※この記事は2012年03月30日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第217回

　現在、10万人以上のフォロワーを持つ、NHKの堀潤アナウンサーのアカウントが、閉鎖するという。(*1)

　このアカウントはBizスポのアカウントであり、堀潤アナウンサーが番組を離れるということで、閉鎖が決定されたようだ。

　これに対し、ジャーナリストの津田大介を始め、多くの識者から様々な反応があがった。(*2)


　まず、私は今回の「nhk_HORIJUN」アカウントの閉鎖をNHKが要請し、堀潤アナウンサーが受けたことに関しては極めて妥当であり、基本的には何の問題も生じていないと考える。

　理由としては、堀潤アナウンサーが自らが、アカウントはあくまでも「Bizスポ」というNHKの番組としてのアカウントであると表明していること。また「nhk_HORIJUN」というアカウント名を考えても、このアカウントの所属は堀個人と言うよりも、NHKの側に所属していると印象が強いことによる。

　もし逆に、堀アナウンサーがこのアカウントを「個人のものである」と考えていたとするのであれば、このアカウントは相当脇が甘いと言わざるを得ない。

　先程も述べたとおり、このアカウントはNHKに所属している印象が強すぎる。また、声優さんのブログのプロフィール欄などには「このブログは個人のもので、所属事務所とは関係ありません」という一文が添えてあり、たとえ事務所の移籍などがあってもブログを閉鎖する必要がないような予防線が貼ってあるが、このアカウントのプロフィール欄などに「このアカウントは堀潤個人のものです」という表明はされていない。

　故に、少なくともこのアカウントについて、NHKと堀潤アナの双方には「このアカウントはNHKの所属」という認識があったはずであり、そのことに対して他者が批判を加える余地はどこにもないと、僕は考える。


　しかし、では今回の件は批判をした人たちの完全な勇み足であったのか。僕はそうとは思わない。

　なぜなら、問題が「nhk_HORIJUN」というアカウント名だけの問題であるならば、堀アナウンサーが「このアカウントが使えなくなっても、個人としてTwitterを使いたい」と思えば、アカウント名を変更してnhkを消せばいいだけの話である。もしくは、このアカウントは完全に返上して、改めて個人のアカウントを取ってもいい。

　しかし、今回堀アナウンサーはそうした選択をせず、単純に「公式のアカウントだから」として閉鎖を決定してしまっている。つまりそこには本来あるべき「堀アナウンサー個人」という問題、すなわち「NHKという組織が、そこに所属する個人がSNSを利用して情報発信をすることをどう扱うのか」という問題が、完全に抜け落ちてしまっているのである。

　今アメリカでは、雇用主が求職者に対して、FacebookのIDとパスワードの提出を求める事例が少なくないことが問題視されている(*3)。日本でも、FacebookやTwitterで会社や上司がフォローを強要するといったことは、よく耳にする。またソフトバンクが社員全員にTwitterの使用を命令したこともあった。こうした会社組織による、個人のSNSへのパワハラまがいの介入は今後更に大きな社会的な課題となっていく事は間違いない。

　そのような時勢の中で発生した今回の問題に、NHKという他のマスメディアよりも積極的、かつ効果的にネットの利用を進めてきた組織が、どのような対応をするのかに、ネット系に強いジャーナリストから注目が集まるのは当然である。そして、単純に企業の論理として「堀潤はNHKの一員であり、NHKのアカウントだから、閉鎖して当然」という単純な企業の論理でもってアカウントを閉鎖するという、全く問題意識の見えない対応に対して、批判の声が上がったのは、これもまた当然と言えよう。


　つまり、今回のNHKの対応に対して批判が上がっているのは、決して「nhk_HORIJUNのアカウントを守れ！」という趣旨ではない。そうではなく「NHKに所属する個人が、実名や所属を明かしてTwitterなどを利用するという、個人の権利の問題を曖昧なままにするべきではない」という趣旨の批判であると、僕は理解している。

　これからも続々と出てくるであろう、SNSやブログ、個人のメールに対する企業からの介入、または個人による会社のアカウントやブログなどの過度な私用(*4)といった、あらゆるネット上での「公私混同」に対して、注意を傾けていく必要があるだろう。

*1：@nhk_HORIJUN（Twitter）
*2：議論：NHKアナのTwitterアカウント閉鎖が波紋、「公式アカウント」の在り方は？（BLOGOS）http://blogos.com/discussion/2012-03-28/nhk_HORIJUN/
*3：求職面接者にパスワード開示を求める雇用主にFacebookが法的対応を検討（RBB TODAY）http://www.rbbtoday.com/article/2012/03/25/87612.html
*4：事例としてはなかなか出てこないが、僕は「まんべくんのTwitter問題」あたりが個人による過度な私用の事例にあたると考えている。

プロフィール
画像を見る赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。