「完全に元通りすることは、今でも課題」―被災地のビジネスホテルから見た復興― - BLOGOS編集部
※この記事は2012年06月26日にBLOGOSで公開されたものです
震災とそれに伴う津波で大きな被害を受けた岩手県宮古市。当地でビジネスホテル「宮古セントラルホテル熊安」を営む有限会社熊安旅館の専務・熊谷毅氏に震災から営業再開までの過程を聞きました。【取材・執筆：BLOGOS編集部 田野幸伸・永田正行 取材協力：福田記子】震災直後は、「途方にくれた」
――まず震災当日の様子を教えてください。
熊谷毅氏（以下、熊谷氏）：3.11当日、私はホテルの近くにある事務所にいました。地震が非常に大きかったので一旦外に出て、ホテルにすぐ戻りました。
その時既に停電になっていて、ホテルに戻ると大津波警報が聞こえてきました。幸い、お客さまは一人もいませんでしたが、従業員が5～6人いたので、一緒に5階か6階ぐらいまで避難しました。そして、3時30分くらいに津波が押し寄せてきたんです。その様子をバルコニーで従業員と見ていました。
どす黒い水がドーッと来ました。車や材木が、いろいろと流れてきて、ただ驚いて、みんな呆然としていました。水位はホテルの前で２ｍくらい。館内だと1.5ｍくらいです。私の顔くらいの高さまで来ました。
一度水が流れてきて、それが止まって、しばらくプールのような状態になりました。そこから徐々に徐々に引いていって、水が完全に引いたのは暗くなってからです。時間ははっきり覚えていないのですが、大体６時くらいでしたかね。それくらいにはほとんど水が引いたと思います。
―被災した直後のお気持ちをお聞かせください
熊谷氏：そうですね…みなさんそうだと思いますが、まったく初めての経験でした。一階がすべて浸水して、瓦礫などで駐車場も埋まった状態。当日は停電で電気もすべて消えていて、何も出来ない。
従業員の一人は水が引いてから帰りましたが、それ以外のスタッフは帰れないので、とりあえずホテルに泊まって、次の日に返しました。当然、営業は出来ません。一階は完全に使えない状況です。次の日からは、とにかくこの状態をどうしようかと思い、途方に暮れていました。皆さんそうだったと思います。次の日から敷地内の瓦礫の片付けから、始めました。とにかく片付けからしなければと。
―その時に営業再開出来ると思っていらっしゃいました？
熊谷氏：さすがにその当時は、はっきりわからなかったですね。ただ、客室が２階以上だったので、大打撃というわけではないと。一階のロビーや食堂はやられましたが、２階以上の客室は無事だったので、時間は掛かるかもしれないが、なんとかなるだろうと思い直しました。次の日からは、なんとか再開出来るかもしれないと考えて、とりあえず片付けから始めました。
―従業員の方は、どうされたんですか？
熊谷氏：しばらくは営業出来ないですし、その時点でははっきりとした再開のメドがわからなかったので、失業給付を受けてもらおうと考えました。再開する見込みでしたが、一旦は辞めてもらう形にしました。それが、確か3月20日以降でしたね。
とりあえず20日までは出てきてもらって、敷地内の片づけをしてもらいました。一階はすべて泥と瓦礫に埋まったので。それだけでもかなり時間が掛かりました。20日までに終わる量ではなかったのですが、20日以降は一旦退職のような形にしました。現在は、全員再雇用して働いてもらっています。とにかく4月一杯ぐらいまで、泥とガレキの片づけをしていましたね。
―震災後、復興関係の方が現地に入るので、宿泊施設が必要ですよね。そういう意味ではホテルの営業再開に対する期待も大きかったと思うのですが。
熊谷氏：そうですね、５月の下旬まで休んだのですが、その約２ヶ月の間も多くの問い合わせをいただきました。まだ休業中なのでダメですと、お断りしていましたが。出来るだけ早く復旧したいと思っていましたが、館内の主な設備がなかなか元に戻らなかったのです。特に水道と電気。電気は多少早く復旧したのですが、水道は時間が掛かりました。
―いつ頃、復旧したのですか？
熊谷氏：一ヶ月以上はかかったと思います。普通の水道は３月中に復旧したと記憶していますが、多くのホテルがそうであるように、うちの場合ポンプを使っているのです。電気のポンプで屋上の水槽に上げて、その水槽から館内に下ろす形です。
ポンプが水没してダメになり、その修理に時間が掛かったんです。当時は、注文が殺到していたようで業者も混雑していました。元々在庫があるのではなくて、注文を受けてから工場で作るので、益々時間が掛かる。福島の工場で作っている部品も何かあったので、原発事故の影響で生産が遅れてしまうということもあったようです。
―電気やガスについてはどうでしたか？
熊谷氏：震災直後、ガスは一度不足したんです。ガソリン、油が無くなって、プロパンガスも不足していました。節約しなきゃならない状況でしたね。
ウチの場合、水道と同じように電気でガスを送っているんです。その機械も一階にあったために、水没して壊れてしまった。それも同じように注文となりました。これも納品されるまで、かなり時間が掛かりました。
電気は被災していない地域は、すぐに復旧しましたが、被災した地域は時間が掛かりました。確か数週間ぐらいだった思います。あとは、エレベーターも時間が掛かりましたね、エレベーターが使えないと階段で全部上がらないといけないので、大変です。こちらの業者も混雑していて時間が掛かりました。
とにかく、営業再開できたことは本当によかった
―実際に営業再開されたのはいつでした？
熊谷氏：再開したのは、5月21日からです。震災から二ヶ月と少しですね。修理が終わっていないところもありましたから、完全な復旧再開ではなくて、仮営業という形で再開しました。一階にあった食堂が、かなりダメージを受け、修理にも時間が掛かるので、最初は素泊まり食事無しで営業を再開しました。７月の半ばからは、通常営業に切り替えました。
―再開後、利用客は多かったのですか？
熊谷氏：ええ。被災した施設も多かったので、ほとんど部屋が足りない状態だったと思います。復旧の関係の方、ボランティアの方に多くご利用いただきました。長期の滞在で利用される方が多かったように思います。
―言い方が不適切かもしれませんが、メディアでは震災後復興関係者がたくさん来てお金を落としている、「震災バブル」という言われ方をしています。仙台でお話を聞いた方は、昨年のお盆くらいまでで仙台に来る人は一段落したとおっしゃっていました。ある程度高い稼働率が維持されていたのは、感覚的にはどのくらいまででしょうか？
熊谷氏：同じように夏までですかね。夏を過ぎてからは、ちょっと落ち着いたような気がします。ちょうど仮設住宅の建設が終わった時期なんですよね。関係があったかもしれません。その後がちょっと落ち着いて、またしばらくして冬になってから少し混んできました。
―震災前の水準と比較するとどうでしょう？
熊谷氏：震災前よりは上がって来ましたね。再開出来たことは本当に良かったと思います。
―町の復興の様子については、如何でしょうか？
熊谷氏：近くの中央通り商店街は震災でかなり被害を受けましてお店の数も減ったそうです。
復興に向けて、徐々に再開したお店もありまして、商店街のイベントやセールなどの催しをやったり、震災に負けずに頑張ろうということで、商店街の会議も定期的にやっているようです。また、町全体としても観光協会がパンフレットを出すなどのＰＲをしているようです。
―営業再開されてもうすぐ１年です。この１年いろいろあったと思いますが、継続的に運営していくにあたって、一番難しかったのはどんなことでしょうか？
熊谷氏：どこが一番というのは、ぱっと出てこないんですが、完全に元通りにするのが難しいということですかね。現在も、細かい部分で補修工事しているところがあります。まだ完全には元通りというわけではないんです。また、こうした修理にも費用が掛かりましたので、そういった費用の工面に関しては厳しいと思いました。
―行政からの支援が資金面でもあったと思います。手続きの煩雑さとか公平性を重視するあまり、なかなか行き届かなかったりするといったことは各メディアで出ている話です。その辺りは実感としてはどうですか？
熊谷氏：直接の手続きは、弊社の場合社長がしていたので、詳しくはわかりません。でも、手続きが複雑だとは聞きました。いろいろ書類を揃えて、準備に時間が掛かるようでした。
―最後に、今後宮古市を訪れようという方に、現在の宮古の見所などがあったら教えていただけますか。
熊谷氏：観光協会を中心に、セールスを始めているようです。ですから、そろそろ観光などで来て欲しいとは、思っているはずです。浄土ヶ浜の方もほとんど片付いてきていて観光船も再開したようですし、支障のない範囲でお越しになって頂ければと思います。
―本日はありがとうございました
関連情報
・宮古セントラルホテル熊安Tel:0193-64-2121
宮古の代表的な景勝地である浄土ヶ浜 写真一覧
