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 人生には、大きなお金が必要になる場面がある。そんな出費に対し、国や自治体がさまざまなサポートを用意していることをご存じだろうか。

「行政のサポートには、大きく分けて、助成金や補助金などの『もらえるお金』と、支払った税金が控除される『戻ってくるお金』があります。こうしたサポートは、申請しなければ受けることができないのです」(ファイナンシャル・プランナーの井戸美枝氏)

 知らないばかりに損をしている人も多い「もらえるお金」「戻ってくるお金」。ファイナンシャル・プランナーの風呂内亜矢氏は、それらは給与明細の中にも “隠れて” いるという。

「健康保険・介護保険・厚生年金・雇用保険・所得税・住民税と、給与明細を見ると、いろいろな名目で天引きされています。それらのお金は、さまざまなサポートを受けるための原資で、『事前に差し引かれている金額だ』と考えれば、納得しやすくなるのではないでしょうか」

「どうせ払わなければならないものだ」と諦めていた保険料や税金も、さまざまな制度を利用するときのために、国や自治体に “預けている” お金。「申請すれば、“返してもらえる”」と考えればいいのだ。

「制度を理解することで、保険の入りすぎなど、過剰な備えや支出をしなくてすむことにもなります」(風呂内氏)

 以下で紹介するのは、前出の2人のファイナンシャル・プランナーの監修による、「戻ってくる保険金」の決定版である。損をしないためにも、あらためてチェックしてみよう。

【雇用保険】
●労災保険の療養(補償)給付/申請先:指定医療機関、労働基準監督署など
 仕事による過労が原因で病気になったり、通勤途中で事故にあって怪我をしたりした場合、労災保険が適用される。労災保険の申請をすれば、治療にかかる費用が労災保険から支給されるので無料になる。アルバイトやパートでも支給対象になる。

●労災保険の休業(補償)給付/申請先:労働基準監督署
 仕事上の病気や怪我が原因で仕事を休まざるを得なくなり、休業期間に給料が出ない場合は、労災保険から給付金をもらうことができる。
 給付金の額は、給付基礎日額(平均賃金)の80%。しかも非課税のため、実質的に支給額は給料とほとんど変わらない。休業給付は、個人で請求しないともらえないので注意が必要だ。

●高年齢雇用継続基本給付金/申請先:ハローワーク
 少子高齢化で、「希望者は65歳まで原則雇用継続」が当たり前になっているが、60歳以降は賃金が減額されることが多い。その減額された賃金の一部を補う制度。
 雇用保険の被保険者であった期間が5年以上の人の賃金が、60歳時点の賃金の75%未満に低下した場合に、受け取ることができる。給付申請は、労使間で協定を結んだうえで、会社が申請する。

●失業給付(雇用保険の基本手当)/申請先:ハローワーク
 失業給付を得るためには、離職の日以前の2年間に、雇用保険料を12カ月以上支払っている必要があるが、会社都合による失業の場合などは、離職の日以前の1年間に6カ月以上の支払いがあれば認められる。
 給付額については、「離職直前の6カ月の毎月賃金の合計÷180」で算出される「賃金日額」に、50〜80%の給付率などを掛けたものが、1日あたりの基本手当日額となる。これを、給付日数ぶん受け取ることができる。

●再就職手当/申請先:ハローワーク
 失業給付(基本手当)の支給日数を残した状態で、早めに新しい就職先を見つけることができたときに支給される。
 失業給付の給付日数が、所定の3分の1以上残っていれば「基本手当の支給日数」の60%が、3分の2以上残っていれば70%がもらえる。それぞれ、上限日額は6165円だ。

●技能習得手当(受講手当・通所手当・寄宿手当)/申請先:ハローワーク
 離職した人は、ハローワークで求職の申し込みをすると、「公共職業訓練」を受講料なしで受けることができる。公共職業訓練を受けると、基本手当に加え、1日500円の受講手当(最高2万円)のほか、訓練施設に通うための交通費(月額最高4万2500円)や、宿泊が必要な場合は寄宿手当(月額最高1万700円)が支給される。

●広域求職活動費/申請先:ハローワーク
 遠方に就職するための活動をしたときに、利用できる制度。鉄道、船、航空、車の交通費と、宿泊料が支給される。
 雇用保険の受給資格者で、「ハローワークが紹介した企業への求職活動であること」が前提となる。また、雇用保険の受給手続きをおこなっているハローワークと、紹介された企業を管轄するハローワークとの距離が、400km以上ある場合が対象となる。

●介護休業給付/申請先:ハローワーク
 雇用保険に加入している人が、家族の介護のため仕事を休まなければならなくなったとき、給付が受けられる。
 支給される額は、「(休業前6カ月の総賃金÷180)×30日」で計算される賃金月額のうち67%。常時介護を必要とする家族1人に対して、支給日数は通算で93日だ。

●受給期間の延長・地域延長給付/申請先:ハローワーク
 病気、出産、介護などの理由で、離職後すぐに働くことができない場合、その期間は失業給付を受けられないが、そのぶんだけ受給期間を延長させることができる。また、雇用機会が十分ではない地域に住んでいるため、給付期間中に職を得られない場合は、給付日数そのものが延長される制度も。

 次のページでは、介護保険・健康保険の制度を紹介する。 

【介護保険】
●住宅改修予防給付、住宅設備改修給付/申請先:市区町村
 介護認定を受けていなくても、自治体によっては受けられる給付。65歳以上で、日常生活が困難な高齢者が、自宅で生活しやすい環境を整えるために、バリアフリー改修工事をおこなうと給付されるケースがある。
 対象となる工事は、階段やトイレ、浴室などへの手すりの取りつけや段差の解消など。給付額は改修費用の80〜90%で、上限は20万円程度。

【健康保険】
●高額療養費制度/申請先:病院窓口、健康保険の窓口
 支払った医療費が一定限度を超えた場合、お金が戻ってくる。自己負担限度額は、年齢と収入によって変わる。年収400万円で1カ月の医療費が100万円の場合、自己負担限度額は8万7430円。
 100万円の医療費のうち、健康保険が適用されると窓口負担は3割の30万円だが、そこから自己負担限度額8万7430円を引いた、21万2570円が戻ってくる。

●傷病手当金/申請先:健康保険組合、協会けんぽなど
 勤務先の健康保険に加入していることが前提で、医師の診断書が必要。業務外の病気や怪我で、連続する3日間を含む4日以上療養中の場合、その生活保障として、4日め以降、給料の3分の2の額が最長で1年6カ月間支給される。標準報酬日額が9000円で、60日間休んだ場合、34万2000円がもらえる。

いどみえ
1級ファイナンシャル・プランニング技能士。著書に『超ど素人がはじめる資産運用』(翔泳社)など

ふろうちあや
社会保険労務士・産業カウンセラーとしても相談・講演・執筆。著書に『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など

(週刊FLASH 2020年2月11日号)