「コロナを軽視し続けたトランプが、最後はコロナに泣く――そんな因果応報な結末も見えてきたように思うのです」と語るモーリー氏

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『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、新型コロナウイルスに感染したトランプ米大統領について語る。

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入院からわずか3日で退院し、ヘリコプターでホワイトハウスへ帰還すると、バルコニーでマスクを外してみせたトランプ大統領。「新型コロナに勝った強い指導者」を演出したわけですが、その映像はいつものような"つくり込み"が不十分で、言葉を選ばず言えば「ショボい」という印象を受けました。

"トランプひと筋"な人たちにとっては劇的なカムバックだったでしょうが、リベラル層のみならず無党派層でも、「魔法が解けた」ように感じた人は少なくなかったのではないでしょうか。

僕が思い出したのは、東欧のルーマニアの革命前夜――1989年12月21日に首都ブカレストの旧共産党本部庁舎前広場で、10万人を動員して行なわれた独裁者ニコラエ・チャウシェスク大統領による最後の大演説です。東欧の共産主義独裁者とアメリカのデマゴーグ大統領を比較するのはかなり乱暴な面もありますが、まあ聞いてください。

意気揚々と語りだしたチャウシェスクですが、1分ほど経過すると、民衆から罵声(ばせい)が上がり始めます。5日前に多数の死者を出したデモ隊と治安部隊との衝突、「ティミショアラ事件」に抗議する声でした。

自身を礼賛(らいさん)する"つくられた歓声"のなかに、わずかに響くノイズ。それは次第に大きくなり、そして爆発音が......。チャウシェスクは言葉を失い、演説は中断されました。

国営テレビの生中継は、庁舎を遠くから映した画面に突如切り替わりますが、マイクはオンのまま。聞こえるのは民衆の怒声、狼狽(ろうばい)するチャウシェスクの力ない言葉、そして妻のエレナ副大統領が民衆に向けて発する「静かにしなさい!」というむなしい叱責(しっせき)です。

約2分後、画面には再び演説を始めたチャウシェスクが映りましたが、彼はひどく動転していた。その瞬間、24年にわたり偉大な指導者として君臨してきた人物が、等身大の老人にしか見えなくなってしまったのです(4日後、彼と妻は銃殺刑となりました)。

まだ11月3日の米大統領選挙まで何があるかわかりませんが、31年前のチャウシェスクがそうだったように、あのホワイトハウスでの映像はトランプの"虎の威"がはがれた瞬間だったのかもしれません。

連邦最高裁判事に超保守派のエイミー・コーニー・バレットを指名したトランプは、コロナに感染する直前まで、有利な状況をつくり上げつつありました。大統領選前にバレットの承認手続きが完了すれば、最高裁判事は9人中6人が保守派となるからです。

激戦州で再集計が必要なほどの接戦にさえ持ち込めば、最高裁に結論を求めて結果を歪めることもできた。2000年に共和党のブッシュ陣営が選挙人制度の虚を突いて、より多くの票を獲得した民主党のゴア陣営を負かしたように。

しかし、トランプ本人と共に複数の共和党上院議員がコロナに感染したことで、最高裁判事の承認投票が大統領選の前に行なわれない可能性も出ています。また、感染後のトランプのあまりにも不規則な言動により無党派層が離れ、激戦州でも接戦に持ち込めないかもしれません。

繰り返しますが、選挙は最後までわかりません。ただ、コロナを軽視し続けたトランプが、最後はコロナに泣く――そんな因果応報な結末も見えてきたように思うのです。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!