※この記事は2012年06月28日にBLOGOSで公開されたものです

佐久間正英氏。(撮影:田野幸伸) 写真一覧

BOØWY、JUDY AND MARY、GLAY、THE BLUE HEARTS、黒夢、くるりなど、数多くのミュージシャンのプロデュースを手がけてきた音楽プロデューサー・佐久間正英氏。音楽業界で長年ビジネスと制作の両面で活躍してきた佐久間氏が自身のFacebook・ブログ連続でアップした「音楽家が音楽を諦める時」「昨夜の投稿の追加文」「音楽における音情報」の3エントリが大きな話題を呼んだ。ビジネスとアートをどう両立させるのか、そして、日本の音楽家や音楽業界が抱える問題について、佐久間氏に話を聞くことができた。【編集部 大谷広太・田野幸伸】

プロデューサーとして感じる”危惧”

-音楽に携わる方には、作詞・作曲家、プロデューサー、レコーディングのエンジニアなど、最終的にパッケージとしてリスナーに届くまでに、多くの職種や役割の方の手を経ていると思います。また、それぞれのお仕事に、ビジネスサイドとアーティストサイドの二軸のスタンスやアプローチがあると思います。

佐久間さんご自身は、作曲者やバンドのメンバーとしてではなく、プロデューサーとしては、どのようなスタンスでお仕事をなさっているのでしょうか。


佐久間氏:漠然としていて、語弊があるんですけど、要は、「いい音楽」を作る、「いい音楽」にしたいということです。

プロデュースという仕事だけに関して言えば、それは、僕にとっての「いい音楽」ではないんです。アーティストにとっての「いい音楽」を作るのが僕の仕事です。だから僕の仕事は、そのバンドをより良くしたい、その舞台をより良くしたい、より良い作品を作りたいというところだけですね。

-曲を作った人やバンドが、何をどのようにアウトプットして、リスナーに届けたいかという、”音の理想像”みたいなもの、”表現したいこと”を形にすると。

佐久間氏:はい。それをどう引っ張り出して、どう整合性を取るか。プロデュースというのは、建築に例えて言えば、現場監督なんです。全体像を見ることができて、図面が読めて。最終的にはネジの1つも落っこちてないようにした上で、引き渡せるようにすると。だから、設計士ではないし、大工でもない。曲に口を出したり、実際に楽器を演奏することで、その”設計”や”大工”の仕事を手伝うときもあるけど。

僕の様なプロデューサーの仕事は、その建物に自分の思い入れを入れ込む、自分はこういう部材を使ったほうがいいと思うとかって口出すことではなくて、設計士から相談を受けた時に初めて、僕だったらこれを使いますね、と言う。そういう仕事なんです。

-今回の佐久間さんのエントリは、どちらかというとアーティストサイドの立場でのお話しのように読んだのですが、反応は、大きく2つあったのではないかと思います。

ひとつは、多額の制作コストがかかっているにもかかわらず、商品は売れないというこの状況に、もっと早く気付いて諦めたらいいのに、という批判です。

そしてもうひとつは、初音ミクを使って、「ボーカロイド作曲・アレンジ講座」を開講したり、ウェブ上で無料で音楽を発表したりと、制作とビジネスの両面で新しい領域に積極的に取り組んでいた、その佐久間さんが「諦める」と書いたことに衝撃を受けたという意見。これは佐久間さんの活動を知っていないとわからないことではありますが…。


佐久間氏:僕はあくまで文化の話として危惧があって、このままだと日本の音楽文化はもっとだめになっちゃうぞ、という話として書いたものです。だから「音楽家が音楽を諦める時」は、ビジネスとしてではなくて、この先、日本の音楽をもっとよくしていくことを諦めなくてはいけないと。そういう意味の”諦める”というニュアンスだったんですね。

だから批判の意見を読んだときに違和感を感じて。よく考えてみたらあの文章を音楽ビジネスの話だと捉えた方も多かったのです。音楽文化の話しだったのですが。

コストの話も誤解を生んだ一因だった様ですが、今は特にコストをかけなくてももちろん制作は出来るわけですし、いかにコストかけないかということも制作者としては大事なことです。

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いい環境でやらない限り気付けないことがある

-やっぱり仕事をするからにはいい仕事をしたい、納得する仕事をしたい、という部分は、音楽業界に携わっていなくても、みなさん共感していただける部分なのかなと思います。だからこそ、やはりこのままでは、先ほどの”理想像”をどんどん実現させるのが難しくなってしまうという実感の中で「この状況を諦めるか」と書いたと。

佐久間氏:それなりの手法があるので出来るのですが、僕の言うのは音楽の文化としての継承や、発展ですよね。例えば、アメリカでもヨーロッパでも、音楽業界の状況は似たようなものだと思うんですけど、音楽をやってきた歴史と背景があまりにも違います。だから今でも向こうのバンドはほっといてもいいことができる。それはお金の問題ではない。

-具体的にはどのような点で違いますか?

佐久間氏:例えば演奏力です。

すでにプロとしてデビューしているバンドならば、認められた実績があるわけで、一定の演奏力、表現力はありますよね。それでもとても足りない部分があるんですよ。それをレコーディングなどを通して、いろんなことを教えていく。

そうするとバンドっていうのは一気に伸びていくんです。レコーディングは、アルバムだったら1ヶ月くらいはかかる。で、その1ヶ月の時間の中にたくさん話すこともできるし、教えることもできる。でも、それが実際には、今のようにコストがかけられなくなると、アルバム1枚を3日で作るとか、5日で作ることになる。その3日の付き合いの中で、どれだけのことを教えられるか、どれだけの関係性を作り上げられるかと言ったら、それはとてもむずかしいですよ。

実はもっといいものが出来るかもしれないし。せっかくいい才能を感じていても、その上澄みくらいまでしか引っ張り出せない。そういうことへの危惧なんです。

僕らみたいなプロが今まで培ってきた歴史、得てきたノウハウが活かされなくなって、若い子たちがどうやって作ったらいいか分かんなくなってしまうことはもったいないことだなと。

ロックバンドの話で言えば、せっかく才能のある、優れている人たちでもアマチュアバンドのまま止まっちゃいます。

録音っていうのは、エンジニア的な、テクニカルな話だけではなくて、楽器を選ぶ、良い楽器と良くない楽器の違いを知ることも重要です。例えば若いバンドをプロデュースしていると、彼らは良い楽器を持ってないわけですよ。そういう子たちに良い楽器を貸したり直してあげたりすると。「こんなに弾きやすかったんだ」って初めて知るわけです。それは経験しないと分からないですよ。初めて良い楽器を手にして、良いアンプで鳴らし、いいスタジオでいい録音状態で聴いて、俺の弾くギターっていうのはこういう音がするのか、とわかる。

それをやらせてあげられる環境がなくなっちゃうと、本当にプレイヤーが育たなくなってしまう。些細なことだけれども一番大事な音楽を作り出す時点のスタート。例えば、ギターのピック1枚、種類を変えるだけで音は全然変わるわけです。あるいは電源ケーブルを変えるだけでも音が変わる。そういうことを伝えて行けなくなる。

でも、その違いに気づけないわけなんですよ。いい環境でやらない限り。そのノウハウというか、音楽の捉え方みたいなものを含めて、伝えにくくなってしまった。

-聴いている側としては、いや、別にそれでもいいんだよ、と言う方もいらっしゃるかもしれないですよね。

佐久間氏:それはそういう文化が育ってしまったということですよね。今回の僕のエントリへの反応を見ていると、昔の音楽は良かったとか、昔のバンドは良かった、みたいな意見も多かった。それはまさにそういうことかなと。音楽が良くなれば、音楽を聴かなくなるってことはないと思う。僕は、ボーカロイドには批判的ではないんですけど。つまらないからみんな、人が歌っているのより、ボーカロイドがよっぽどいいや、ってなっちゃうんです。

そこに関しては、アメリカは圧倒的な歴史や知識の世代間の積み重ねがあります。例えば、僕の親の世代である80から90歳の年代が、ジャズを聴いて踊っていた世代。でも、その世代の日本人は、ほとんどそんな音楽は聴いたことがない。日本では僕らの世代が見様見真似でやっと始まったようなものですから。

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日本の音楽業界の問題点

-ツイートを拝見していまして、違法ダウンロードの刑事罰化も、巡り巡ると表現する人たちにとっても、いい結果をもたらさないということをおっしゃっていました。

佐久間氏:表現をする人たちの”自由”を保証するように法を改正していかないと。今は自由じゃないんですよ。

例えば、仮に音楽をウェブで売ろうとした時に、自分で作った曲であっても権利登録されていたらできないわけですよ。あるいはどこかのレコード会社で作っちゃっていたものも、もうできない。曲なんて資産ですよね。そうやって縛るのではなく、煩雑な手続きもなく有効活用できる、もっとオープンな方向な音楽シーンというか、環境に向かわないとさらに衰退するんじゃないかなと思う。

-海外はエンターテインメントビジネスが日本に比べて非常に発達している印象があるのですが、アーティストとレコード会社との契約や業界の慣習など、海外と日本で違う点にはどのようなところがあるのでしょうか。

佐久間氏: 僕は80年代にPLASTICSというバンドをやっていて、海外ではラフ・トレード・レコード(Rough Trade Records)、アイランド・レコード(Island Records)というレコード会社から出したりしているんですけど、レコード会社の体質とか、やり方っていうのが全く違うんです。

当時のアイランド・レコードは、世界でも大ヒットを沢山飛ばしていましたが、ちっちゃな建物でした。しかも人数もそんなにいない。壁には大きな模造紙を貼って、手書きで各バンドのスケジュールなどを書いている。ラフ・トレード・レコードでは社員が自分たちで箱詰めをして、1階からトラックで積んで出荷すると。そんなやり方です。はじめから考え方や規模が違って。日本のレコード産業の構造的な問題はそこらへんだと思います。

-音楽に対する考え方とか目的みたいなものがちょっと違うと感じたのでしょうか。

佐久間氏:そうですね。音楽への真剣さを感じました。僕が初めてラフ・トレードの社長に会いに行き、社長室に入って行った時に、名前を言う前に、「お前、PLASTICSだな」と言われた。PLASTICSはラフ・トレード・レコードからは1枚しか出していないし、会いに行ったのは発売後10年近く経ってからのことです。

社長が、たった一枚しか出していないアーティストのことも分かる。「あれよかった」と、音楽の話ができる。ビジネスに対する真面目さがあまりにも違うなと感じました。

アイランド・レコードでPLASTICSでアメリカを回っていた時に、各地方ごとに営業の担当が来るんです。彼らは、初対面の時にもちろんバンドの全員の名前がわかる。で、「今回のを聴いたけど、あれは前のバージョンのほうが好きだった」とか、そういう話までちゃんと出来るんです。

日本では地方にプロモーションに行くとラジオ局を回ったりして最後はご接待、となるわけですが、この人は僕らの音楽を聴いたことがあるのかっていう人がたくさんいるわけです。引き連れるコースのことしか考えていない。

通常の商売では、当たり前のことですが、自分のところの商品を触ったこともないやつが商品を売れるわけがない。でも、そういう普通では無いことがずっとまかり通ってしまったのが、日本の音楽業界なんです。

-音楽業界にいる人たちが、自分で実際にCDを買ったりしてないんじゃないのだろうかというような批判もあります。

佐久間氏:そんなことはないと思います。擁護するわけではないんですけど、レコード会社でやっている人は音楽は好きですよ。ただ音楽を商品として扱える知識がないですね。売上を伸ばすための宣伝方法とかそういう知識はあるのですが、商品自体に対する知識があまりにもないんじゃないかなと。

知識があるとしても、アーティストのキャラクターとか、こいつはこういうやつだとか、こいつはこういう曲を作るやつだとか、その範囲にとどまっている感じがするんです。商品のこの部品の、ここを変えればもっとよくなるんじゃないか、ということを考えられる人がほとんどいない。そういう部分は全部プロデューサーとかに丸投げしてしまっている。

もちろん、たまにとても優れた方もいたりするんですけど、この人は優れているなと思ってた人は、だいたい社長とかになっちゃうんですけど(笑)。

商業的な部分での音楽の作り方だけを見ていても、例えばアイドルでは、まともに歌ったこともない子をオーディションで集めて、その中でルックスがよくて歌がマシな子を選んでやる、で、売る、何万枚売れたでよしとしている。

韓国のシーンを見ていると、アーティストを見つけるためにすごく真剣な努力をしていて、一番才能のある子を何年もかけて育て上げる。日本向けに出そうとしている子には、デビュー前に日本語を徹底的に勉強させる、1年くらい日本に住ませることもある。そこまでお金を投資して初めてデビューさせるんです。日本のアイドルのクオリティでかなうわけがないんですよ。

例えば楽曲にしても、日本では何人かの作曲家に依頼したとしても選ぶのはディレクターとか事務所社長とか、言ってしまえば音楽をあまりよく分かっていない人だったりするみたいですが韓国での話を聞くと、今回はスウェーデンのグループの曲を、という具合に、世界中に発注して集めている。そういうレベルで対応している。

ビジネスの仕方も、印象ではアメリカのビジネスのやり方と近い。僕が会った方も、日本の音楽業界の人とはまるでスピードが違うんですね。話していて、「気に入った、分かった、じゃあすぐ契約しよう」、「契約のドラフトはどういうふうに作ろう」と、初対面の場で出たことがあります。すごくびっくりしました。日本だったら、「ではこの話は会社に持ち帰って、社内で協議します」となる。それからドラフトを作成、そして3ヶ月後にという話になると思うんです。

-日本のアーティストがアジアに行って人気が出ていると報道は良く目にしますが、知らない間にアジアに負けてしまっていると。

佐久間氏:かなりの部分で負けているとは思いますね。アジアで音楽祭があっても、最近では日本のアイドルが呼ばれる数は圧倒的に少ないですから。数年前だったら、もっとたくさん呼ばれていました。

シンガポールもまだ発展途上な段階なんですけど、これからやっていくのにどの国とタッグを組むかという話になっても、初めから相手として日本は考えていないと言うんです。日本の音楽レベルには興味がないと言われているような気がしました。

アジアの中では、ロックバンドに関しては唯一日本にも活路があるのかなと思いますが、正直に言って、それも時間の問題かなという気がしてます。今のやり方をしていると、聖飢魔IIであれ、GLAYであれ、B’zであれ、せっかくあのレベルまで持ってきたものがもう育たないだろうなという感じがしています。

東京・中目黒にある青葉台スタジオ。ここで数々の名盤が録音されています。 写真一覧

「違法DL刑事罰化」の議論もいずれ笑い話に

-編集部の私達は30歳前後ですので、記録媒体としてはCDが主流の世代です。リスナーとしては、配信が主流になって、音楽自体はデータになってしまったので、ジャケットやブックレットへの思い入れや、それが棚に並んでいたりすることがなくなってしまったことを少し寂しく感じたりもします。今回のエントリの反応の中にも、CDから配信になったことに触れた意見がありました。

佐久間氏:それは過渡期現象であって、例えば、アナログ盤からCDになっていく時に、ジャケットが小さいのじゃアートは表現できない、ジャケットはあのサイズが楽しかった、そういう意見はありました。

ダウンロードなんてのも一過性のもので、あんな面倒くさいことをしたくないわけですよ。昔の人はFMでエア・チェックして、で、それを楽しみにしたんですけど、それは音楽を聴きながらだから楽しめる。ダウンロードっていうのは音楽を聴いていないから、楽しいことでもなんでもなくて面倒くさい。

もっとインフラが整備されて転送・通信速度が上がれば、ダウンロードではなく、ストリーミングに向かって行くと思うんです。

ダウンロードっていうのは個人間のやりとりくらいになると思うんですよ。そういう場合でもほとんど、Dropboxに象徴されるようにPCの中にたくさんのデータを入れておくような時代は遅かれ早かれなくなるのかなと思います。

そうすれば権利も含めて管理もしやすくなるし、違法ダウンロードだのなんだのって今言っているのがナンセンスな課題だったねって、笑い話に必ずなるんじゃないかと思うんですよ。

-データがどこにあるかの問題ではなくなりますからね。

アナログからCDになって音が悪いとか、CDからMP3になって音が悪いとかっていうのも、全てインフラの未整備とか、そういう技術的な問題だと思うんです。過渡期現象における貧困な感じです。

例えば、わざわざMP3にコンバートしちゃうのはデータ転送速度が遅いからなんだけど、音楽を作っている現場では、もっと高いレートでやっている。それをそのまま出せればいいんですけど、インフラがよくなれば必ずいい音の配信になる。しかも、いずれは必ずCDよりもいい音で配信できる。

デジタル化していくという問題は、実は技術の発達の問題だと思うんですよ。僕は今DSD(Direct Stream Digital)と言う方式でやっているのですが、本当は全てDSDに向かうべきだと思いますよ。まだ転送速度の問題だとか技術的にまだ現実化できないだけで。

-いずれ、本当の生演奏に近い音で聴ける日が。

佐久間氏:必ずくる。僕らが音楽を作っている。それをミキシングの人がDSDにする。ミックスしてDSDに落としたものをDSDプレイヤーを持っている人が聴けば、全く同じ音を聴ける。DSDっていうのは距離感から何からそのまま入るので。

-最初の話に戻りますが(笑)、そうなると、やはり佐久間さんがご自身のエントリで問題提起された、スタジオの”職人”の技術は、むしろこの先必要になってくるわけですね。

佐久間氏:とても大事なんですよね。

-そうすると、せっかく、もうすぐとてもいい音で聴けるような環境になる手前に、そこで文化が途絶えてしまって…

佐久間氏:特に日本の場合はそうなる。

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今のうちに何とかしないと手遅れになる

-これから音楽に触れることになるような子どもたちにとっては、いい時代なんでしょうか。そうではないのでしょうか。

佐久間氏:いや、音楽を始めるには、どの時代も、いい時代も悪い時代もないと思いますね。ただ、僕の若い頃に比べて、今は情報が簡単に入る分ラッキーですが、その分、勘違いしやすいという面ではアンラッキー。でもそれは、情報を整理して、どう自分のものにしていくか、それも含めて個人の力量だから、それでダメならどうやってもダメなわけで。同じ時代を同じところで生きていても伸びる子はすごくなるわけです。

総じて良くなることなんてあり得なくて、抜きん出た子も抜きん出方がどうかっていう。今は抜きん出方のピークが小さいなと。相対的にレベルをあげるなんて言うのは無理ですね。

-たしかに、情報量が多すぎて、どれを聴いていていいのか分からないっていうのがあるのかもしれないですね。

佐久間氏:例えば、インディーズの音源をダウンロードできるサイトにいっても、たくさんありすぎて、片っ端から聴いて好きなのを探せと言われても、探しようもない。じゃあ、いいや、買わないや、ってなっちゃうんです。

そういう意味で、A&R(編集部注:アーティストや、アーティストに合った楽曲の発掘や育成、契約を行う職種。)の役割は今までよりも、さらに重要になってきていると思うんです。レコード会社でそういうノウハウを持っていた人が、レコード会社がだめになったからってやめちゃわないで、そのせっかくのノウハウをそういうところにどんどん活かすことができるシステムができていくといいなとは思うんです。

-逆に、大ヒット、ミリオンセラーが出なくなったという話があります。

佐久間氏:ミリオンなんて出なくなるに決まっているんですよ。僕の考えを言えば、ミリオンが出るような時代っていうのは、みんなが共通の情報を持ちたい時ですよね。あの子が聴いているから私も、みたいな。そういう時期なだけで、それが個に向かった時代には絶対ミリオンは存在しない。100万枚売れるアーティストが1組出るより、1万枚売れるアーティストが100組出たほうが文化的には正しいと思う。

-好みが細分化されているというということは、それぞれのジャンルで、チャンスがあるということも言えますよね。

佐久間氏:そうだと思う。ただ、いつの間にか気付いたら1万枚売れるのが100組ではなくて、100枚しか売れないアーティストが1万組になっちゃったっていうのが今の状況ですよね。

-“表現”と”娯楽”の両立が難しくなっているということはありますか?

佐久間氏:実際には、ちゃんと表現できていればそれがエンターテインメントになる。半端だからエンターテインメントにはならないっていうだけだと思うんですけど。

-以前、坂本龍一さんが、CDが売れない現状について、これからはパッケージされたアウトプットより、ライブパフォーマンスにも注力したほうがいいんじゃないかという主旨の発言をされたことがありました。

佐久間氏:収入のバランスをとるには、今ビジュアル系の人たちがやっているような形が一番いいとは思います。ライブとグッズで。CDはおまけに近いようなスタイル。それでリクープすればいいっていう考えがある気がします。

でも僕はそうではないだろうなって思うんですよ。ライブを見られるのは僅かな人々と少しの時間です。実際には多くの人はヘッドホンで音楽を聴き、家で音楽を流し、ということをやっている。もし新しい録音物が作れなくなってしまったら、みんな昔のものしか聴けなくなってしまう。

-最近では、握手券目的で大量のAKB48のCDが購入され、そして捨てられている、ということについての議論がありました。CDの中に入っている、音楽を作っている人々からしたら、どういう思いなんでしょうか。

佐久間氏:あれは、捨てられようが何をされようが、あの”パッケージ”が売れることが目的なので、CDを捨てるなんて、みたいな気持ちは全然無いですね。あの場合、そこではCDは”包装の一部”だと思うので。他のものが欲しくて、おまけでCDがついてきているということです。例えば、本を買っておまけでCDがついてきたとして、CDに興味が無い人は捨てますよ。それと同じことであって、商売としてずるいも何もないとぼくは思うんです。

-リスナーが今後考えていかなければならないことは。

佐久間氏:音楽を作る人間が真摯な態度で、それと同時に、届ける人間もちゃんとしたいい音楽を手がけていけば、どうもしなくていいと思うんですよ。

それを聴いていればもちろん人も変わってくるわけで。大衆が音楽をダメにするわけでもないし、音楽をダメにしているとしたら、それはやはり音楽家、あるいは音楽を出す人たちなんじゃないかなと思うんです。

-そうした危機感を踏まえて、廃れようとしているノウハウをなんとかとしなければならないと問題提起されたと。

佐久間氏:今のうちに何とかしないと手遅れになっちゃうぞと。それは業界を守るためでも、ビジネスのためでもなくて、音楽を守るため。それは僕だけではなくて、僕の周りの友達のプロデューサーと話をしていても、「音楽を諦める時」だっていう雰囲気がするんですね。やめちゃおうかなって。

僕は音楽はやめないけど、このまま関わっていくのは悲しいなっていう。そこまでしてやりたくないし、ほかのバイトをしてもいいやみたいな。そのくらいどうしようもない危機的な状況にある。僕がああやって書きましたけど、僕自身が音楽を一切やめる気なんか無くて、ただ、職業としての関わり方はだんだんバカらしくなってきてしまって。もちろん頑張らないといけないんですけど。夢の様な時代が来るまでは(笑)。

-AKB48のCDの話も、佐久間さんのエントリをめぐる論争も含め、みんな音楽が好きで、だからこそ熱く議論になるのだと思いました。

佐久間氏:それは明るい兆しというか、そんなに悲観的になることではないじゃんっていうことだとも言えるかもしれませんね。

-そんな中で佐久間さんがあえて声を上げられたからこその、今回の大きな反響だと思います。このインタビューにも、きっと色々なコメントがつくと思うのですけど(笑)。

佐久間氏:いい意味でも悪い意味でも(笑)。今回の記事もいろんな捉え方されちゃうだろうしね(笑)。

-今日はありがとうございました。(6月22日、佐久間氏の事務所にて)【編集部 大谷広太・田野幸伸】

プロフィール

佐久間正英(さくま まさひで)
1952年東京生。四人囃子・PLASTICSを始めNiNa, The d.e.p. などのバンドの主要メンバー。また、プロデューサーとしては1979年、P-MODELのプロデュースで活動を開始。以後SKIN, BOOWY, The Street Sliders, Up Beat, The Blue Hearts, 筋肉少女帯, Jun Sky Walkers, 氷室京介, JUDY AND MARY, GLAY, Hysteric Blue, 175R 等々その仕事数は140アーティストにのぼる。また、映画音楽、TV-CM等の音楽、作曲家・アレンジャーとしての仕事も幅広く手掛けている。

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・Masahide Sakuma - ブログ

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