どうしていつもうまく行かないのだろう。

気がつけばアラサーにもなり、恋愛ならいくつも重ねてきたはずなのに…。

なぜかいつも男に振り回される。逃げられる。消耗させられる。幸せとは程遠いダメ恋を繰り返してしまう。

一体、何がいけなかったのか。どこで間違えてしまったのか。この連載では、自身のダメ恋を報告してくれる女性の具体例を基に、その原因を探っていく。

これまで浮気を許した女、プロポーズされない女、長文LINE女、自称・イケてる美女、日陰の女、捨て犬系女、結婚が破談になった女、立場逆転される女、召使になった女、現状維持女、チヤホヤ女、バツイチ女を紹介した。さて、今週は?




【今週のダメ恋報告者】

名前:深谷まりえ(仮名)
年齢:30歳
職業:フリーアナウンサー
住居:高輪台


ダメ恋報告No.13「私、ドMなんです」


「私、先週彼と別れちゃったんです」

東京ミッドタウンの『ル・パン・コティディアン』にて、まりえはニッコリと微笑みながら、甘い声で悲報を口にした。

アナウンサーというよりは、アニメのキャラクターを彷彿とさせる声である。

3 年前まで地方局のアナウンサーを務めていたが(契約社員であったらしい)、現在は主に司会業を中心に、ちょくちょくテレビの仕事もしているという。

「でも...落ち込んでても仕方ないので。私ももう30歳だし、はやく素敵な旦那様を見つけないと!」

失恋直後とは思えないテンションで、まりえは楽しそうに語り始めた。

温和な笑顔に、可憐で明るい雰囲気。絶妙な長さで切りそろえられた前髪とゆるくウェーブしたロングヘアが、彼女のタレ目が印象的な童顔を完璧に引き立てている。

明らかに“モテ代表”といった外見とキャラをしているまりえだが、彼女は致命的な“ダメ恋”気質の持ち主であるようだ。

「実は、昔から友達に死ぬほどダメ出しされるんですけど...。私、ドMなんです」


自称ドM女の、驚くべき“尽くし”オンパレードとは...!


私は、家来...?


「私が好きになる人って、いつもワガママで、怒りん坊ばっかりなんです」

ドM発言には一瞬ギクリとしたが、まりえはどうやら“俺様系”の男に惹かれるらしい。

好きなタイプは“男らしい人”“尊敬できる人”とのことだが、現実の男は気質が少々ズレてしまうのが彼女の大きな悩みである。

「先週別れた謙太郎もそうでした。最初はそんな人じゃなかったのに...」

元彼・謙太郎とは1年ほど前に友人主催のBBQで出会ったという。

率先して肉を焼き参加者に気を配る彼はリーダー感に溢れており、まさに理想の男だった。

「謙太郎は面倒見が良くて、“俺について来い”ってタイプの人でした。少なくとも、付き合いたての頃は...」




「彼って、元々いろんなスキルが高い人だったんです。掃除も料理もできるし、何をしても器用でした。でも、それを私にも強要するようになったんですよね」

靴下の畳み方、グラスの洗い方、味噌汁の味付け。

飲食店の経営者であった謙太郎は何事にも感度が高く、素人のまりえの家事にも細かく口を出した。

「家事とかマッサージとか、色々と頼まれるのは全然苦じゃないんですよ。でも、いつの間にか家来みたいになっちゃうのはやっぱり違和感があって...」

まりえは眉間にシワを寄せて勢いよく喋り始めたが、“マッサージ”という言葉が引っかかる。

「あ、元彼には毎晩マッサージしてあげてたんです。ああだこうだ指摘されながら、最後にはタイ古式マッサージの資格まで取ったので、私かなり上手いんですよ」

再びニッコリと微笑むまりえだが、彼女の家来っぷりはそれだけでは止まらない。

「あとは彼の仕事上、冠婚葬祭のお手紙やお礼状を書くことも多いからって、ペン習字も習っていつも私が代筆してました。達筆じゃないと格好つかないって言うから。

もっとありますよ。彼、仕事仲間とホームパーティーするのが好きだったんですけど、ただの手料理じゃ味気ないからって馴染みのお鮨屋さんに弟子入りするように言われて、私、修行してお鮨も握れるようになっちゃいました」

もはや自慢気に語り始めたまりえだが、それほど男の言いなりになることに苛立ちは感じないのだろうか。

「うーん。私って何なんだろう...って思うときもありますけど、“まりえを頼りにしてるだけ”とか“嫌ならいいよ”って強気な態度を取られると、“そうだよね、ごめんね”って言うこと聞いちゃうんです、私。でも...」

まりえは一瞬だけシュンとした表情を見せたが、その後、まさに“ドM”の真髄に迫るセリフを口にした。


とことん尽くし体質のまりえだが、とんでもない逆襲が始まる...


自称ドM女の逆襲


「でも...。そうやって色んなことを学べる機会って、大切だと思いません?結局は自分のためになるし、やっぱり好きな人の期待に応えるのは幸せだし」

驚くべきことに、まりえは男の家来に成り下がったことを特に後悔も悲観もしていないのだ。

“ドM”の真髄とは、底抜けにポジティブであることなのかも知れない。

「過去の元彼も、同じような人が多かったです。その前の彼も経営者だったんですけど“会社の決算書くらい読めるようになれ”って怒られて簿記の勉強もしたし、学生時代の彼には一緒にツーリングしたいって言われて二輪免許も取得しました」

もはや、家来というより“芸達者”である。

「友人からは、もっとまりえを幸せにしてくれる人と付き合った方がいいよって、よく男性を紹介されるんですけど...。優しくて甘やかしてくれる人じゃ、自分が成長できないじゃないですか。物足りなくて、好きになれないんですよね」




話を聞く限り、まりえの理論には説得力がなくもない。

しかしそれならば、どうしてそんな元彼と1年足らずで別れが訪れたのか気になるところだ。

「あ、別れを切り出したのは私からです。...そういえば、過去の元彼もみんな私からサヨナラしてるかも」

“家来化”が進むうちに男に飽きられるパターンかと思いきや、意外にもそうではないらしい。

「尽くすのは良いんですけど、だんだん当たり前になるのが嫌なんです。謙太郎と別れたときは、彼のお部屋を掃除中で空気の入れ替えをしてたんですけど、帰宅した彼に“エアコンが付いてないから部屋が暑い”って怒られて...」

まりえは「ごめんね、少し待ってね」となぜか謝罪したそうだが、彼女の従順さに胡坐をかいていた謙太郎の機嫌は直らなかった。

「そのとき彼、“お前は何のためにいるんだよ”って言ったんです。その瞬間、気持ちがスーッと冷めちゃって。お掃除終えて、エアコンのスイッチ入れて、“帰ります”って部屋を出て、その後お別れのLINEして終わりです」

淡々と語るまりえだが、もちろん彼は後に謝罪し、当然ながら復縁を迫ったそうだ。

「でも、その時はもう遅いんです。だって、もう恋愛感情は冷めてますから。そこまで空気が読めない男だったんだから、仕方ないですよねぇ...」

けれど男女関係とは、ケンカから話し合い、仲直りを経て深まるものではないだろうか。

基本的に男とは、すぐに調子に乗る生き物である。普段それだけ服従されていたら、多少図に乗るのも致し方ない気がする。

そもそも、少しずつ我慢を溜め、限界になったら別れる......を繰り返していたら、結婚になんて辿り着ける気がしない。

「好きな人だったら、もちろんケンカも話し合いも何も苦じゃないですよ。でも、ガラガラって心のシャッターが降りて好きな人じゃなくなったら、もうどうでもいいし。

しつこく引き留められたら気持ち悪くて顔も見たくなくなるし、やっぱり仕方ないですよねぇ...」

まりえはこれまでの甘々なドMエピソードから一転、ゾッとするほど冷ややかな声で言い放つのだった。

―Fin