「来年6月には出て行ってください」福島・仮設住宅の現実 - BLOGOS編集部
※この記事は2012年05月17日にBLOGOSで公開されたものです
震災から丸1年の報道をピークに、各メディアの被災地を取り上げる機会が減って来ています。そこで、4月23日から26日までの4日間、BLOGOS編集部は東日本大震災で被害の大きかった福島県・宮城県・岩手県の被災地3県を取材しました。昨年6月以来の現地取材となります。震災から100日の時点でお話を聞かせてくれた皆さんが、10ヶ月間どう過ごしたのか、復興の現状を伺いました。【取材：BLOGOS編集部 田野幸伸・永田正行 取材協力：福田記子】まずは昨年6月に福島県相馬郡新地町の避難所でお話を聞かせてくれた、酒井さん、多嶋さん、十河さんの入居した新地町すずめ塚応急仮設住宅を訪ねました。昨年、「ともだちできたもん！」と話してくれた柴田七楓ちゃん（6才）のお母さん、祖父の義男さんにもお話を伺うことができました。
※昨年6月のインタビュー
【特集：震災から100日（２）】避難所インタビュー：放射能でダメならダメって、はっきり言って欲しい。
いびきが聞こえる薄い壁
――こちらの仮設住宅が出来たのはいつですか？
６月の中旬？日曜日だったかな。入った日の事は覚えています。
――昨年６月にお話を聞かせていただいたのは避難中の体育館でした。移ってからいかがでしたか？
最初は周りの人に気を使っていました。子供も小さいのでバタバタして音を立てたりすると、周りの人に気を使いながらの生活でした。
――壁は薄いですか？
薄いですね。隣の声がすごく聞こえます。いびきとかも。
――じゃあ見えないだけというくらいのイメージだと。
そうですねえ。
――間取りはどれくらいですか？
４.５帖が２つに、台所、トイレかな。狭いですね。
――手狭ですね。大体皆さん３，４人でお住まいに？
４人ですね。子供だけだと５人で２部屋とか。
――３人でも５人でも同じ４.５帖２部屋と。
大人３人になると、ちょっと違った間取りになります。６帖、４.５帖、４.５帖かな。６帖がすごく広く感じます。
4.5帖のお部屋を見せて頂いた 写真一覧
女性 ありますね。
――壁が薄いと寒さ暑さはダイレクトに来てしまいますか？
寒さはひどかったです。後から断熱材を入れてもらいました。とにかく結露がすごくて。
――サッシは普通に一重ですか？
最初はそうでしたが、後から二重になりました。
サッシの間にはプチプチ（緩衝材）を挟んである 写真一覧
水道、光熱費と、集会場など共用分の電気代をみんなで割って払ってます。
――スーパーは近くにありますか？
小さなスーパー、コンビニくらいの大きさのがあります。そこかあと隣町までいくか、どちらかです。
――全部で何世帯くらい入っていますか？
ここだと５７世帯かな。
――ということは、ざっと１５０人くらいでしょうか。原町市の方が多いのですか？
ですね。南相馬市の方も多いかも。
――１番困っていらっしゃることは何ですか？
買い物が不便ですね。
――先ほどの小さなスーパーは？
そこへ行くにも車でないと行けない距離です。
――そうなんですね、ガソリンも値上がりしているのに・・・子供たちはストレスを抱えていたりしませんか？
子供たちは元気に走り回ってて。大きい子たちは、サッカーをやるとどうしても家の壁にぶつけちゃって、よく苦情がきます（苦笑）
写真一覧
駐車場の車とか。何しても危ない。
――避難所から仮設住宅に来て、喜んではいましたか？
うーん。たまに避難所がいいって言います。自由に遊べたからか、広かったからか。 遊ぶのにも友達がすぐそばにいましたし。
――壁が無かったからですからね（笑）。
昨年6月まで避難所だった駒ヶ嶺公民館の体育館 写真一覧
子供A：うん。
子供B：ボクは体育館の方がよかった。雨降っても遊べたもんね、サッカーも出来たし。夜遅くまでみんなでワイワイガヤガヤ出来たし。
――避難所はずっとボールの音がしてたもんね。
子供：（避難所に）いたの？
――６月に１回来てるの。その時、カメラにボールぶつけられた（笑）。
子供：そっか、あの時か。
――そうそう、思い出した？
子供：うん。
――子供たちは敷地内でどういうふうに遊んでいるんですか？
最近は自転車ブームで、小さい子はここらへんの歩道で、アスファルトのついたところを補助輪付きのでぐるぐると。みんな誕生日プレゼントが自転車ですね。自転車の数が増えてきた（笑）。
集会場の外にはバスケットゴール 写真一覧
左から多嶋春枝さん、十河麻理子さん、十河総一郎君、柴田七楓ちゃん、柴田かおりさん 写真一覧
来年6月に出て行ってください
――仮設に入居して１０ヶ月ほど経ちましたが、少しでもメドというか方針だったりは、市から示されましたか？ないですね全然。除染も進んでいないし。
――除染が進んで綺麗になったらご自宅に戻られますか？ それとも違う場所が見つかるのであれば引っ越したいですか？
放射線量が低ければ戻ってもいいかなと思いますが、ところどころホットスポットもあるから・・・子供が外で石を触ったりするので心配です。とりあえずここにいられる期間はこっちにいて、いられなくなるのであれば、地元に帰るか。それかそれなりに近いところにアパートを見つけるか。でもアパートも全然無いんですよ。この辺は。そうすると引越しも出来なくて。
――こちらにはいつまでいられるのですか？
１年伸びるという話もあったんですが、ここはみんな２年で出ていってくださいと。
――ええ？！
元々この土地を２年の契約で借りたみたいで、ここの持ち主が早く出ていってくださいと。
――もう１０ヶ月経っていますよね。
はい。あと１年ちょいです。
――あと１年２ヶ月と言われても困りますよね。
私は家が浪江町で、全然入れないので。今日の新聞を見ると２０年は戻るの無理だって・・・
酒井咲依さん 写真一覧
火力発電所勤務で休みなし
――お仕事はどうでしょう、新しく見つかりましたでしょうか？私は教職免許を持っていて、学校での仕事が見つかったのですが、１年契約なんです。探しても元と同じくらいの給料をもらえるところがなかなか無くて。今は緊急時というか期限付きが多いんですね。
――男性も含めて、この辺りの雇用というのは少しは戻ってきている？
うーん、どうなんだろう。こちらのご主人は火力発電所勤務なので。震災前に戻った感じですね。震災前より忙しいかも・・・
――フル稼働ですものね。
外工事というか、震災関連の出張が増えて。あっちこっち土日も行って、月曜日また仕事みたいな。休みなしで。
――原発が止まった分、火力でまかなうしかないので、各地の発電所を直したり、再稼働させつつ、他の発電所も手伝っていると。先ほど南相馬市役所に行ってきました。あの辺りは中心街でキレイになっていました。人は戻ってきているんですか？
外遊びをさせいので、子供の姿はほとんど見ないですね。
――親御さんが（放射線を避けるために）外で遊ばせないようにしていると。
そうですね。
旦那はカビた布団で寝ています
――今足りないもの、欲しいもの、必要なものは何がありますか？物を置く所がないです。収納をどうしようという感じで。冬に使ったストーブはしまって、夏使う扇風機を出す、みたいな事が出来ない。収納スペースが無いから、モノがあふれる一方で。
収納スペースは工夫で作っていた 写真一覧
冬ですね。夏はクーラーつけていればそうでもない。風邪でうちの子は入院しました。それに結露に悩みましたし。
――結露ですか？
湿気で黒くなってカビてきて。壁や窓や下のじゅうたんのところも。
――石油ストーブのせいですか？
何を焚いても一緒ですね。温めているからだよと言われて、何もしないで２、３日は子供にも我慢しろと言ってストーブ切って、こたつに入ってなるべく周りを温めないようにしたのですが、それでもすごかったですよね。常にしずくが垂れている（笑）
それも建物の場所によってひどい所があったり、まだマシなところがあったり。ウチなんて寝ていると水が垂れている音が聞こえる。
――ええっ！
冬の途中から断熱材が入ったり、２重サッシになったり、エアコンがもうひとつの部屋についたり、畳が入って。便座が暖かくなって。徐々に設備が整ってきたのですが、その工事のたびに荷物をどかすのが大変でした。
――行政に対して注文は？
静かな部屋で寝たい。畳を茶の間に入れたんだけど、そこの畳がカビちゃって。あと、ゴミ置き場に布団がよく捨ててあって、その時はなんで？って思ったけど、布団もカビちゃうんです。
――布団がカビちゃうんですか・・・
旦那の布団はカビちゃってるけどそれで寝てる。もうどうすることも出来ないから。干すにしても場所ないし。
――洗濯はどうされています？ 洗濯機は部屋の中？
部屋の中にあります。
――洗濯物を干すスペースだけはあるんですね。
布団を干すとなると、どこにも干せない。物干しがない。部屋の１つ分しか干すところがないんです。窓に掛ければいいじゃんと思うんだけれど、掛けると長くて地面についちゃう。窓開けとくと虫が入ってくるから、網戸を閉めるしかない。それに、犬とか動物がいるから、おしっことか臭くて、外にだすと匂いがしみつきそうだよねって。毛もすごいし。
犬小屋は1箇所に集められていた 写真一覧
――ペットを飼われているんですか？
ここの仮設は犬とかもOKなところで。犬小屋が集まっているところがあるんです。あと、蟻も来ます。
――アリ？
家の中に入ってきちゃうんです。窓にちょびっと隙間が開いていて。 立て付けというか、ちょびっとなんですけど、気づかないウチにそこから侵入してきてる。砂糖なんか置けません。
――夏は虫が大変と。
蛾もいるんです。ここは山なので大きいのが。あとはカメムシとか。
――海沿いに仮設住宅を作るわけにもいかないですしね。
虫除け剤も効かない（笑）洗濯物にカメムシが張り付いている。しかも取れない。災難といえばカメムシですね。臭いし。
柴田義男さん 写真一覧
総理大臣殺してでも帰りてえ
ここで、柴田かおりさんの父・義男さん（70）も集会場に来て下さいました。――柴田さん、今一番お困りの事は何でしょうか？ 結露が大変だとかカメムシが災難だというお話を聞いていました。
俺が一番言いたいのはウチへ帰りてえよ。なんのことはない、ウチへ帰りたい。ずっと言っているけど。総理大臣殺してでも帰りてえって。浪江から出る時は総理大臣命令だって。ほんなバカなことねえよ。総理大臣には難民なんてわからねえよ。
――２年でここを出ないといけないと聞きました。あと１年ちょっとです。
家がある浪江には震災の被害はあまり無いんだ。放射能が無ければ帰れるんだわ。だから放射能というものはどうやって消えるか。俺たちはわからねえ。たとえばあと５年、１０年後にはなんとかなるとか、国で示してくれればいいんだわな。それじゃあ後５年待てばいいとか。なんとかなるわけでしょ。素人にはわからねえからな。放射能というのは見えないから。
――目には見えないですね。
東電で昔ずっと働いていたのだが、こうなるとは思わなかった。
――東電のお仕事をされていた時は、やはり安全だと思っていましたか？
安全だのなんだのよりやっぱりお金だったから。そうだね、３０歳の頃だから、４０年前だな。この頃は東電が出来て始まった頃だったから。全然炉も何も出来てないで、品物を入れる倉庫を作って入れていた。
――これから作るぞという時。
そうそう。だから怖いとかなんとかではなく、大丈夫とか何も考えないもんな。
――こういうことになるとは思っていなかった。
思っていないね。原発は絶対安全だと東電ではみんな思っていた。だから最初は想定外、想定外と。なんで想定してねえんだってことだわな。
――みなさんこちらに（仮設住宅）いらっしゃっているのは、津波でも地震でもなく、原発事故が一番の原因だと思います。東電の対応はいかがでしたか？
書類を出して、お金はやっと帰ってきましたね。
――それでお仕事が無くなってしまったとかは？ 保証されたとはいえ。
保証金は金でしかねえ。これから仕事しろったって、私は定年で使ってくれるところも無いからね。
――我々は東京にいたので、東京の本社の会見をずっと見ていました。正直、反省している感じは全然しなかった。
だからそれは反省しているとか、していないとかじゃない。総理大臣が原発を見に来たってわからんでしょ？ 俺たちの事は考えていないんだよ。こういうふうにしてやったらば一番いいとかって。今は税金高くするとかばっかりだ。俺たちのことを考えろよって。大熊の方の人は原発から連絡があったのよ。ダメだから逃げろって。バスも回してもらって。浪江はパア。連絡も何もないんだよ。
朝７時半過ぎに（避難用の）バスが１台来たんだわ。それに乗って逃げろと。ほんとはあの時に逃げた、津島（高濃度の放射性物質が降り注いだ地域）へ登るってのは放射能のところへ行けってことだから。総理大臣命令だから津島に行けって言うわけさ。
このことこそ、お金に換えられないんだよ。慰謝料請求したってさ。後からわかったからね。放射能はもし出たらば、高いところでなく、低いところ行けって。東電の安全教育で教えられていたのにだよ。
――確かに線量の高いところへ避難させたとニュースになりました。
証言／高線量地と知らず避難／福島・浪江 沿岸部住民８０００人－河北新報
津島行った時、放射能って考えはなかった。地震だけだったからな。原発からぼーんって煙が上がった。あれで湧き上がった。
今必要なこと
――最後にお伺いします。この１年で良くなったこと、少しはマシになったこと、そして足らないことは何でしょうかうーん。俺はだよ。俺は諦めた。仕事とかも、何することもないから。
警戒区域が解除されたばかりの地域にあったコンビニエンスストア。ATMが荒らされていた。 写真一覧
――今日、福島のいろんな所を見てきた感じでは、風景は昨年6月とそんなに変わっていませんでした・・・
除染とかで人が戻りつつあるっていうけど、一通り除染しましたって言って、３ヶ月間かそこら数値測って、それを４倍して１年に浴びる何ミリシーベルトですよって。それだって前と同じかわからないじゃないですか。雨が降って山から流れてきて、これから数値が上がるかもしれないのにって。
――今一番の不安というかいらだちは、この後のことが決まらないことですか？
そうですね。それがはっきりしないと。
――誰も決めないんですね・・・
仮設にいられるのが１年伸びたって３年ということだから。そんなことはどうでもいいんですよね。
――ありがとうございました。
仮設住宅の元気な子どもたち 写真一覧
