熾烈なF1の世界で計17シーズンを戦い、通算15勝をマーク。2009年にはワールドチャンピオンにも輝いた。そんな名実ともに世界有数のトップドライバーまで上り詰めたジェンソン・バトンが2018年、日本最高峰レースシリーズのひとつ「スーパーGT」にフル参戦する。


チームクニミツからスーパーGTにフル参戦するジェンソン・バトン

 昨年8月、バトンはスーパーGT第6戦「鈴鹿1000km」にMOTUL MUGEN NSX-GT(チーム無限)でスポット参戦した。その後、ホンダのモータースポーツ部長である山本雅史にバトン自らが連絡を取り、「2018シーズンのことで一度、しっかりと話す機会を作ってほしい」と打診。そこから、本格的なフル参戦交渉が始まったという。

 そして昨年12月、ツインリンクもてぎで行なわれたファンイベント「Honda Racing THANKS DAY」にて、バトンは2018シーズンのスーパーGTフル参戦を表明。さらに年が明けた1月12日、ホンダの2018体制発表でチームなどの詳細も明らかとなった。所属チームはチームクニミツ。マシンはナンバー100のRAYBRIG NSX-GT。コンビを組む相棒は山本尚貴。2018シーズンの内容が具体的に見えてきたことで、バトンへの注目度はさらに高まった。

 F1という世界最高峰の舞台で戦い続けていたバトンが、なぜスーパーGTにきたのか――。そんな疑問を抱く人も多いかもしれない。だが、バトンにとってスーパーGTは、長年「戦ってみたい」と思っていたレースカテゴリーのひとつだったという。

 鈴鹿1000kmにスポット参戦した際、バトンは今後のレースキャリアについてこのように語っていた。

「ずっとF1に参戦してきて、2017年は少しゆっくり休みたいなと思っていた。だけど、F1モナコGPでのスポット参戦(インディ500参戦で欠場したアロンソの代役)と、今回の鈴鹿1000kmで久しぶりにレーシングカーに乗って、『自分はレースが大好きなんだな』と再確認することができたんだ」

 昨年の段階では、さまざまなレースカテゴリーへの参戦を視野に入れていたようだ。ただ、そのなかでもスーパーGTへの興味は以前から高かったという。フル参戦に向けてバトンと話し合った山本モータースポーツ部長は、今回の経緯をこのように語ってくれた。

「JB(ジェンソン・バトン)は日本のレースというものを本当に真剣に捉えてくれていて、スーパーGTもすごく面白いと言ってくれました。鈴鹿1000kmが終わった後、彼から『シリーズ全戦に出てタイトルを狙いたいから、一度ちゃんと話す機会がほしい』と連絡があり、そこから(フル参戦に向けた)話が本格的に始まって、一番長く話をしたのはF1日本GPのときですね」

 この話からもわかるように、バトンは興味本位だけでスーパーGTに参戦するのではなく、真剣に年間チャンピオンを狙っているのだ。所属チームの選定についても、「チャンピオン獲得が狙える体制」を前提に話が進められたという。

 山本モータースポーツ部長は、バトンの意気込みについてこう語る。

「彼はとにかく、勝ちへのこだわり方がハンパじゃないです。所属は他のチームも検討しましたが、彼がF1時代にブリヂストンと一緒に仕事をしていたこともあり、今回は100号車(ブリヂストンを使用するチームクニミツ)に乗ることになりました。

 僕の役割は、(ホンダ勢)5チームがいかにいい状態でレースをできるか、という環境作り。ドライバーとのバランスやチーム体制など全体を見て、JBが入っても混乱しないチームを考えました。もちろん、チャンピオンを獲りにいかせますよ」

 バトンとパートナーを組む山本は、昨年末にマレーシアのセパン・インターナショナルサーキットで行なわれたテストから、いい手応えを感じているようだ。

「今のところ、彼とのコミュニケーションも順調にとれているかなと思います。始まる前は不安のほうが大きかったですが、セパンでテストをしてみたら非常にフランクな人で、ワールドチャンピオンというイメージがいい意味で崩されました。こういう選手だからこそF1で長く戦えたのだろうし、日本でもシートを獲得するチャンスが得られたのだと思います」

 2018シーズン体制が発表された今年1月の東京オートサロンには、バトンも出席して意気込みを語った。スーパーGT参戦を「新たな夢」と表現したのが、何よりも印象的だった。

「僕は長年F1で走ってきたけど、その一方で以前からスーパーGTに乗ってレースをしてみたいという思いもあった。その新しい夢が今年、ついに叶う。このカテゴリーは激しくてレベルが高い。才能あるドライバーもたくさんいるから、すごく楽しみだね」

 そして、所属するチームクニミツについて、バトンは過去の思い出をこう振り返った。

「スーパーGTを初めて見たのは10年前。そのときに見たレイブリックのカラーリングが好きだったし、レース界ではあまり見ない『100番』というゼッケンも印象的だった。それからスーパーGTをチェックしていたけど、ひそかに100号車を応援していたよ。だから今回、こうしてレイブリックカラーのチームクニミツのマシンからフル参戦できることは本当にうれしい」

 2017シーズンのチームクニミツは2度の3位表彰台を経験し、ホンダ勢では最高位となるチームランキング7位を獲得。いわばホンダ勢の”エースチーム”に抜擢されたバトンへの期待度は非常に高い。4月のシリーズ戦開幕まで複数回のテスト走行が行なわれるが、バトンもすべて参加する予定だ。

 昨年のスポット参戦時、バトンにはテスト走行の時間が限られていたため、ドライビングシートのポジションなども含めて妥協していた点があったという。だが、今年はシートポジションの懸念材料も解消済みとのことで、いよいよバトンの本領が発揮されるシーズンとなりそうだ。

 東京オートサロンのホンダブースの一角に設けられたメッセージボードに、ジェンソン・バトンはこう書き込んだ。

『10YEARS TOGETHER AND A NEW CHALLENGE SUPER GT “ICHIBAN”』
(10年間ずっと見てきた新しい挑戦――スーパーGT”イチバン”)

「もうひとつの夢」と語ったスーパーGTへのフル参戦。バトンは本気でチャンピオンを狙いにいく。



◆日本人F1ドライバー候補は2人。鈴鹿でトロロッソをドライブなるか>>>

◆飛び交う噂の真相。ホンダとマクラーレンが決別したホントの理由>>>

■モータースポーツ 記事一覧>>