2023年5月31日、北朝鮮・東倉里の西海衛星発射場で行われた軍事偵察衛星打ち上げの様子(写真・朝鮮通信=共同)

北朝鮮の国家的目標は今回も達成できなかった。2023年8月24日未明、北朝鮮が軍事偵察衛星を発射したものの失敗した。北朝鮮国営・朝鮮中央通信も失敗したと報道した。

北朝鮮は2023年5月31日に軍事偵察衛星「万里鏡1号」を搭載したロケット「千里馬1型」を発射したが失敗した。今回の発射では1、2段階のエンジン燃焼には成功したものの、3段階目のエンジンで飛行中、「非常爆発システム」にエラーが生じ失敗したと、北朝鮮の国家宇宙開発局は説明している。

10月に3回目の発射を行うと宣言

前回5月の発射では1段階目のエンジンにエラーが生じている。国家宇宙開発局は「該当事故の原因として、段階別のエンジンの信頼性とシステムに関して大きな問題はない」と述べ、原因を徹底して究明し、対策を立案、10月に3回目の発射を行うと明らかにした。とにかく、軍事偵察衛星を発射し、軌道に乗せる考えのようだ。

北朝鮮がここまで軍事偵察衛星にこだわるのはなぜか。それは5月の発射直前に、朝鮮労働党中央軍事委員会の李炳哲(リ・ビョンチョル)副委員長が発表した「立場表明」にあるとおりだ。アメリカが原子力潜水艦や偵察機などを朝鮮半島に展開して北朝鮮と周辺国家を監視していることが、北朝鮮にとって重大な脅威だと説明している。

「アメリカは韓国と手を結び、軍事的に北朝鮮へ対抗しようとしている」とも立場表明で述べている。それならば、偵察衛星を発射して軌道に乗せて運用することでアメリカや韓国の動きをしっかりと把握する。そして、自ら保有する戦術・戦略ミサイルと衛星を連携させて軍事力の向上を図る――。北朝鮮側の論理と当面の目標は、失敗しても変わることはないだろう。

とくに今回は、2023年8月18日に初の日米韓3カ国による首脳会談が開催され、北朝鮮からの脅威に対抗したいという韓国側の意向を取り入れた合意文書が発表された。北朝鮮にとっては、かなりの圧力となっているだろう。

また、8月下旬には米韓合同軍事演習が始まった。これへの牽制でロケットを再発射したとも考えられる。また、9月9日は北朝鮮の建国記念日で今年は75周年を迎える。記念日の前に北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記肝いりのプロジェクトで花を添えたいという意向は当然あったはずだ。

北朝鮮は10月に3回目の発射を行うと公言した以上、10月のどこかで発射する可能性が高い。10月10日は朝鮮労働党の創建記念日もあり、発射時期もその前後になるかもしれない。

ある自衛隊幹部OBは「失敗したロケットを再び打ち上げるには、1、2カ月という短期間ではできない」とし、またまた失敗に終わるのではと指摘する。ただ、韓国の専門家の中には、5月の発射は1段階エンジンで失敗、今回は3段階目まで進んだので「着実に進展している」という見方も少なくはない。

北朝鮮国内ではすでに「成功」?

2023年5月の発射の後、6月中旬に開催された重要会議である朝鮮労働党中央委員会第8期第8回総会では、金総書記が「偵察衛星発射の失敗は最も厳重な欠陥」と指摘、「発射を成功させる」とハッパをかけている。科学的には成功の前には失敗を重ねることは当然という見方からすれば、北朝鮮は成功するまで必ず発射を続ける可能性がとても高い。

一方で、2023年7月下旬に北朝鮮に入国したビジネスマンが東洋経済に話したところによれば、北朝鮮で人に会うたびに「軍事偵察衛星にわが国は成功した」と聞かされたと打ち明けた。5月の発射の直前直後の映像が国内で流され「成功した」ということに北朝鮮国内ではなっているのだろう。

では今回の失敗を国民にどう説明するのかとの疑問が湧くが、一方で「成功」は北朝鮮国内では既定路線、さらには既成事実になっているとも考えられる。それもあり、金総書記は「必ずやる、成功するまで発射する」という方針は、今後もなおさら変えられないはずだ。

(福田 恵介 : 東洋経済 解説部コラムニスト)