります。

1つは「知識」。もう1つは「スキル」です。

「知識」とは、暗記したり、理解したりして身につけていくもの。

一方で、「英語を速く読む」「計算をすばやく正確にする」などのような「スキル」はトレーニングによって習得する必要があります。この2つは鍛え方が違うのです。

たとえば、数学の応用問題を解くとします。微分や積分などは、計算のスキルです。微分や積分は、やり方を知っていて、ゆっくり時間をかけてもいいのなら、できる人も多いでしょう。

ですが、実際には、問題を時間内に解くためには、スピードも重要です。そのために「スキル」が必要なのです。

スキルがなく、計算に負荷がかかりすぎると、問題はなかなか解けません。計算に必死で、問題の全体像を忘れてしまい、ロジックもわからなくなってくるでしょう。

数学の応用問題を解くには、複数の知識を組み合わせて、ロジックを立てないといけません。そこに脳のリソースを可能な限り割くようにしないといけない。

だから、その前段階の「この公式はどう使うのか」「この数式はどうやって解くのか」といったところは、半自動化できるぐらいまでトレーニングしておく必要があります。

「微分や積分なら、もう知ってるよ」という人でも、それを半自動的にこなすスキルが足りないから、その先の難しい問題でつまずいている可能性があります。

ちなみに塾を作ったときから、うちのコンセプトは「教えるな、鍛えろ」です。知識だけあってもダメで、スキルを鍛えないといけない。

英語でいうなら「英語の知識」だけをたくさん身につけても、試験の点数は、ほとんど上がりません。ただの「英語ものしり」になるだけです。知識があるだけでは「だから何?」という状態。

知識を生かして英語を素早く読んだり、聞いたり、それを受けて話したりするために、どうトレーニングするかが大切です。

英語のYouTubeを2時間ぐらい見て「あ〜、今日は2時間も勉強したな」と満足して寝てしまったら、絶対に成績は上がりません。

英語は「実技科目」です。知識だけ入れたってしょうがないのです。

「知識とスキルは違う」

これを知っているだけで、勉強に対する解像度はぐんと上がります。

あなたは今、知識を身につけているのか? スキルを身につけているのか? 

これを認識したうえで勉強すると、思考がクリアになっていきます。

知識量が「理解力」の底上げをする

では「理解力」とは何か? 

理解力とは「知識の量」に支えられています。論理が理解できないのは「そこに使われている言葉の知識がない」のが原因であることがほとんど。

理解ができないのは、多くの場合、知識が足りないからなのです。

たとえば「雨が降りました。だから傘を買いました」という文章のロジックが理解できないという人はいないはずです。シンプルな順接です。

でもこの文章は、実際にはいくつかの論理をスキップしています。ものすごく丁寧に論理をつなぐと「雨が降りました。今は傘を持っていなくて、濡れるのが嫌だから、濡れないために傘を買いました」となるでしょう。

これが理解できるのは、「前提知識」が揃っているからです。

この文章を理解できたあなたは、「雨」についての知識もあるし、「濡れたら嫌だな」という感覚も共有できているし、「傘は雨を防ぐためのツールだ」ということも知っています。

現代文で、「小林秀雄の文章がわかりにくい」と言われることがあります。でもこれも知識があれば、ある程度わかるようになるものです。小林秀雄の文章は、まず語彙が現代のものと違いますよね。このような言葉の前提知識にズレがあって、さらに背景知識も不足しがち。そのせいで正確に捉えきれないから、現代の人にとっては難しく感じるのです。

物事を理解できないのは「論理的思考力」が欠けているからではなく、単に「知識」の問題であることが多いのです。知識さえ身につければ、誰でもある程度は理解できるようになるはずです。

傘が雨を防ぐツールだということを知らなかったら「雨が降りました。だから傘を買いました」という文章は理解できません。

この「知識」を使うことによって、知らない言葉も推測することができます。たとえば、まったく英語ができない人でも「雨が降ったから、アンブレラを買ったんだよね」と言われたら「アンブレラは傘のことかな」と推測できます。

知識とスキルは同時並行で習得する

このように、知識を増やすことは、勉強の土台になります。

何かを身につけるときには「知識」と「スキル」が必要です。

しかし、知識がないと理解が進まず、理解できていないと、スキルも身につきません。

どの分野の知識を、どのぐらいのレベルで身につけるべきか。

それは「ゴール」次第で変わってきます。そうなってくると、少なくとも、自分が進もうとしている道について、一般的な知識は持っておかないといけないでしょう。


たとえば、本を読むことは「スキル」です。「読書」というスキルを身につけるためには、「漢字を読める」という知識がないといけません。

また、専門分野を体系的に理解していくためには、ある程度の基礎的な知識がないと無理でしょう。

まったく知らない分野の本をいきなり読むなんて難しいことですよね。たとえば、何も知らないまま、簿記の本を読んでもおそらく理解できません。

知らない分野を新たに勉強し始めたい方のために、「入門書」のようなものが存在しているのは、基本的にはそれが理由です。

ただ、たとえば英語などは、すでに学校で学んで、知っている内容も多いでしょう。その場合は、今の自分の前提知識がどの程度なのか、試しにテストなどを受けて確認してから勉強するようにしましょう。

(岡 健作 : スタディーハッカー代表取締役社長)