戸郷翔征＆大勢が語るWBCへの熱き想い「すべてのポジションで日本のために尽くせるよう、準備します！」
昨シーズン、自身初の2ケタとなる12勝をマークした巨人・戸郷翔征と、ルーキーながら新人記録に並ぶ37セーブを挙げた大勢。ともに第５回WBCの日本代表に選出され、世界一に向けた戦いに挑む。そんなふたりにWBCへの想いについて語ってもらった。
昨年、自己最多の12勝をマークした戸郷翔征
戸郷 大勢さんにとっての子どもの頃のヒーローって誰でしたか。
大勢 ヒーロー？ ウルトラマンかな。ウルトラマンの基地が本当にあると思って、山にある電線を見ながら友だちに「あそこがウルトラマンの基地だ」って力説してた（笑）。
戸郷 ウルトラマンはあんまり見てなかったなぁ。僕のヒーローは杉内（俊哉）投手。九州出身でホークスファンだったし、球速以上に速く見えるまっすぐとスライダー、チェンジアップで三振をたくさんとって、すべてに惚れていました。
大勢 イチローさんが決勝タイムリーを打ったWBCでも、杉内さんはジョーカー的に活躍していたね。
戸郷 そうなんですよ。あの時の杉内さんも普段は先発なのにWBCでは中継ぎを託されて、今の僕と同じような立場だったんです。大勢さんはWBCと言われて思い出すのはどのシーンですか。
大勢 やっぱり2009年のWBCだね。イチローさんが韓国との決勝で勝ち越しのタイムリーを打ったところかな。
戸郷 どこで見ていたんですか。
大勢 あの時は10歳で、友だちの家で見てたなぁ。学校が終わって、WBC見ようぜって言って、友だちの家に押しかけた気がする。
戸郷 僕がプロに入った１年目、杉内さんが三軍のピッチングコーチだったんで、いきなり憧れの人にいろいろ教えていただいて......あれは感激しましたね。まさか、杉内さんと同じ中継ぎの役割でWBCに出られるなんて、あの頃は想像もしませんでした。
大勢 僕も日の丸をつけて野球するのは昨秋の強化試合が初めてだったけど、JAPANのユニフォームには憧れもあったし、うれしかったなぁ。プロ野球を代表するような選手になりたいという漠然とした気持ちはあったけど、それが日本代表とかWBCとか、そういうところに結びついていなかったもんね。
戸郷 僕は去年の秋は、なんだか浮いた感じでしたね。あまり実感もなくて、地に足がついてなかった。
大勢 戸郷は高校の時、宮崎選抜のピッチャーとして合宿中のＵ−18を相手に投げたって聞いたけど......。
戸郷 大阪桐蔭の根尾昂くん（現・中日）とか藤原恭大くん（現・ロッテ）がJAPANのユニフォームを着ていましたね。やっぱり同世代には負けたくなかったし、悔しい思いもたくさんしてきたので、ここまでやってきたことは間違いじゃなかったということをあの頃の自分に伝えてあげたいなとは思います。
大勢 僕は逆に、高校の時の自分にはそれじゃダメだと伝えたいことがあるなぁ......大学時代にケガをしてから、しんどい練習をただこなすだけじゃなく、この練習が何にどうつながるのかを考えてやるのが大切なんだということに早く気づけ、と伝えてあげたい。ウエイトトレーニングにしても、このメニューが組まれているからやるというだけで、このトレーニングが野球の何につながるのかを考えず、ただ重い重量に挑戦するだけだったもんね。大きなケガをして、パーソナルトレーニングに通うようになってからは勉強したし、考えるようになったかな。
戸郷 僕は肩やヒジを痛めたことがないんです。フォームについてはいろんな考え方があると思いますが、投げやすい投げ方で投げるのが一番だと思っていて......高校の時、動作解析をしながら、これなら故障しないという投げ方にたどり着いて今があるので、自分のこの投げ方はイケると思っていました。大勢さんはずっとケガと戦ってきたんですよね。
大勢 大学４年の春、リーグ戦の試合で投げているとき、右ヒジを疲労骨折したんだ。しばらく投げられない時期が続いて......あれは野球人生で一番高い壁だったなぁ。でも、プロ野球選手になりたいという目標があったので、何とか頑張れたような気がする。落ち込んだときでも、自分がどうなりたいかという目標を立てて、それを達成するために何をどう追求していくのかを考えることは本当に大事だよね。
昨年、新人最多タイ記録となる37セーブを挙げ、新人王に輝いた大勢
戸郷 僕はあんまり落ち込むことはないんですけど......。
大勢 戸郷って、いつも落ち着いてるよね。それでいて子どもっぽいところも抜けてないというか......ホントに落ち込むこと、ないの？
戸郷 もちろん気持ちが落ちることはありますけど切り替えが早いというか、ドーンと落ちっぱなしということはないかな。僕は悪かった時ほど、わざとその日の映像を見るんです。そういう時ほど、悪いところが見つかったりするんですよ。気分がいい時に悪い映像を見ても、いいことは得られない......これは菅野（智之）さんに教わりました。「悪い時ほどその映像を見てみろ、いい時の映像を見るよりも気づくことが多いはずだ」って......僕はそもそも悪かった時に映像で振り返るのはあまり好きではなかったんですけど、でもそう言っていただいてからはしっかり見るようになりました。そうしたら、やっぱり悪い時ほど悪い癖が出ていたり、よくない配球に気づいたり、いろいろと見つかるんです。ああ、そういう映像にヒントが隠されているんだなと思いました。
大勢 たしかに、これがいいと思い込んでいたことでも、勉強してみたら必ずしも正しいとは限らないということがわかったりするからね。それって、ケガをしてからじゃなかったら気づかなかった。ケガをする前は当たり前だと思っていたことが、決して当たり前じゃないということを再確認できたと思う。元気で野球をやれているのは決して当たり前のことじゃないんだって......たとえば同じ150キロでも、ただ一生懸命、ガチャ投げで出す150キロと、理にかなった投げ方で出る150キロは球の質が違うでしょ。身体の負担も違うし、そういうことを意識しながらトレーニングすると、こういう投げ方をすれば力を入れなくてもスピードが出るということがわかってくる。野球をやれる有り難みを感じると、いろんなことを考えるようになるね。
戸郷 でも大勢さんのボール、ホントにえげつないっスよね。あんなボールを投げてみたいなって思いながらキャッチボールしてますよ。
大勢 戸郷の真っすぐもメッチャ伸びてくるよ。たまに変化球も混ぜてくるけど、フォークの軌道もヤバいでしょ。真っすぐから急にストンと落ちてくる。奪三振のタイトルを獲るピッチャーはやっぱり凄いよね。
戸郷 大勢さんこそ、どんな状況にも臆せず、どんなバッターでもねじ伏せてやるというメンタルの強さがあって、すごいなと思います。クローザーって苦しくないですか？ 勝ってる試合をつくってきたピッチャーの思いを背負ってゲームを締めるわけで、自分の状態がよくなくても行かなきゃいけない。先発は悪ければ自分で責任をとれるけど、クローザーはいろんなものを背負わされますからね。
大勢 僕は先発をやりたいとずっと思っていたし、今も憧れはあるんだけど、でもまだそのレベルには達していないという感じかな。ただ、どのポジションでもそれぞれの責任やプレッシャーはあるよね。
【WBCが終わったら家に招待します】戸郷 僕、菅野さんには「将来はジャイアンツを背負っていく、じゃなくて、現段階で背負うんだ、という気持ちでいなきゃダメだ」とも言っていただいていて、そのおかげで背負う意識は人一倍、強くなっていると思ってます。
大勢 大変だなぁ。僕はそういうことは何も考えてないから......気負いすぎてもパフォーマンスが出せないし、抑えって、先発や中継ぎピッチャー、野手の方々が勝ってるゲームをつくってくれてようやく価値が生まれるポジションだから、その責任だけは感じながら普段の練習に取り組んでる。でも、マウンドに上がってしまえば、いい意味で何も考えないようにしてる。WBCでもどんな場面で投げるのかわからないけど、短期決戦ではどの試合も大事だから、行けと言われた場面で最高のパフォーマンスを発揮できるように準備しないとね。
戸郷 僕もすべてのポジションで日本のために尽くせるよう、準備しています。どこでもある程度の経験は積んできていますから、その経験を生かせたらと思っています。
大勢 でも、第２先発の経験はないでしょ。
戸郷 中継ぎと同じだと考えればいいんでしょうけど、でもWBCの場合は球数に達したら自動的に交代ですから、急に登板することになったり、やっぱり投げないということになったり、そのあたり、第２先発ならではの難しさはありますね。ブルペンで投げすぎたり、投げずにマウンドへ行ったりということが、去年の秋にもありました。大勢さんはこれまでにダルビッシュ（有）さんとか大谷（翔平）さんと話をしたことはあったんですか。
大勢 いや、ないけど、でも２人とも、小っちゃいときにナマで見たことあるからね。
戸郷 えっ、ナマで？
大勢 ダルビッシュさんは東北高校の時に甲子園へ見に行ったし、大谷さんのファイターズ時代のホームランもほっともっと（フィールド神戸）で見てる。間近でふたりの練習を見られるなんて、すごいよね。何を大切にして野球をやっているのか、答えはきっとひとつじゃないとは思うけど、そんなことを聞いてみたいなぁ。
戸郷 僕も大谷さんには投球術とか、投げ方を聞いてみたいし、ダルビッシュさんはたくさんの変化球を持っているので、ひとつでも僕に合うものがあればと思って、ぐいぐいと話しかけていくつもりです。大勢さん、WBCでマイク・トラウトを打席に迎えたら、どう抑えますか。
大勢 どの球を投げても甘く入ったら打たれると思うので、強気で勝負したいかな。そのなかで相手を感じながら投げられたらいいと思うけど、やっぱり手が伸びるゾーンは危ないから、低めじゃなくて高めの真っすぐを３球続けるとか......もちろん、相手のガッツキ方を見ながらにはなるけどね。
戸郷 僕も真っすぐで攻めたいですね。真っすぐでファウルをとってフォークを振らせられたら最高です。
大勢 僕のピッチャーとしてのゴールは、相手バッターを下から煽るような伸びる真っすぐをどんどん投げていくということだから、メジャーリーガーを相手にもそういう真っすぐを投げて、どんどん空振りを取りたいな。
戸郷 WBCが終わったら、家に招待しますから、一緒にごはん食べましょう。
大勢 今年からひとり暮らしを始めたんだよね。鍋でもする？
戸郷 絶対、焼肉でしょ。簡単な焼肉。妙に凝って美味しくなかったらイヤなんで、安定のタレで......ホントは宮崎県民御用達の戸村のタレで食べてもらいたいんですが、大勢さん、好き嫌いありそうなんで、無難なところで（笑）。
大勢 じゃあ、僕は地元の（兵庫県）多可町にある八千代の巻きずしの店が銀座にオープンしたんで、それをお土産に持っていくよ。焼肉と巻きずしで、世界一を祝いたいね。
