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「水ようかん」といえば、一般的には夏の和菓子のイメージが強いと思います。暑い日にひんやりした水ようかんを冷たいお茶と一緒にいただくのは最高ですよね。しかし! その常識は福井県では当てはまりません。そう、同県では、水ようかんといえば「冬」の風物詩なんです。

 雪が降る寒い時期に、こたつに入って冷やした水ようかんに舌鼓を打つ…。これこそが、福井における“水ようかん道”なのです。売られているのは餅屋や饅頭屋にとどまらず、青果店や洋菓子店の店頭にも並ぶのだとか。

 何しろ、総務省が実施した平成27~29年の家計調査(速報値)によると、福井市の1世帯あたりのようかんへの支出金額は堂々日本一。しかも、それがほとんど冬季の水ようかんで消費されていると言われているのです。

 というわけで今回は、福井県民が愛してやまない水ようかんにまつわる不思議な習慣についてご紹介しましょう。

水ようかんのレパートリーの多さは日本一!?

店によって見た目だけでなく味も異なる。寒天とあんを分離せずに作るのがなかなか難しいそうだ

 毎年、福井県では11月になると、水ようかん専門店『えがわ』のCMが流れ始め、地元の新聞に広告が出始めます。これこそが、水ようかんシーズンの始まりの合図。福井のなかでも地域によって味や作り方が異なり、地元で生まれ育った人の多くは、それぞれ馴染みの水ようかんを持っているそうです。

 基本的な製法は一般的な水ようかんと同じく、砂糖とあんを寒天で固めて作るのですが、福井の水ようかんの特徴は、砂糖の量を抑えてあり、甘さ控えめなこと。また、寒天の量も少ないので、のどごしがいいのも特徴です。

 お店ごとに大きな違いが出るのは砂糖。主に上白糖、グラニュー糖、ザラメ糖、黒糖が用いられており、ブレンドして味に特徴を出す店も多く、また店によって厚さにも違いがあります。

 なお、福井県内でも「水ようかん」と名付けられている地域と、「丁稚ようかん」と呼ばれるのが一般的なエリアがあります。

 ちなみに丁稚ようかん発祥の地・滋賀県の近江八幡における丁稚ようかんは“蒸しようかん”のことを指しますが、福井における丁稚ようかんは、多くが水ようかんを意味します。ただし、近江八幡に近い敦賀市では「丁稚ようかん=蒸しようかん」となっているようです。なかなか複雑ですね。

冬に水ようかんを食べる理由は気温の低さにアリ

切れ目に沿って付属のヘラで水ようかんをすくって、そのまま食べるのが福井のスタイル

 では、どうして福井県では冬場に水ようかんを食べるのかというと、それは気温の低さに関係しています。福井で作られる水ようかんは糖度が低く、保存が効きません。そこで、気温の低い冬に廊下や縁側に置き、自然の冷蔵庫で保存していたのです。

 一般的な水ようかんとは違い、1枚単位で購入するのが福井ならではの文化です。年末年始などはみんなが5枚、10枚とまとめ買いして、家族みんなで少しずつ食べているそうですよ。

13種類の水ようかんを食べ比べ

北海道産の小豆を使用している店が多く、小豆に合った作り方をしないと美味しい水ようかんができない

 今回、福井県内にある13店舗の水ようかんを食べ比べてみました。これだけの水ようかんを食べ比べる機会は、福井の人でもそうそうないはずです。

 まず、驚かされたのは、店ごとにパッケージがまったく異なる点。最近でこそ真空パックで販売するところもありますが、紙の箱などに入れて上から透明フィルムを載せるという古典的な包装が多いのだとか。

紙の箱の場合、蜜漏れしてしまうのが難点。とはいえ、1つの商品にこれだけいろんなペッケージがあるのは面白い

 東京の人に好まれているという前出の『えがわ』や『久保田製菓』の水ようかんは、黒糖を使用しておらず、かなりあっさり味。口どけも良く、普段食べている水ようかんとはまた違った印象です。ほかに印象的だったのは、もともとは和菓子店だったという『シュトラウス金進堂』の水ようかん。黒糖ではなく三温糖を使っており、みずみずしい口当たりでした。

 逆に、黒糖が強めなのが『お菓子処 丸岡家』と『餅の田中屋』の水ようかん。ほかにも、あずきの味が強い『奥越菓庵 やまうち』や『コダマ製菓』、日本三大葛の一つ「熊川くず」を使う『笑福堂』など、店ごとに本当に味や口当たりが異なっていて、そのバリエーションの豊かさに驚かされます。

 冬はおこたで水ようかん――そんな福井ならではの食文化を、ぜひ一度体験してみては?

●著者プロフィール

今西絢美
「おいしいものナビゲーター」として、調理家電や食に関する記事を執筆。フードツーリズムマイスター、利酒師の資格も持つ。ウェブサービスやアプリのトレンドも絶賛追跡中。コンテンツ制作会社「TEKIKAKU」取締役。