伝えたいコア・メッセージは「短くまとめる」ことが肝心です(写真:sabthai / PIXTA)

「なんだかあの人の話は、頭に残らないな」……そんなふうに思うことはありませんか。もしかしたら、あなたの話が周りの人にそう受け取られていないとも限りません。そんなときは“プレゼンであらゆることが決まる”GE(ゼネラル・エレクトリック)の「15語」法が参考になります。
『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられているプレゼンの基本』の著者であり、GEの“世界最高のリーダー育成機関”と呼ばれる研修機関・クロトンビルで教鞭をとってきた田口力氏が解説します。

「簡潔、明瞭であること」が大切

人に何かを伝え、その人に承認してもらい、動いてもらうためにいちばん大切なのは、「簡潔さ」です。書類やスライド資料、実際の話し方、そして伝えたいメッセージ自体においても「簡潔さ」を念頭に置くべきです。

GEでは、社内のプレゼン研修の改訂をする際に、上級リーダーたちにインタビューを行いました。「GEで日々行われているプレゼンテーションで改善すべき点は何か」というシンプルな質問を投げかけたのです。

その結果、回答として最も多かったのが、プレゼンテーションの資料および話し方共に、「簡潔、明瞭であること」を求める意見でした(2番目は「情熱」を求める意見でした)。

細かい文字を埋め込んだスライドは、作るのに時間がかかりますし、そのような資料を見せられた意思決定者のほうも、話のポイントがつかめないので、ムダが生じるのです。

脳のクセという観点からも「簡潔さ」は大切です。難しいことを考えたり、わかりにくいことを理解する努力をしたりすると、エネルギーの消費量が増えるので、脳はそうしたことを自己防衛として「嫌う」のです。反対に、「わかりやすいこと」に対しては、エネルギーの消費を抑えることができるので「好ましい」と感じます。

一般的に「簡潔でわかりやすいこと」が良いことだと思っている人も多いはずです。それなのに、どうしてわかりにくい複雑な話し方に陥ってしまうのでしょうか。

それには大きく2つのポイントがあります。

「複雑な資料をつくってしまいがち」ということと、「自分が伝えたいことが自分でハッキリしていない」ということです。

いちばん伝えたい「コア・メッセージ」は何か

GEの幹部(およびその候補者)向けのプレゼンテーション研修の、「メッセージづくり」のセッションの冒頭で、私はいつも1枚の写真を見せていました。その写真は、指輪が入った箱を持った男性がひざまずいて、女性にプロポーズしているシーンを切り取ったものです。

プロポーズをするときのように「自分が伝えたいメッセージ」がはっきりしていて、そしてそのメッセージを実現したいという情熱がこもっているなら、その思いを伝えるために“複雑なスライド”も“資料”も必要ありません。研修の参加者に、プレゼンの「メッセージづくり」において最も基本的で大切なことを印象づけるため、私はその1枚の写真を使ってきました。

たとえばプレゼンをするようなとき、ほとんどの人は資料・スライドづくりに多くの時間を割きますが、自分のメッセージを簡潔で強いものに洗練するためには、あまり多くの時間を費やしていません。

そのような人が多くなってしまったのは、1990年代後半から急速に普及したパワーポイントの使い方に間違いがあったからです。パワーポイントのバージョンが上がっていき高機能化するに従って、それが「魔法の杖」であるかのように錯覚する人が増えました。そして、この「魔法の杖」を駆使して凝ったスライドをつくることが善であるという考え方が蔓延してしまったのです。

本来であれば、プレゼンの“武器”として存在するはずのパワーポイントが、いつの間にか“主役”になってしまっているのは残念なことです。

しかし、このようにパワーポイントの使い方を間違えてしまった根本的な原因は、簡潔で強いメッセージをつくらないまま、スライドづくりに取りかかってしまっていることにあります。

自分の話(プレゼン)全体に一貫性を持たせられる芯となる、しっかりしたメッセージを最初につくることが肝心です。では、どのくらい「簡潔」なコア・メッセージをつくるとよいでしょうか。

事例――「簡潔で強いメッセージ」

ここで、少し特殊な事例かもしれませんが、私が見て「簡潔で、力強いな」と感じたコア・メッセージを紹介します。

それは、1枚のスライドに、

「Green is green」

とだけ書かれたものです。2005年、GEは環境に優しくかつ経済合理性に富んだ製品づくりを推進していくという重点取り組み施策「ecomagination」(エコマジネーション、ecoとimaginationをくっつけた造語)を立ち上げました。私がGEに入社した2007年には、日本でもこの取り組みを本格化させるために、研修などの教育的な場面で、この施策を浸透させようとしていました。

その施策展開のために、アメリカから説明用のスライドが送られてきました。ファイルを開いてみると、余白だらけの1枚のスライドが目にとまりました。スライド上部のタイトル部分には「Green is green」、スライドの中央には「ecomagination」という文字だけが書かれ、そして右半分にはその取り組みを象徴する絵が小さくポツンと配置されているというものでした。

スライドのノートの部分に「この取り組みを展開するにあたって、CEOのジェフ・イメルトはこの1枚のスライドだけで記者発表を行った」との注意書きがありましたが、「Green is green」の説明は見当たりませんでした。「緑は緑」……当時の私は意味がわからず、ポカンとしてしまいました。

アメリカの同僚にメールで聞いてみると、いわく、「最初のgreenは環境ビジネス(green business)を意味しており、2つ目のgreenは、アメリカのドル紙幣のことだ」ということでした。アメリカのドル紙幣は元々裏側が緑色で、別称「greenback」といわれます。つまり、「Green is green」の意味は、「環境ビジネスは利益を生み出す」という、一見いやらしく思われかねないメッセージだったのです。

しかし、このメッセージが発表された場所を考えてみてください。メディアやアナリストたちが集まる会見の場です。彼らの関心は、企業業績(株価)がどうなるかということでしょう。しかも、多くの企業に見られることは、「環境に優しい製品づくりに取り組むと、コストがかかって業績が伸び悩む」という現象です。そんな懸念を払拭しながらも、具体的かつ簡潔に取り組みについて説明しなければなりません。

そのような状況の中、イメルトは、環境に優しい製品づくりと、企業がそこから得られる利益を犠牲にせずに両立させるというコア・メッセージを、この「たった3語」に込めたのです。

イメルトは記者発表の席で、具体的にこの取り組みをどう展開するかということについての詳細なプランも当然話しました。全体で約30分にわたるスピーチでしたが、使用したスライドはこの1枚だけだったのです。

「15語」以内――記憶に残るメッセージの法則

ここまで短い文でコア・メッセージをまとめるのは至難の業です。それでも、「短くまとめる」ことが肝心ですので、GEでは「15語」というツールを用いて、その語数の中でメッセージをまとめるように教えていました。

英語で15語ですから、日本語の場合は25〜30字くらいになります。英語でいうところの「15語」は、語数であって文字数ではないので誤解のないようにしてください。

私が教えるプレゼン研修でも、実際に使用した(もしくは使用する予定の)スライドを持ってきてもらい、そのプレゼンで伝えたいコア・メッセージを「15語」でまとめる演習を行います。

コア・メッセージを考えるときのコツがあります。それは、英語で表現する場合は、「How can we」で始めるというものです。そうすると、メッセージがまとめやすくなります。日本語の場合は、「どうすれば……」という言葉でメッセージを書きはじめます。あなたもこの要領で、実際に行った(行う)プレゼンのコア・メッセージを書いてみてください。

実はこの作業は、簡単なようで意外と難しいものです。実際にやってみると、スライドの表紙に自分で書いてあったタイトルと、コア・メッセージが一致しないこともよくあることです。

自分でつくったスライドからコア・メッセージを導き出す作業に悩んでいる研修参加者に対して、私は次のように質問します。

「自分自身でさえプレゼンのコア・メッセージがはっきりしないのに、それを聞かされる聞き手は、どうやったらあなたのコア・メッセージを受け止められるのでしょうか」

そもそも、「話す目的」が明確になっていますか?

実際に「コア・メッセージ」や「伝えたいことの全体像」を考える際に、最初に取り組むべきことがあります。

それは、「自分が話す目的」「プレゼンの目的」を明確にするということです。「そんなこと当たり前だ」という声が聞こえてきますが、意外とこの部分がしっかりと定まっていないプレゼンが多いのです。

プレゼンをする本人には目的が明確であっても、聞き手にはそれが十分に伝わっていないケースがよくあります。

私は、幹部向けのプレゼン研修では、「プレゼンの目的は大きく『1.説得すること』か、『2.情報を伝えること』のいずれかである」と教えてきました。もちろん、意思決定権者を説得するためには、その前段として情報を伝えることが必要になります(この2つの大目的をかみ砕いた中目的としては、「『意思決定』をしてほしい」「何かの『行動』を取ってほしい」「自分の提案を『受け入れて』ほしい」「情報の『共有』をしたい」の4つがあります)。

日本人が行うプレゼンでありがちなのは、本来の目的が「説得すること」なのに、前段の「情報を伝えること」で終わってしまうことです。

相手を説得するためには、具体的に「予算を2億円増やしていただきたい」とか、「本プロジェクトを立ち上げることを承認していただきたい」など、相手に取ってほしい「行動」をリクエストしなくてはなりません。そして、その行動を取ることについて、相手に賛同してもらうことが必要です。


ところが日本人は、謙虚すぎるのか奥ゆかしいのか、はたまた人に何かを要求することに慣れていないのか、具体的なリクエスト内容があいまいであることが多く見受けられます。ふわっとした「お願い」程度のことだけを述べて、「この後に私がお願いしたいことはお察しください」とでも言いたいような表情を浮かべる人もいます。

こうならないためにも、プレゼンの目的をしっかりと定める必要があります。

そして実際に話す(プレゼンする)際には、「最初にその目的を言ってしまう」ことです。

自分がこれからしようとするプレゼンの目的は、どれにあたるのかを考えてください。そのプレゼンの目的によって、メッセージのつくり方も、伝え方も変わってきます。まずはしっかりと目的を定めて、実際のプレゼン実施までの全行程の間、目的を見失ったり、ぶれたりしないように気をつけてください。