【特別寄稿】朝日VS巨人に思う「悲しきクローズドリーグとマッチポンプ報道」 - BLOGOS編集部
※この記事は2012年03月21日にBLOGOSで公開されたものです
小島克典氏。（写真右）
3月15日未明のウェブ報道にはじまり、同日朝刊の一面トップ記事でゴングが鳴った『朝日vs巨人』の裏金騒動報道合戦。この問題は野球専門家にはどう映ったのか。ライブドアの球団買収を手がけ、プロスポーツの法制度にも詳しい元ライブドアフェニックスＧＭ、小島克典氏に寄稿いただいた。 3月15日（木）の昼過ぎ。
BLOGOS編集部から巨人の契約金過払いに関するコメント依頼。
「NHKから取材の依頼か。久しぶりだな、でもNHKが何の用だ？」と思ってメールの送信元をよく見ると一字違いのNHNだった。古巣のlivedoorが法人格をなくした事実を再認識、さみしい気分になる。タラレバだが04年に球界参入していたら今もLDは元気だったろうか？などと思いつつ、早速某スポーツ新聞の先輩デスクに電話。
最初は「Ｋさんの乱、第2幕」程度に思っていたのだがシンプルな構図ではなさそう。知っている話と話せる話はベツモノなので「明日まで考えさせて欲しい」と返信を打つ。改めて朝日新聞の朝刊を読み直してみると『巨人、６選手に契約金36億円』の派手な見出しが目を引く。殊更なんで今頃？の疑問が残る。
3月15日（木）の晩。
書くか書かぬか、書くならどう書く？友人数名にヒヤリング。ある女史は「高額所得者にリストアップされることを避け、分割にした時点で後ろめたい。つまり裏金と同じ。女子的には『不潔！』のひと言に尽きます」と爽快なコメントをくれた。
元バリバリ球児からは「巨人だけではあるまいし、そもそも何のためのルールだったの？それより今回の報道を発端に巨人をヒール役としたエンタテインメント・ベースボール物語が読みたい！」とブッ飛んだアイディアをいただく。ともあれ少し輪郭が見えてきた、かな。
一夜明けて3月16日（金）。
朝日新聞が更なる攻撃を仕掛ける。一面トップ記事で『巨人、入団前に現金』とある選手が標的に。国や地方の権力者への献金ならまだしも、一企業が一個人に幾ら払おうと・・・しかもきちんと納税したのでしょ？と思うのは私だけか。それともスポーツは公共財だからダメなのか？ともあれ該当の選手が在籍していた社会人チームの当時の監督（野村克也さん）らに取材すればよいのにそれらの記事は見当たらない。朝日が巨人そして読売バッシングをしたいのは、世の劣情に訴えたいからなのだろうな。
NAVERのまとめ検索で茂木健一郎さんの連続ツイートを読む。
十何年も前の既成事実と、2007年に明文化されたルールの間で、違法か違法でないかを争う「不思議な水かけ論」へ発展しつつあることを知る。そりゃそうだ、なんで昔のことを…と改めて思う。であればそもそもどうして球界に最高標準額なる暗黙のルールができたのか、字解きすることに意味はありそう。BLOGOS編集長に寄稿承諾の連絡を入れる。久しぶりに原稿書きかな。
3月17日。
土曜の朝が雨だと少し損した気分になる。コンビニで朝日読売の２紙を買う。朝日新聞の巨人バッシングがスゴイ。
昨日まで2日続いた一面トップは別件に譲ったものの、引き続き社説、オピニオン欄、社会面でかなりの紙面を割いている。ここまで大騒ぎするネタか？それとも火元が「巨人軍たるもの、紳士たれ」を掲げる球団ゆえの野次馬根性なの？一方でこれまで沈黙気味だった読売新聞に目をやると、こちらも負けじと朝日の記事をバッシング。もはや朝日vs読売のメディア戦争じゃん。くだらないなと思いつつ、読売の記事は「巨人軍は、が、」の主語抜けが多いこと多いこと。読売と巨人は同格なの？別法人でしょ？マスメディアがスポーツチームを所有すると、批判記事が書けなくなるとはよく聞く話だけど、こういうことか。スポーツジャーナリズムが健全に機能しない、我が国のリアルな現状を垣間見た。
夜。
NPBとJリーグの比較でキーワードを整理する。
NPBは、12の株式会社が共同事業として市場を独占している「クローズドリーグ」でメンバーの合意や賛成なしに新規加入はできない。だからlivedoorはNPBに入れなかった。一方のJリーグは、資格を満たせば新規参入が可能な「オープンリーグ」で強いチームが出てきたら弱いチームは降格してもらう仕組み。ヒト・モノ・カネの流動性が極めて高く、選手獲得も自由競争（オープン）が基本ゆえJリーグにはドラフト制度がない。戦力の均衡機会となるドラフト制度がないオープンリーグでは、１）強いチームに優秀な選手が集まる傾向がある。２）だから上位クラブ（J1）は上位クラブの中に、下部クラブ（J2）は下部クラブの中に、自軍のレベルに見合ったライバルが出現しやすい構図ができ、それがリーグ戦を面白くする。これが一般的に言われるオープンリーグの原則である。
ではNPBはどうだろう。限られたチームによる戦いは、戦力の均衡こそが興味喚起の生命線なのでドラフト制度を導入している。今回問題となっている「最高標準額１億円＋出来高5,000万円」なる昔のルールは、あくまで12球団がマーケットを独占することによる独占禁止法への抵触を恐れた「申し合わせ」だった。
ところが2004年に西武の裏金問題が発覚し、事実上ルールが形骸化していることが明らかとなった。そこで法に明るい根来コミッショナー（弁護士/公正取引委員会委員長）が音頭を取り、NPB12球団が足並みを揃えて「倫理行動宣言」を採択してはじめて「上限」という断定的な表記が加わった。加えてマーケットを独占しているNPBは、本来であれば各地で誕生している独立リーグがライバルとなる筈だが、経済格差があまりに大きすぎてそうならない（同事業を良化しようという動きが生まれにくい）不幸もある。NPBは悲しきクローズドリーグとも言えるのだ。
3月18日（日）
彼岸の入りで実家に帰る。中日ファンの親父に手伝ってもらいながら15日~18日の朝読両紙のスクラップに精を出す。すると読売が日毎に紙面を割くのと反比例するが如く、吹っ掛けた朝日の紙面では該当記事が小さな扱いになっていることに気づく。そしてついに今朝、あれほどまでに大々的に報じた巨人の契約金過払い問題が、朝日の紙面では全く記事になっていなかった。見かねた親父がひと言。「まるで朝日はマッチポンプだな…」。果たして我が国に、スポーツジャーナリズム精神を持った報道機関は誕生するのであろうか？
プロフィール
小島克典（こじま かつのり）
1973年生まれ。神奈川県出身。横浜ベイスターズ、ＳＦジャイアンツ、ＮＹメッツを経てライブドアでスポーツビジネスを統括。立命館大学客員教授、尚美学園大学准教授を歴任。著書に「プロ野球2.0 (扶桑社新書 24)」など。横浜市在住。
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