「日之丸街宣女子」(青林堂)より

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 <あの>有田芳生氏は民主党の国会議員であると同時に、最高の宣伝マンだった。

『悪質な差別扇動コミックーー岡田壱花・作、富田亜希子・画の『日之丸街宣女子』(青林堂)(注1)は、表紙帯から<不逞鮮人>というヘイトスピーチのかたまり(略)』

 と、有田氏が先ごろツィッターで批判した途端、amazonランキング3750位だった『日之丸街宣女子』が2位に浮上。以後も順調に売上を伸ばしているからだ。

 このコミックは主人公の女子中学生が、偶然にも<日韓断交>を求めるデモに参加。周囲の反応から、歪んだメディアや敵対勢力に対しての怒りに覚醒していくストーリー。有田氏が怒るだけあって、愛国保守勢力は美しく凛々しく描かれ、それに反対する連中は刺青をさらしつつ中指を立て、恫喝口調で叫ぶ姿が描かれる(注2)。

 こうした表現に対して、また作者の主張そのものに対する批判は自由だ。有田氏以外にも、抗議する人はいる。しかし書店に同コミックを「扱うな」と電話したり、作者が他作品を連載中の出版社にまで「そいつを使うな!」と脅迫が行くのは、明らかに言論・表現への弾圧だろう。

思い出す『はだしのゲン』騒動

 そこで思い出されるのが、今から約2年前の『はだしのゲン』(愛蔵版・汐文社)を巡る騒動だ。松江市教育委員会が市内小中学校対象の校長会で、同書を本棚に置かずに<閉架>(書庫に置く)とするよう求めた(注3)ことが始まりだった。

 『はだしのゲン』は、広島で被爆した作者・中沢啓治氏の実体験から生まれた有名な作品。原爆投下の惨状を描いた前半は素晴らしいが、証拠もない日本軍の蛮行(注4)を事実の如く描き、執拗に天皇陛下を誹謗する後半には批判も多く、評価が別れる。が、今に至るまで自由に読むことができる。騒動時は市議会からの指摘を受けた教育委員会が動いたわけだが、報じられるや否や、評論家や朝日新聞などの猛攻撃を食らった。いわく「言論・表現の自由を抑圧するな!」と……。 

 状況や登場人物が違うとはいえ、『日之丸街宣女子』への抑圧的な動きを批判した大手メディアは、筆者の知る限り無い。『はだしのゲン』が全国各地の小中学校に置かれるようになってから、少なくとも30年以上。せめて時間だけでもフェアにするならば、有田氏らは30年後から抗議を始めるべきだった。

(注1)日之丸街宣女子…「ひのまるがいせんおとめ」と読む。
(注2)刺青…反ヘイト側の刺青率は確かに高い。
(注3)閉架…学校長や保護者の同意があれば読めた。
(注4)蛮行…女性器に一升瓶を突っ込んだ等、正視に耐えない描写多数。

著者プロフィール

コンテンツプロデューサー

田中ねぃ

東京都出身。早大卒後、新潮社入社。『週刊新潮』『FOCUS』を経て、現在『コミック&プロデュース事業部』部長。本業以外にプロレス、アニメ、アイドル、特撮、TV、映画などサブカルチャーに造詣が深い。DMMニュースではニュースとカルチャーを絡めたコラムを連載中。愛称は田中‟ダスティ”ねぃ