薬剤師のブラック化も社会問題に(写真はイメージです)

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 地方では人材不足、都市部では人余り状態といわれる薬剤師。近年では薬のネット販売や医療費削減をめぐって批判されることも多い薬剤師という職業だが、一方で別の問題も浮上してきている。薬科大学を出て製薬会社に正社員として勤務すれば年収1000万円超も夢ではないといわれる一方で、難関の薬剤師資格を取得しながら、30代後半で年収500万円にも満たない者がいるからだ。そんな“負け組”薬剤師の実態に迫る。

「医者と同じく地域医療の専門家として働ける。そう思って薬学部に入学して薬剤師になったのに……。仕事はパート店員と変わらないですよ」

 こう話すのは大手ドラッグストアの勤務薬剤師・Aさん(38歳)だ。関西の私立薬科大学を卒業後、ある中堅ドラッグストア兼流通店にパートとして採用。1年後、正社員となった。

「今、薬剤師は大学新卒の正職員採用なら月収30万円程度といわれています。パートだと時給2000円から4000円くらいが相場です。私が大学を出た15年くらい前だともっと低かった。今でも新卒で特にキャリアがなければ流通系チェーン店の場合だと時給1500円での採用も珍しくはありませんでしたから。もちろんスーパー店員としてレジ打ちもこなします」(Aさん)

 とはいえパートで時給2000円から4000円なら専門職としての収入としては恵まれているのではないか。苦笑しながらAさんが語る。

6時間勤務のうち、5時間はスーパー店員として勤務

「あくまでも『薬剤師として勤務した時間だけ』の時給です。たとえば1日6時間店舗に拘束されて1時間だけ薬剤師としてのシフト。残り5時間はスーパー店員としての時給850円ということもありました」(同)

 Aさんがパート勤務していた社会人1年目は、週5日間・1日9時間拘束、8時間労働という条件で勤務していた。だが、薬剤師としての勤務は酷い時には週のうち2時間ということもあった。ほかはパートのスーパー店員としての勤務だ。

「薬剤師のシフトを外れていても、店内放送で呼び出されるとすぐに薬売り場に飛んでいかなければなりません。今では登録販売者という資格もありますが、ま、要するに薬売り場担当の社員かパートですよ。呼ばれるときは、たいていお客さんからの相談。症状に見合った薬を紹介して終わり。ぶっちゃけ資格などなくてもできる仕事です」(同)

 薬剤師資格を持つ専門職としての待遇ではないと店長を通してAさんは本社に談判した。すると本社側からは意外な申し出が寄せられた。

「正社員になって欲しい──月給は25万円からスタート。週5日1日8時間勤務でお願いしたい」

正社員になると「使い倒される」薬剤師

 だが正社員となったAさんに待ち受けていたのは、パート時代よりも過酷な「スーパー店員」としての勤務だ。

「正社員なので残業代はつきません。すべて月1万円の調整手当てのみ。繁忙期にはレジ打ち、棚卸しもさせられます。どうも会社側は薬剤師を『資格を持った使い勝手のいい社員』という認識のようで。月給は今35万円をようやく超えたくらい。年収で450万円です」(Aさん)

 朝9時出勤、退勤は夜9時、一応、薬剤師資格を持っている専門職という扱いのため店長や副店長への昇進もない。だから昇給もさほどしない。

 今年、大手ドラッグストア、ツルハホールディングス傘下「くすりの福太郎」が展開する調剤薬局では、患者の薬剤服用歴を作成していない事例が17万2465件判明した。薬剤師の数が足りないことがその原因だとされている。

本社社員「儲かる薬を客に勧めろ」

「おそらく本社の社員が『業務の効率性』の名の下に薬剤師に無理を強いた結果でしょう。薬剤師が専門的知識、良心に基づいた助言も利益に繋がらなければすべて却下されますから。やはり医療は営利目的の企業とは相性が合いません」(同)

 Aさんによると、顧客の相談に応じ薬剤師として安価な薬剤を勧めると店長クラスから、「営利企業なのだから収益性の高い薬剤を推奨しろ」と叱られることがしょっちゅうあるという。

 安倍政権では成長戦略のひとつとして、「薬局を中心とした地域住民の健康拠点づくり」を掲げている。だがAさんにみられる流通店勤務薬剤師の待遇や「くすりの福太郎」の事案を見る限り、経済では成長しても健康拠点づくりでのそれはどこか不安が過ぎる。

 行き過ぎた規制緩和で住民の健康が損なわれないうちに、一店舗に何時間、何人の薬剤師が薬剤業務に専念するなどの歯止めを設けなければ地域住民、ひいては国民の健康が害される。急ぎ手を打つことが必要だ。

<取材・文/川村洋>